幕間

092, 0-50 幕間・家出令嬢の家出

・セリーナ=ハルフォードの家出



「父よ、私は結婚などしない」

「お父様と呼びなさい。お相手はモース公爵の孫だ。正直なぜ家なんかにという気もするが・・・いい縁談だ」

「父よ、私は結婚などしない。そもそも会った事もない相手と結婚する気はない!」

「お父様と呼びなさい。・・・いや、会った事はあるだろう。騎士の仕事でこの街に滞在していた。覚えてないのか・・・?」

「父よ、私にそんな記憶はないぞ」

「お父様と呼びなさい。本当に覚えてないのか?訓練と称して彼を叩きのめしただろう。あの後大変だったんだぞ・・・」

「父よ、私に叩きのめされた相手が縁談の申し出をするなどおかしいではないか」

「お父様と呼びなさい。とにかく、数日後には騎士ノア=モースが我が領地に来る。そこで正式に―――」

「私は結婚などしない!!」

「グホォァ!!」

私は父を殴り飛ばし、自室に戻って平民に見えるシンプルな服に着替える。

革鎧を着て剣を持ち、窓からこっそり屋敷を出る。

(急がなければ・・・)

護衛のウーゴや侍女のアイラに見つかると面倒だ。

へいを飛び越え、赤毛のウィッグをつけ、路地裏を通り、街門前の馬車の様子をうかがう。

(あと一人・・・)

詰め所の騎士に怪しまれない程度に気配を殺し馬車に乗り込む。

「なっ、あんた」

「代金だ。受け取れ」

驚く御者に金を握らせれば馬車が動き出す。

門近くの衛兵も気づく様子はない。



街を出れば昨日の雨が残っているのかキラキラと輝く草原から若草の香りが。

(今日はいい日だ・・・)

旅立ちに相応しい輝く景色に感動していると無粋ぶすいにも男が話しかけてくる。

「なぁあんた、その髪・・・」

手を伸ばしてくる男を殴り飛ばす。

「なっ、なんで!?」

(女の髪に気安く触れようとするな!)

馬車から落ちる男を見ながら私は子供の頃の口癖を思い出す。

「成敗!!」

驚いた御者が馬車を止めたので「悪漢は成敗した。大丈夫だ」と出発を促す。

そして、まだウィッグをしていたと思い出し、外して髪をしばる。

今日から私の冒険が始まる。



冒険者。あまり評価が高くない仕事だが、自由に旅をするなら悪くない。

カナリッジの冒険者ギルドに足を踏み入れると、大柄な男三人に絡まれる。

「お前は流れの冒険者か?」

「いや、冒険者登録をしに来たのだ」

「冒険者登録するなら隣の領都に行け。最近このギルドは―――」

(これは・・・新人イビリというやつだな)

とりあえず正面の男を殴り飛ばす。

「なっ、何すんだてめぇ!?こっちが親切に―――」

(何が親切だ)

向かってきた男も殴り飛ばす。

「ひっひぃぃ」

怯える男も殴り飛ばす。

(冒険者など所詮この程度か・・・)

チンピラのような実力に呆れていると「よくもアニキをー」と若い男が飛びかかってきたので殴り飛ばす。

ギルドの入り口を見れば、また別の若い男が・・・。

「む、まだいたのかチンピラめ」

その男も殴り飛ばそうとするも―――。

(速い――)

私の拳を男は避け続ける。

(まさかこいつがチンピラのリーダーか?)

今までの冒険者とは明らかに違う動きから実力の一端がうかがい知れる。

だが、男は運悪く酒瓶に足を取られる。

(悪く思うなよ――)

足元への注意を疎かにしたのだ。卑怯とは言うまい。

私は容赦なく拳を突き出し殴る。

ゴロゴロと転がり壁にぶつかった男に言ってやる。

「これに懲りたら女だからと侮らないことだ」

男は勢いよく飛び起きる。

「まさか、今の拳を受けて立ち上がるとは・・・」

まだやる気なのか、異様な雰囲気を放ち始めた男に警戒していると・・・、男は言った。


「朝起きて、小鳥が鳴いたよ、チュンチュンチュン」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る