133, 0-78 幕間・双子エルフの誓約

・イフリンとディーヌの誓約せいやく


前回のあらすじ

 ヘルガー



行きとは違い帰りは森を出るだけ――それほど時間をかけることなく交流村へ戻ります。

「それじゃあ、お前たちともお別れだな」

ソーニャを送り届けるために同行していた双子エルフ――けれどジョニーは聖者様、もっとお話を聞かせていただきたい。

「ジョニー様、今後のご予定は?」

「・・・列車が来るまでの間、ダンジョンでモンスター退治だな」

「では、私達もご一緒してもよろしいでしょうか?」

「ギルドへの報告はいいのか?」

「ソーニャを集落へ送り届けるだけですから、多少帰りが遅くなっても問題はありません」

「そうか。それなら構わない」

寛大なジョニーは双子エルフの同行を許します。



セリーナはやはり転移が苦手な様子。

「もう慣れたぞ?前は大丈夫だったからな・・・。慣れたぞ!ホントだぞ!!」

そう言いながらもジョニーの右腕にしがみつきます。

ヘルガもジョニーの左腕に身を寄せて――双子エルフも羨ましく思い、ジョニーの肩に手を添えました。



森では1匹のオークに苦戦していたジョニー。

けれど今、5匹のオークを一方的に斬りつけています。

使っているのはロングソード―――華麗に回転し――オーク達の肉を削ぎ――棍棒こんぼうを振ろうとした腕を斬り飛ばして――いつものように無傷で戦いを終えます。

普人という弱い種族でありながら様々な武器を使いこなし、すぐさまモンスターに対処するジョニーに感心して――双子エルフは言いました。

「私達も近接戦を学んだほうがいいでしょうか・・・」

今までずっと攻撃魔法にばかり頼ってきた二人――近接戦は必要なかったので武器の扱い方も知りません。

もっと様々なことを学ぶべきでは、そんな思いからジョニーに尋ねますが―――。

「必要ないだろう」

「けれど、ジョニー様は複数の武器を使っていらっしゃいますよね」

「そうする必要があったから使っているだけだ。おまえ達は自分の得意分野を伸ばせばいいだろう・・・」

「得意分野?」

「魔法だ」

魔法の技術を伸ばす―――エルフが強くなるのならば当然のこと。

しかし、双子エルフは大蛇を生み出し自由自在に操作できるほど魔法の技術にけています。

精霊に祈りを捧げ――魔法書のたぐいを読み――日々研鑽けんさんを続けていますが、これ以上どう伸ばせばいいのか―――そんな悩みにジョニーは答えをくれました。

「お前は火の魔法を使っているな」

「はい、火の精霊・イフリートン様のお力です」

「火が燃えるのは酸素があるからだ」

「酸素?」

「空気の中に含まれるものだ。ロウソクに火をつけ、コップをかぶせるとロウソクの火は消える。コップの中にある酸素が少なくなるからだ。酸素は魔力のようなものだと考えるとイメージしやすいだろう。強い魔法を使うのに多くの魔力を使うように、強い火を起こすならば多くの酸素がいる。火の魔法を使う時、圧縮した火と酸素を合わせてやると強い炎が出来るはずだ」

「そのようなことが・・・」

「もちろん、ただ魔力を多く消費して強い炎をイメージしてもいいが・・・それではやはり限界があるだろう。使える魔力にも限界はあり、人の想像力の範囲内までしか威力は出せない。燃えやすいガスという気体もある、そういったものまでイメージできれば―――」

イフリンに様々な知識を授けるジョニー。

力を合わせるのは火と水だけではなく、風を合わせてもいいのだと――教え導きます。

区切りがついたところでディーヌも知識を授かりたいとお願いします。

「水の魔法か・・・。そうだな、水というのはとても強いものだ。圧縮し、細い穴から噴射ふんしゃしてやると金属なども切断できると聞いたことがある。モンスターにも有効だろう。水に研磨剤を加えてやれば切断力も増すらしい、詳しくは知らないが・・・砂かなにかだろう」

土の力を合わせてみるといい――ジョニーは教え導きます。

「ジョニー様はそういった魔法をお使いになられていないようですが・・・」

疑問に思って尋ねてみれば――それは自分が普人だからだ、魔力が少ないからだ、と答える――自分で使うことが出来ない魔法についてまで真剣に考えるその姿勢――聖者・ジョニー様への畏敬いけいの念は強くなる一方です。



ダンジョンを進み中級階層――現れた豚鬼重戦士オークタンクを見てジョニーは引き返します。

ジョニーは様々な知識を持っていても弱い普人なのです。

(聖者様なら、きっとすぐに倒し方を思いつくでしょう。ですが―――)

イフリンは一歩前に出て杖を振ります。

杖を振る動作―――実は全く意味はなく、ただ格好をつけているだけ――それでも杖の動きに合わせて豚鬼重戦士オークタンク達の中心に圧縮した火、その周りには空気を作り出し、解放すれば大爆発―――爆炎の魔法です。

今までは炎槍で倒し魔石を回収できなかった豚鬼重戦士オークタンク達は黒焦げに――予想以上の威力でチェインメイルは売れないでしょう、けれど盾と魔石は回収できました。

「どうでしょう聖者様」

「・・・ああ、いいんじゃないか?」

(お認めいただけたようですね・・・)

しかし威力の調整、使う魔力量――聖者様が言っておられた酸素やガス、その割合など研究課題は山積みです。


――ビッグスライムを斬りつけるジョニー、しかし剣は弾かれてしまいました。

次は自分の番ですねとディーヌは前に出ます。

杖を掲げる動作―――これにもやはり意味はなく――けれど掲げた杖の先に水球が現れ、その水球から放たれた細く圧縮された水はビッグスライムを貫き、水流は丁寧に表皮を切断―――水刃の魔法です。

今までは氷槍で穴だらけにしてしまったスライムの皮も綺麗なものです。

「いかがでしょう聖者様」

「そうだな、よくやった・・・」

(高い評価をいただけたようです)

しかし今回は水の魔法だけ――聖者様がおっしゃったように土の魔法を合わせ、砂の種類や細かさ、研磨剤の量による威力の違いなど研究課題は山積みです。



時折、セリーナはジョニーを殴打おうだします。

最初は止めようかと考えた双子エルフ。

けれど、巧みにモンスターの攻撃を回避するジョニーを見て――これも訓練なのでしょう、と納得しました。



街に戻ればジョニーは宿へ泊まろうと――そこで双子エルフはぜひ家へと歓迎します。

そして―――双子エルフは母にある決意を打ち明けます。

「旅に出る?」

「はい、聖者様と一緒に・・・」

「聖者様?」

「聖者・ジョニー様です」

突然おかしな事を言い出した娘達にアリサは困惑します。

しかし話を聞いてみると、ジョニーは特別な知識と加護を持っているようです。

「そう・・・。あなた達がそう決めたのなら、私は反対しないわ」

流石に聖者だとは思いません。けれど暴走した娘達の魔法を打ち消せる加護をもっているのなら――と旅立ちを許すことにしました。



時折大きな目的があると言うジョニー。

どのような使命なのか――それはまだ判りません。

けれど必ずお力になってみせますと――双子エルフは精霊教の祈りのポーズをとりながら、強く誓いを立てたのでした―――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る