桜の記憶

 白い服の女は、俺が目を離した僅かな隙にすぐ隣まで移動していた。


 バクバクと暴れる心臓を押さえながら、正体を見極めるべく相手の顔を見上げる。


 俺の持ってきたコーラを掴み、目を大きくしながらこちらを見つめ返してきていたのは……。


「……さ、桜?」


 何のことはない。いつも顔を合わせる悪魔少女だった。


「びっくりした。いきなり大きな声出さないでよ」


 勝手にコーラのフタを外しながら、何事も無かったかのようあっけらかんと告げてくる侵入者。


「びっくりしたのはこっちだこの亡霊もどきが! 悪魔のくせにそんな白い服着やがって、変質者でも入り込んだかと思っただろうが!」


「別にあたしがどんな服着たって雄治には関係ないでしょ。何をそんな怒ってんのよ?」


 俺のあげる怒りの声に眉を寄せるだけのリアクションで返し、桜はコーラに口をつけた。


「怒るわ馬鹿! お前いつからここにいた? また窓から入りやがったな?」


 窓の鍵を確認すると、案の定かけられていない。


 まぁ、これ自体は自分のミスだが。

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