第10話-立ち向かう若輩-
俺達を乗せたトラックは、昨日の試験地である都市部に到着した。
「よし。三人は索敵、まだ手は出しちゃ駄目だよ。目視したら報告してね。私達は機体の準備だキング」
「おお。頼んだぞお前ら」
「うっす! 行こうぜ」
「取り敢えず昨日みたいに三手に分かれて偵察しましょう」
「そうだな、発見次第連絡しよう」
「オッケー」
試験の時よりも気を張り巡らせ、俺達は散開した。最初に奴らを見つけたのはハングだった。
「こちらハング、セルを目視。北側の河原からこっちに向かってるわ。数は三、前に見た奴と同程度の奴が一体と、二回りくらい小さいのが二体」
「私達も向かうよ、三人は奴らを包囲する形で距離を詰めるんだ。慎重にね」
「私は北側のビルの屋上にいるわ」
あのビルか。だとしたらキングさんが家々を粉砕して、俺とレンジが攻防した少し先の辺りになるのか。
「俺はこのまま市街地と河原の境目辺りまで直進する」
「なら俺は南東側から回り込むぜ」
くしくも昨日、キングさんの前に姿を現した場所で俺は奴らを目視した。俺達と同じくらいのセルが二体、先導するような形で後方に大きな個体が見える。ジャックさんの危惧通り、奴らは辺りを見回す様な素振りを見せている。それに後方の一体は先導する二体と一体距離を保って行動している様だ。
「おいおい、何だよあいつら。俺も目視したっすよ。」
「俺もです。ジャックさんの想定、当たってそうです」
「チッ、厄介だな。お前ら下手に手出すなよ。どうすんだジャック」
「そうだね。連携を取られる可能性がある以上、奴らをそれぞれ孤立させて各個撃破が望ましいだろう」
「まず後方の奴を叩きたいとこだな。あいつが従えているなら逃がすわけには行かねぇ」
「俺達で小さいのを引き剥がします。時間稼ぎくらいなら何とか出来る」
「ゼロ、お前な……」
「いや、キング。それで行こう。その代わりあいつは速攻で倒すよ」
「はぁ……お前が言うならやってやる。お前ら、死んだらぶちのめすからな」
「任せてくださいよ、兄貴方」
「やりましょう」
「少しの間、頼んだよ」
「はい!」
「まずは私とキングで奥の奴を孤立させる。三人は私達に続いて、小型がこっちに来そうだったら気を引くんだ。それじゃ、行くよ!」
掛け声と同時にキングさんが飛び出した。手には瓦礫がある。腕を大きく振り、後方で沈黙を続けていたセル目掛け、投げつけた。セルは間一髪避けたが、そこには既に猛スピードで距離を詰めるジャックさんの姿が見えた。奴が体勢を立て直す頃には、ジャックさんの飛び膝蹴りが奴の頭部を捉えていた。セルは大きく吹き飛び河原を転げ落ちる。それに気付いたのか、二体の小型セルはそちらに向かおうとする。
「ジャックさんの予想通りね。私もそっちに向かうわ」
「俺達も出んぞ!」
「よし、行こう」
二体の近場に居た俺とレンジは飛び出し、射出式のワイヤーで足を絡めとる。
「そう簡単には行かせねぇぞ、掛かって来いよ」
レンジに続いて俺も構えを取る。レンジのその構えは以前とは違いキングさんの構えに似たものになっていた。しかし、キングさんとは違い、小刻みにステップを踏んでいる。レンジはセルの大振りな攻撃をいとも簡単に避け、素早く左右の拳で連撃を喰らわせた。俺ももう一方のセルの攻撃を抑止するように、振るおうとする腕や足に合わせて攻撃を入れていく。
「ゼロ、そういやお前の戦いを見るのは初めてだな。やるじゃねぇか」
「レンジこそ。随分様子が変わったな」
「みっちり叩き込まれたからな。しっかし硬ぇな、効いてる気がしねぇぜ」
レンジの言う通り、俺達から一時距離を取った奴らは平然と首を傾げる様な動きを見せる。そして不気味な程シンクロした動きで体勢を深く落とした。
「来るぞ……」
「おう、やるぞ!」
再び気を引き締め、迎え撃つ隙を狙う。
「……!?」
「くっ、何だってんだ!」
しかし、そんな気概を打ち砕くように、奴らの動きは激化する。代わる代わる互いの隙を殺す様に、先程とは比べ物にならない素早さで連撃を放ち続ける。俺達は成す術なく、防戦に徹するしかない。それでも何とか防ぎきれているのは、身が覚える程厳しく叩き込まれた訓練とハーミットさんの作り上げたこの武装のお陰だろう。
「これじゃ埒が明かねぇぞ! 隙がまるで無え!」
このままでは押し切られるのも時間の問題かもしれない。何か、何か策を……
「あんた達、まだ生きてる?」
余裕の無い頭で必死に思考を巡らせていたその時、ハングの無線が俺達の耳に飛び込んだ。
「生きてる? じゃ無えよ、お前何してんだ!」
「死んで無いなら聞いて。私に考えがある、一瞬で良いから隙を作って!」
「隙ったってな」
「やろう。やるしかない!」
「ああ、もう! 分かった、合わせるぜ」
依然として奴らの猛攻に防戦を強いられる中、一瞬のタイミングを探る。
「悪い!」
俺は奴らのポジションが入れ替わる瞬間、レンジを後方に突き飛ばし、姿勢を限界まで落とすと同時に回転足払いを放った。奴らは咄嗟に反応するも、体勢を崩しながら飛び避ける。そして、その先には俺が突き飛ばしたレンジが待ち構えていた。
「っしゃオラぁぁぁあああ!!」
左右の手で奴らの頭を鷲掴みにしたレンジはその勢いのまま地面に叩きつけた。
「二人とも、ナイス」
ハングの声と共に頭上から倒れた奴らの足を目掛けワイヤーが射出された。隣接した建物の屋上にはハングの姿が見える。
「そこ空けて!」
言うと同時に屋上から飛び降りたハングとは逆に奴らは空中を舞い、宙づりになった。
「はい、無力化っと」
地面にワイヤーのアンカーを突き立てながら言うハングを他所に、俺達は死地を乗り越えた感覚に胸を撫で下ろしていた。
「ふぅ、これ大丈夫なんだろうな」
「あの体勢じゃ、手が届いても引き千切る程の力は込めれないでしょう」
宙づりのまま踠く奴らを眺めながら話す二人。そろそろジャックさん達の方も決着がつく頃だろうか。
「向こうの様子を見に行こう」
「そうだな」
「私は一応残るわ。逃げ出されちゃ堪らないし」
「じゃあ頼んだ」
俺達は足早に河原へ向かい走り出した。
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