桜の記憶

「お待たせ。遅れちゃってごめんね」


 外へ出てきた有紀が、笑顔で走り寄ってきた。


「別に良いよ。当番の仕事終わったんだろ?」


「うん、人手が足りなくて手間取っちゃった」


 そう答え俺と目を合わせる有紀だったが、後ろに立つ桜が気になるのか不思議そうに小首を傾げてみせた。


「ああ、こいつも一緒に本屋行きたいって勝手に付いてきたから、二人で待ってたんだ。邪魔なら追い払うけど」


「ううん、それは別に良いけど……。夜月さん、何か怒ってない?」


 ふてくされてそっぽを向く桜を不審そうに見つめ、有紀が言った。


「気にすんな、大したことじゃないから。それじゃ行こうぜ」


 適当に手を振って誤魔化し、校門を出て歩きだす。


 当然ながら、周りには俺たち以外にも下校中の生徒がいる。


 ひょっとすると、女子二人に挟まれて歩いている自分は今かなり目立っているのではないか。


 三人並んで歩いている途中、ふいにそんな疑心暗鬼が沸き上がり妙に落ち着かない気持ちになった。

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