第8話-量られる力-
俺はキングさんの前に姿を現した。威圧感で実際よりも、その厚みのある体躯がより大きく感じる。
「やっと出て来たか。他の二人はどうした?」
「さあ、どうなんでしょう……ね!」
答え終わると同時にキングさんの左足にワイヤーを射出し巻き付ける。
「何の真似だ? 綱引きで俺に勝てるとでも?」
「今に分かりますよ」
次の瞬間、キングさんの眼前に爆弾が飛来した。キングさんの死角に回り込んでいたレンジが投擲したのだ。爆発を合図に俺は走り込み、右足の外側から周り、股下をスライディングでくぐるとアンカーを地面に突き立てた。そのままキングさんから距離を取る。
「動きは悪かねえが、ちと甘く見すぎだな」
足に絡まったワイヤーをいとも簡単に引き千切られた。流石に無意味だったか。爆弾ですら仰け反りもしなかった。キングさんはそのままスッと足元に転がる瓦礫の破片を拾うと左後方の路地を目掛け、投げつけた。
「うわっ! 危ねぇ!」
レンジの隠れていた場所だ。視覚からの攻撃を一瞬で見極めて居場所を突き止めたのか。
「レンジぃ! 基本はヒット&アウェイだっつっただろうが、攻撃したらすぐ場所を変えろ!」
キングさんは大きく溜息を一つつき、更に続ける。
「お遊びはこの辺で終いだ。こっからはチャンスなんてやらねぇぞ」
「レンジ! 退くぞ!」
「おう!」
俺達は全力で建物が残る後方に走り出した。
「次は鬼ごっこか、いいだろう」
「よし、追ってきてるぜ!」
「このまま行こう」
ポイントに向け、なるべく障害物が多い道を選び走り抜ける。しかし―――
「マジかよ兄貴!」
キングさんはフェンスや倒れた電柱といった障害物を次々なぎ倒し、破壊しながら追ってきているのだ。当然、俺達は避けたり越えたりしているから距離がジリジリ詰まってきている。
「マズいな……」
もう少しでキングさんの手が届く距離まで肉薄された時だった。建物の間を飛び移る人影が見え、再びキングさんの眼前で爆発が起こった。
「お待たせ」
「ハング!」
「おせぇぞ!」
「五月蝿いわね、早く行って!」
俺達はおとり役をハングに任せ、すぐそこまで迫ったポイントに走った。そこは雑居ビルが立ち並ぶ狭いT字路になっていて、角には五階建ての古びたビルがあり、一階が駐車場になっている。
「さっさと準備しちまおう」
「そうだな」
俺はその角のビルを曲がってすぐのところに低くワイヤーを張った。ビルと向かいの建物にしっかりとワイヤーの端を設置しピンと張る。レンジは一階の駐車場、その柱にありったけの爆弾を仕掛ける。
「ハング、準備が済んだ!」
「了解。こっちももう限界、投げ物が尽きたわ。誘導する」
「レンジ、いいか?」
「任せろ」
起爆スイッチを握り親指を立てるレンジに俺は頷きを返す。俺達はビルから距離を取り、身を隠した。
「ポイント到着。角を曲がるわ!」
ハングの姿を目視した瞬間、ビルの2階で爆発音が響き、砂煙が立ち込めた。
「何っ!?」
視界を奪われたキングさんはワイヤーに足を掬われ地面に手を着く。
「レンジ、今だ!」
連鎖するように複数の爆音が鳴り響きビルがキングさん目掛け倒壊する。轟音と強い風が俺達を襲い、辺りは煙に包まれた。
「よっしゃあああ!!」
白煙の一歩外にいた俺達は、盛大にガッツポーズを決めて物陰から飛び出したレンジに続いて道に出た。
「ふぅ、成功ね……」
「何とか上手くいったよ」
次第に白煙が薄くなり始める。そこに影が浮かんでいる。その影はゆっくりとこちらに近づいていた。
「えっ……」
ハングが声を漏らし、俺達も状況を把握した。
「う、嘘だろ」
俺は言葉を失った。驚愕のあまり誰一人としてその場から動くことは出来なかった。煙が晴れた頃には目前に真紅の機体が迫っている。
「お前らに敗因を教えてやろう。敵が俺だったことだ」
真紅のそれは静かに脚を引き、俺達の頭の先を掠めるように素早い蹴りを放つのだった。ハングがその場にへたりと座り込んだ姿だけが視界の端に移ったが、俺の頭はすっかり真っ白になっていた。
ナラク、ネスト内作戦室。帰路の俺達は静かなものだった。あのレンジですら言葉を発することはなかった程に。
「まあまあ。三人ともそう落ち込まずに、ね? 内容としては十分合格なんだから。どっかの馬鹿がちょっと楽しくなっちゃっただけなんだし」
「むっ……」
苦笑いをしながら話すジャックさんの言葉にキングさんはバツの悪そうな顔をしている。
「むっ、じゃないよ本当にもう」
「その、なんだ。すまんな」
「いえ、あの後の警戒を怠ったのは俺達です」
「そうね。策を一つしか練れなかったし、それに賭けるなんて愚策だったわ」
「そうっすよ。俺なんて最初の投擲受けた時点で死んでてもおかしくないんすから」
「それでもキングにインパクトシステムを使わせたんだから、キングだって合格と認めざるを得ないでしょう?」
「そうだな、まだまだ磨ける点はあったが現時点であれだけ出来れば合格だ」
「イン? ……なんすかそれ」
「ああ、そっか説明してなかったね。えっとキングの機体にはインパクトシステムっていう」
ジャックさんがそこまで言いかけたタイミングで作戦室の扉が開く音がした。
「その説明なら儂がする」
俺達が声に振り向くと、そこにはゴーグルを首から下げた、ツナギ姿の目つきの悪い男が立っていた。見るに年齢はジャックさん達と同じくらいだろうか。
「やあ、ハーミット。君がドックから出て来たってことは」
「ああ、そうだ。言われたもんが用意できた」
「えっと誰?」
ハングがジャックさんに向き直り、尋ねた。
「君達と対面するのは初めてだね。紹介するよ。彼はここのドック。つまり隣の工場で機体とか、諸々の整備やらを任せているハーミットだよ」
「よろしくお願いします」
「おお、お前達の話は聞いてるから自己紹介はいらんぞ。それよりキング、お前また機体に無茶させたな?」
「ポンコツじゃあるめぇし、アレくらい無茶の範疇じゃねぇだろうよ」
「手前ぇなあ……」
「ま、まあまあそれは後にしてさ。完成したんでしょ? 例のやつ」
「はぁ……そうだ。その前にインパクトシステムについてだ。お前らも知ってた方がいい」
「前回の任務でキングさんがセルを一撃で怯ませたアレですか?」
「察しが良いな、その通りだ。アレは本来、外殻を通して奴らの内側に攻撃の衝撃を伝える為のもんだ。儂らドックの英知の結晶だ。地下都市中を探しても儂らしかまず造れん代物だな。この脳筋の機体の場合はそれを応用して、一瞬の衝撃を増幅させることで外殻そのものを破壊しうる力を引き出しとる訳だ。因みにこの技術には様々な味噌があってだな」
「難しい話はそれくらいにして例のものを見せて欲しいな、ハーミット」
「ん? ああ、そうだったな」
「例のって何すか?」
「皆も付いておいで。新しい武装だよ」
こうして反省会も程々に俺達は作戦室を後にし、ドックへと向かった。
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