死霊術《ネクロマンシー》
第1話 呼び出し
コンコン
「失礼します」
べっこう飴色の重々しいドアをノックする。その部屋は、僕の所属する有志連合ギルドのギルドマスターの執務室だ。
数日前に、いつもの受付のおじさんに呼び止められ、何かと尋ねたら「ギルドマスター直々のお呼び出し」を受けたという訳だ。呼び出された理由については、直接ギルドマスターからお話を聞くように、と明言を避けられたのだ。
「おお。来たな。入れ」
ドアの向こう側からギルドマスターの呼びかけが発せられる。重厚な意匠が刻まれたドアノブを回し、部屋の中に入る。
「お疲れ様です。呼び出しという事でしたが、何か不手際でもありましたか?」
「まあまずは座ってくれ」
僕の問いかけには答えず、執務机の前の一人がけのソファに座る。僕もそれにならい、ギルドマスターの左前の三人がけのソファの端に座る。
「そんなに
ギルドマスターは僕をリラックスさせようと、少し砕けた言い回しで話をしようとしてくれる。
「さて……。キミをここに呼んだのには二つ理由がある」
二本の指を立てて、話を始める。一本を折って最初の話題に入る。
「ひとつは、
「……は?」
意味がわからなかった。僕が? 勇士に?
「最近の活動は、報告書で読んでいる。地道な作業から難のある討伐まで、しっかりこなしているからな。推薦するには十分だ」
「いやちょっと待って下さい! 僕なんかが
僕の反論は、ギルドマスターの手元にある報告書の束の「バサッ」という音で、いともたやすく遮られる。
「しかしな、国の方からも「早く空席を埋めろ」との指示が出ているのだよ。ギルドマスターとしても、その指示には逆らえん」
宮仕えの管理職の悲しい所だろう。
「もうひとつは、ギルドの方からの依頼をひとつ、受けてもらいたいという事だ」
二本目の指を折って、話の続きを切り出す。
「少々難しい依頼でね。なるべく信頼のおけるチームにやってもらいたいと思っていたのだ。そこで、キミたちに白羽の矢が立った、という訳だ」
立て続けに話題を二つも繰り出されて、混乱しないはずもない。僕は頭の中を整理しようと「う、うーん」とうなる。
その様子を見かねてか、ギルドマスターから要約した言葉が出てきた。
「つまりだな、『次の依頼をこなせば、
苦笑しつつ言い含めるように、ギルドマスターが話す。それでようやく理解ができた。
「ですが……、その依頼の内容次第では、僕らにはできない依頼で、断るかも知れませんよ」
至極まともな意見をギルドマスターに返す。だがそれを見越しての話なのだろう。すでに色々と調べてある資料の束が、僕の前に「バサッ」と置かれる。
「まあまずは、その資料を見てから判断してくれ。お前のチームにも関係がある話だしな」
「えっ? それってどういう……」
目の前にある資料の束が、その後、僕らのチームとの関係性を物語ってくれたのだった。
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