桜の記憶
「簡単にイメージするなら、見えない鍵がかけられてると思って。で、その鍵があたしたちの魔力。成長してより強い魔力、つまり鍵を備えればそれだけ多くの本が読めるようになる」
そこで、桜はまた俺に視線を戻す。
「どれだけ多くの本が読めるか。そういうのを基準に上下関係が生まれたりもするわ。この世界の権力やお金と似てるかもね」
「へぇ……」
俺たちの暮らすこの世界との相違に、少しばかり驚きを感じた。
たかが本という媒体一つとっても、こんなにも差違があるものなのか。
沢山読める本がある。或いは、沢山の本を既に読んでいる。
それは即ち、他の者より多くの知識と能力または魔術を宿すことになり、場合によっては他者を凌駕する力を手に入れることにもなる。
「なぁ、桜。お前は……」
「ん?」
悪魔の中ではどれくらいの実力があるんだ?
そんな疑問が浮かび上がったが、聞いて後悔するような返答をされるのも恐いと思い直して口を閉ざした。
代わりに、校舎を眺めて違う話題へ切り換える。
「有紀、ほんとに遅いな」
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