232,東海道新幹線!
「さてさて熱海から乗るのはなんと、新幹線! 目の前のトンネルから出てきた新幹線が私たちの目の前をビュンビュン通過していきます!」
東海道新幹線の下りホーム東京
ホームの目の前にトンネルがあり、上りホームの背後も山、下りホームの背後は在来線を隔てて駅前ロータリーや温泉街、その向こうに海が広がっている。やや白い砂浜の熱海サンビーチは観光スポットとして有名だ。
殆どの場合、通過列車の多い新幹線の駅には通過線がありホームと一定の距離が取られているが、熱海駅にはない。故に列車はホーム柵を隔てて目の前を数分おきに高速で通過してゆく。
トンネルからゴォォォと音が響くと沙希はそれを背景に自身をフレームインしてスマホを構え、列車の白い光が見えると連写する。差し詰め闇から現れる閃光といったところだろうか。珍しい光景ではある。
熱海駅に停車する次の下り新幹線は約20分後。小田原駅で乗り換えれば料金変わらず1本早い列車に乗れたが、沙希は根府川の大海原を見たかったらしい。
上下線とも列車が頻繁に往来するため満足な撮影ができた沙希は口数が少なくなり、いよいよ乗車口に棒立ちし始めた。私たちもその後ろに並ぶ。
初夏の湿った風にさらされ無言のまま待つこと数分、こだま号が到着。ホームドアが開くと同時に『乙女の祈り』が流れ、続いて列車のドアが開いた。沙希は曲に合わせて「タラララララーン、タラーラララララー♪」と歌っていた。電話の保留音にも使用されている曲だが、遅刻やギャンブルにより借金を抱えているまみちゃんはこれを聴くと貸金業者のCMを思い浮かべ、頭に血が上るらしい。
最後部車両16号車の後ろ側からパソコンのタイピング音が耳障りな客室に入る。青いシートと白を基調とした化粧板のシンプルな内装。ビジネスと思しき客が多く窓側席はほぼ埋まっているが、車両中央部11番の海側3列席のみすべて空いており、乗車した順番通り沙希が窓側A席、つぐみが中央B席、私が通路側C席に座った。富士山が見えるのは山側だがそちらは2列席。大きな火口が見える静岡県側は三人とも見慣れている。
車掌が放送で速やかな乗降を促し列車はすぐに発車。でないと待避線がなく通過待ち不能な熱海駅では次の列車に追いつかれ渋滞、遅延が発生するのだろう。
車内に響くタイピング音が耳障りで「PC使うならオフィス車両予約しとけよ」と思いつつワイヤレスイヤホンを装着。目を閉じて音量控えめにハードロックを流す。ほんとうはイヤホンを装着せず静かな空間で過ごしたい。
新幹線の乗車時間は小一時間だそうだが、その先どこへ向かうかは聞いていない。沙希はどこへ行って何をするつもりなのか、本人も何も決めていないのか。まあ、なんとかなるだろう。
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