第41話  説得失敗



しばらく歩き、リズたちはフェードの街の中心部らしき場所に来ていた。


霧は晴れていて、街には公園や噴水など、人間界の街でもよくみるようなものがあった。




「私たちのところとあんまり変わらないね。」


「まぁこんなもんだろ。」




リズとチェスはそんなたわいもない話をした。


しかし、街には人影の一つも見えない。




時刻は夕暮れ時に差しかかろうとしていた。


自分達だったらそろそろ帰宅路につき始める時間である。




もしかしてフェードって絶滅寸前だったりするのかな?と、リズが思っているとガチャガチャと、扉を開く音が遠近から聞こえてきた。





よかった、もしもゴーストタウンみたいなところだったらどうしようかと思った。


リズは呑気にそんなことを考えていたが……




「なんでこんなところに人間がいるんだ!」





若い男性の声が聞こえてきた。


どうやら相当驚いているらしい。




声だけでもそれが伝わってくるほどだった。




「ほんとだ……。」


「なんでこんなところに人間が……。」


「まさか町長の身に何かあったんじゃ……。」




リズたちの周りにフェードが集まり始め、口々にいろいろなことを言い始める。


しかし、彼らの声を聞いているとなんだかこちらが悪者みたいな口で言うじゃあないか。




居心地の悪さを覚えながらも、自分達は彼らを説得するために来たんだからここで負けちゃダメだと、リズは自分に言い聞かせ。




「町長はいませんか!あなたたちの町長と話がしたいんですが!」




「町長を呼べ?」


「何をしでかすつもりなのかしら……。」


「きっとろくなことがない。」




聞こえてくる言葉に気分が悪くなりそうだ。


ざわざわとした中央広場、しかし杖をつくような音が聞こえてくると、先ほどまでざわめいていたフェードたちが一気に静かになる。




「人間がここに何の用じゃ。」




低くしわがれた声が聞こえてきた。


いかにも町長といった感じの声に、いかにも町長といった感じの姿の老人が出てきた。




「私たちはあなたたちを説得しにきたの。」


「おい!」




リズは自分達の目的を語っただけなのだが、チェスが焦り気味にリズに話すのをやめるよういってきた。


リズの言葉を聞いた途端、フェードたちはまたざわざわとし始めた。




「説得?」


「そもそもこんなところに人間がいるのはおかしいわ…!」


「早く追い出したほうがいい…!」




「追い出せ…!」




周りにいるフェードたちは口々に出てけだの、追い出せだのを口にしだした。


リズはなぜこんなことになったのか全く分からず、動揺していると




「話がしたいとか言えばよかったんだ!わざわざ人間が嫌いな奴に説得とかいったら面倒なkとになるに決まってる…!」




チェスは焦燥感に駆られたようにリズに何がまずかったのか伝えた。


そこまできて初めてリズは自分のしたことがどれほど面倒なことなのかに気づいた。




大昔人間に住処を追われたり非難を浴びせられてきた彼らの大半は今でも人間を恨んでいる。


そんな彼らは人間の言うことに信用を持てないのだろう。




説得なんて言われて、自分達が危険なことになるとでも思ったのだろう。




「お前たち人間の言うことは信用できん!儂らの先祖だってその言葉で騙されてきたんじゃ!今すぐここから去れ!」




「早く去れ!」


「二度とくるな!」




町長がリズたちに言葉を突きつけると、周りのフェードはそれに共鳴するかのように次々と似たような言葉をぶつけてくる。




「ちょっとみんなやめろよ!」





その時、聞いたことがある声が大きく響いた。


ざわめきが少しずつ消えていき、人々の目が声を発した人物に向いた。




「キキョウだ…。」


「変わり者のキキョウがなんでこんなところに?」


「どうして人間なんかを気にしてるんだ?」




どうやらリズたちが最初にあった狐のオプティルトの姿になれるフェードはキキョウと言う名前らしい。


彼の名前を初めて知ったリズたちだが、それよりも先にある疑問が浮かんだ。




「どうしてここに?」


「そりゃ君たちを追いかけてきたからに決まってるじゃないか!」




追いかけてきたからに決まってると言われても、リズたちは彼がなぜ追いかけてきたのかすら知らないのだ。


キキョウはぜえぜえと、荒く呼吸をしながらリズたちに自分がここまできた理由を伝えた。




「俺が散々止めたのに君たちは構わず家を出てくから、君たちがここにたどり着く前に止めてやろうと思ったのにこのザマだ。」




呆れた顔で、今にもため息をつきそうな声色でキキョウは言った。


しかし、別に聞き分けが悪いからここまできたわけではないのにな、とリズは言葉にした。




彼からは『君たち自分の言ったこと覚えてる?側から見たらあれ、聞き分けが悪いって言うんだよ。』と言われてしまった。




「キキョウはやっぱり変だ…。」


「人間に味方するなんて…。」


「おかしなやつだ。」




周りからは言いたい放題されているキキョウ。


あまりにも彼をバカにしたような、キキョウが変わっていて自分達が正しいとでも思っているような態度が気に食わず、チェスは彼らに文句を言おうとした。




しかし、キキョウはくるりと周りのフェードたちの方を向いて




「おかしなやつ?俺より君たちの方がよっぽど変わってる!考え方は一つじゃないのにまるで考えは一つしか無いとでも言うような君たちの方が、俺に言わせれば変だね。」




チェスはキキョウの行動にびっくりした。


まさか彼がここまで大衆を前にしてはっきりと物申すようなやつだとは思わなかったのだろう。




「やっぱりあいつは変わってる……!」


「町長の考えが答えだと言うのに……!」


「町長をバカにしているのか……?」




ガヤガヤと周りが騒がしくなる。


チェスとレオは次第に苛立ちを覚えた。




自分の思うことや考えを口にしただけでこの言われ様はなんだ?


この状況だとキキョウが浮ついた存在の様に見えるが、実際は周りがバカらしく、阿呆らしいだけに過ぎない。




少なくとも、レオとチェスはそう思った。




「なんと!キキョウ!其方は儂をバカにするのか!?」


「そんなこと一度も言ってない!俺は自分の考えを口にしただけだ!」




キキョウはこの場にいるのが辛くなり、すぐ近くにいたレオの手を引っ張ってその場から逃げる様に抜け出した。


レオを連れて行かれ、他の3人も慌ててその場から退散した。

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