第6話 糀谷 祐希(コウジヤ ユウキ)の場合①

「ごめん。やっぱ無理っぽい。今日で別れてほしい。」


そう言うと彼は都会の雑踏に消えて言った。


今年に入って二人目の失恋。


と言ってもまだ3月だけど。


自分で言うのも変だけど、私は割とモテる。


背は低いけど、小動物系(と人には言われる)で、可愛らしい顔をしている。


しかも、胸は大きい。


かと言ってデブではなく、ウエストは締まっている方だ。


つまり、男子ウケする外見的要素は十分満たしている。


しかし、恋愛が長続きしない。


一番長くて約一年、早いと二週間で終わる。


しかも、いずれも私から別れを切り出したことはなく、すべて相手から


「ごめんなさい。」


と告げられる。


「ユウキ、また…だって?」


職場で同期の中畑美希がロッカールームで着替え中に聞いてきた。


「はや!なんでもう知ってんのよ?」

「ふふーん、美希さまの情報網をあなどるでないぞ」


「ったく…えーえー、フラれましたよ、商社のイケメン君に!」

「はあぁ、なんでユウキはこう長続きしないかねー、可愛いし、性格も明るいし、おまけに巨乳だし。」


「最後のはいらん!私だってどうしてか知りたいわよ!」


本心でそう思っていた。


私が初めて恋をしたのは高2の時、女子校だった私は隣町の男子校の文化祭に行って出会った軽音部でバンドのボーカルをやってた人だった。


そのバンドの演奏で彼が歌うのを見て一目惚れした。


正確には恋愛経験がなかったので、最初はそれが恋か、ただの憧れなのかわからなかった。


友達に打ち明けると、その彼が何者かを探るべき、と言われ、その日のうちに彼の学校の校門で待ち伏せをさせられた。


そして彼が出て来ると真っ先に友達が突撃して足止めして、電信柱の陰に隠れていた私を引っ張り出して、彼の前に突き出した。


何の台詞せりふも考えていなかった私は


「あの…ファンなんです。一目見てファンになりました!」


そう言うのが精一杯だった。


すると彼が良かったらと言ってメールアドレスを教えてくれた。


友達にはそのメアドに今日中に連絡しないなら絶交すると脅されたため(それを言い訳に)彼にメールした。


すぐに返信が帰ってきて、次の週末に会うことになった。


それから二週間が過ぎた時、彼からメール来て


「ごめん、なんか俺には君が合わないみたい。もっと相応ふさわしい人がいると思う。もう会わないほうがいい気がする。さよなら。」


それっきりメールをしても返事はなく電話も出てはくれなかった。


私的には何の問題もなく、デートはたったの2回、一回は映画を観て、一回は動物園に行った。


特に粗相そそうした記憶もなく、話してる時は彼はずっとニコニコしていたし、私も彼を傷つけたり、何か気分を害することを言った覚えもない。


なのに、たった二週間で振られた。


それが、最初の彼氏との出来事。


二度目の恋愛は私が20歳になった時、大学のサークルで一緒だった一つ上の先輩だった。


これも、ほとんど一目惚れで、彼を好きになったが、高2の苦い思い出があったので、多少慎重になり、同級の友達にそれとなく相談して彼のことをリサーチしたあと、ちょっとずつ距離を縮めて、夏の合宿の時、たまたま二人で買い物当番になって夕食の買い出しに行った際に、ゆっくり話す機会があり、そこからお互い意識し合う感じになった。


そしてその年の秋にイベントを終えた打ち上げで、ちょっとお酒も入り、一次会が終わったところで二人で抜け出して、そのまま一晩を共にした。


私はもちろん、彼もそういうことは初めてで、ラブホに入るのも戸惑ってドキドキしたけど、なんとか部屋までこぎつけて、入った瞬間、彼が私を抱きしめて、すぐに熱いキスを交わした。


そのままベッドに倒れ込み、かれは不器用に私の服を脱がせて、自分も服を脱ぐと少し汗ばんだ身体をかぶせてきた。


そのあとは為すがままだったが、彼も初めてのせいか、なかなか狙いが定まらず、何度目かのトライで、ようやく一つになれた。


私にとっては文字通り"初めての男"だった。


本格的な恋愛は初めてだったので、私自身すごくのめり込んだ。


彼と1日でも会わないと不安になり、すぐにメールをして、短時間でもいいから会ってほしいと懇願した。


初めは彼もそんな私の一途な気持ちをんでくれたし、おそらく可愛いと思ってくれて、なんとか時間を作って会ってくれた。


でも、3カ月を過ぎた頃、


「少し距離を置きたい。」


と彼から言ってきた。


理由は就活。


大事な追い込みの時期にきていて今は集中したいと言われた。


もちろん、私も理解を示し、彼から連絡が来るまでは待つことにした。


でも、会わなくてもメールだけは毎日して、その日の出来事をお互い報告しあった。


そして、やっと彼の就職が決まり、お祝いをしたいと彼を誘って最初にデートした店で彼に就職祝いのプレゼント(万年筆)を手渡した。


彼は笑顔を見せてくれたが、すぐに真顔になり、そのプレゼントを私の方に差し返して


「ごめん、今までありがとう。支えてくれたけど、俺には君を幸せにすることはできないと感じた。今日で終わりにしよう。」


二人が付き合ってあと1週間で一年だった。

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