045, 0-25 幕間・謀略女王の断罪

・ルクレーシャ=クロトーの断罪


前回のあらすじ

 もったいない精神



玉座の間に集まる貴族たち。

東の公爵の一族は、手を縛られ、膝をつき、その背後には剣を構えた近衛騎士たちが立っている。悪役令嬢も一緒だ。

その扱いが気に入らないのか、東の公爵がわめく。

「なぜですか!兵を解散し謝罪すれば不問に処す約束でしょう・・・これは不当です!!」

「反乱は許した」

「では何故ですか!」

「嫌いだからだ」

「き、嫌いだから・・・?」

「そうだ、嫌いだからだ。反乱は許した。反逆者ではないから爵位は奪わない。だが、嫌いだから殺すことにした。約束は守った。処刑の理由は嫌いだからだ」

そんな私の子供らしい理由が気に入らないのか、東の公爵が駄々をこねる。

「そんな・・・そんな理由認められるか!だいたい何故街を焼いた!彼らは関係ないはずだ!人を増やすのがどれだけ大変だと思っている!一体何故・・・何故あんなに大勢殺したのだ!!」

う~ん、死んだ人達はほとんど平民だったと思うんだけど・・・何が気に入らないんだろう。悪役令嬢は平民バカにしてたし・・・、グリゼルも王宮だと平民は居心地悪いって言ってたし・・・。

しかし私は可愛い聖女様。なにか言葉をかけてあげなきゃ・・・。そこで私は閃いた!

「王は死んだ・・・、王族も死んだ・・・、貴族も死んだ・・・、そして平民も死んだ・・・。人はいつか皆死ぬ・・・これぞ平等だ」

平等主義ってやつだよ。人権意識あふれるそんな先進的な考えが気に入らなかったのか、差別的な東の公爵は叫ぶ。

「ふざけるな、この悪魔めーーーーっ!!!」

人を悪魔呼ばわりしてくる失礼な東の公爵。私はムッとしてライナスさんを見る。

ライナスさんが指示をすると、東の公爵はスッパリと首を斬られる。

近衛騎士はミスリルの剣を装備している。ミスリルは魔法で強化しても破損しない鉱物だとか。魔法の力でスパっとやったのだ。人道的だね。

そんな人道的な方法で、東の公爵の家族は次々処刑されていく。でも悪役令嬢が騒ぎ出す。

「待って!私はずっと捕まっていて反乱には関わってない・・・。それに、王様の子供がお腹にいるの・・・この子を殺さないでっ!」

必死な様子に悪役令嬢担当の近衛騎士の手が止まる。でも子供なんているわけない。王様は子作りなんて出来ない高齢だったし、そもそも死んだの一年前だよ。王様の子供なら、産まれてなきゃおかしいよね。それに処刑の理由は、嫌いだからって教えてあげたのに・・・。

これが演技なのか、妄想なのかわからない。悪役令嬢はちょっと頭がおかしいのだ。

悪役令嬢担当の近衛騎士を私は見る。目が合うと、なにか覚悟を決めたような顔で首を振る。そんな騎士を見てライナスさんが慌てる。仕方がないので助けてあげることにした。

私はグリゼルを見る。グリゼルは頷き近衛騎士を見る。すると、近衛騎士は剣を振り上げ、悪役令嬢の首をスパッと切り落とした。傀儡魔法だ。

この傀儡魔法・・・、それなりに魔力量が必要な上に、魔力コントロールも難しくてグリゼル以外使えない。忍者部隊の魔力干渉できる人とグリゼルの模擬戦を見たことあるけど、3対1なのに一方的に操って、全く戦いにならなかった。やっぱりグリゼル、チートキャラだ。

そんなチート魔法に操られた近衛騎士は何が起こったのかわからず、困惑してる。「い、一体何が・・・」とか動揺してるけど、あなた命令違反です。クビですよクビ、解雇です。

解雇通知を受けた近衛騎士は自分の喉に剣を当て「ま、待って下さい女王様・・・まっ―――」という言葉を最後に自害した。最後まで私を呼ぶとか結構忠誠心あったのかも・・・でも死んじゃったし、どうでもいいね!

ライナスさんは業務の遅れを取り戻そうと、焦った様子で自ら剣を抜き、東の公爵の一族の首を斬る。

労働意欲あふれるライナスさんのおかげで、処刑は終わる。ちょっと前までサボり癖が付いていたダメ人間とは思えない頑張りに、私は感動する。やれば出来るじゃん!


そんな顛末を見ていた西の公爵。戦争前は元気だったのに様子がおかしい・・・。

私は心配になって声をかける。

「どうしたモース公爵、反逆者は死んだぞ。これで安心だ・・・」

そんな優しい私に感動したのか、西の公爵はプルプルと震えだす。

玉座の間にいる貴族たちを見回す。目が合うとみんな震えだす。

だから私は立ち上がり、腕を突き出し、手のひらを広げて叫んだのだ。

「女王様とお呼び!」

グリゼルが大きな声で言う。

「女王様に、忠誠を!」

それを聞いた貴族たちは膝を付き、こうべれて、言ったのだ。

「「「女王様に、忠誠をっ!!!」」」


私はみんなの忠誠に満足し、玉座の間をグリゼルと一緒に出ていく。

私が出ていった後、なんか大きな声で騒ぎ出してるけど・・・。あれでしょ、上司が帰って部下がはっちゃけてるんだね。私はそのへん理解あるよ。



普人という種族は、何百年もエルフの愛を勝ち取る努力をしていたからか、どこか偏愛主義だ。

王妃様を失い、国を壊そうとした王様・・・。

家族が死んだり囚われたりして、虐殺に加担した忍者部隊・・・。

悪役令嬢も、王様に執着していた・・・。

今回大勢死んだけど、誰か私に復讐に来るかな・・・。


でも大丈夫。私の身近にも、私を大事に思ってくれる人がいる。

私はグリゼルを見る。あまり表情を動かさない美人な彼女。私に尽くしてくれるし、ご褒美をあげなきゃね。

「グリゼルー、今日はプニプニしてもいいよー」

私が女王様になった時、流石にもうプニプニはちょっと・・・、と思って「プニプニは禁止です!」と言ったのだ。

その時、グリゼルはこの世の終わり、みたいな顔をしていた。

私のプニプニ解禁に、グリゼルは喜び、笑顔を浮かべる。


そんなグリゼルと一緒に、後宮の一室に戻る。

私とグリゼルの秘密基地だ。安心できる、私の居場所。

そして私は久しぶりに、安らかな気持ちで眠りにつくのだ・・・。




普人の国で起こった10万人規模の内戦の記録は事細かに残っており、この事から謀略女王はいづれ起こる宗教戦争の準備をしていたと考えられている――。

クロトー王国の歴史書には、この戦争は"公爵令嬢奪還戦争"と記載される。

しかし人々はこう呼んだ――"串刺し戦争"と―――。

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