55,行列のできる店、自家製麺屋登夢道
「いらっしゃいませー、おおどうもいらっしゃい!」
「こんにちはー!」
焦げ茶の木で組まれた窓枠の前でしばし開店待ち。11時15分、店の扉が手前に開くと、縁の細い眼鏡をかけた大将が出迎えてくれた。黒いTシャツと頭に巻いたタオル(バンダナ?)がよく似合う。ラーメンをつくるために生を受けた、そんな雰囲気が滲み出ている。
待っていたのが私たちだと気付いた大将は、より親し気に6人を店に招き入れてくれた。私たちも沙希に続いて大将に挨拶をした。
店内に入ると大将の奥さんが気さくに「いらっしゃいませー!」と迎えてくれた。
沙希は「いらっしゃいましたー!」、私たち5人は「こんにちは」と普通に挨拶した。
有線放送からのJポップが流れる店内。いま流れているのは
店の構造は逆L字型のカウンター席7人分と、4人用の座敷が2つ。
定店内右奥から券売機、カウンター席3つ、ウォーター、ビールサーバー、カウンター席2つ、逆L字の角があり、更にカウンター席2つの順で配置。通路を挟んでその背後に座敷がある。
私たちは食券を素早く購入し、サーバーの上に積み重ねられている透明のプラスチックコップに順次水を注いで左奥の座敷に腰を下ろした。
「あ、ここ4人席だ。どうしよう」
沙希が戸惑い気味に言うと、注文内容を聞きに来たお姉さんが「こっちも使っていいですよ」と、背中合わせにもう一卓あるテーブル席へ促してくれた。いまは昼時、これから店が混むだろうから詰め合おうと一瞬思ったけど、武道のガタイが良すぎてそうもいかない。
4人までの団体が座れるテーブル席に対し、カウンターは7席。
「うーん、でも、そうすると後から来るお客さんが……。そうだ、まどかちゃんと自由電子くん、そこの二人がけのカウンターでどう?」
と、沙希が私と自由電子くんをカウンターに促した。確かに、そうすれば座敷とカウンター席の着席比率がちょうど良くなる。
沙希たちを斜め後ろに、私と自由電子くんは並んでカウンター席に座る。私が右側にいる。大将が調理をしている間にもどんどん客が押し寄せて、店内は老若男女で満席になった。
空いていたもう一つの座敷は子連れが腰を下ろし、壁側で立ってはしゃぐ幼稚園くらいの男の子を、卓を挟んで向かい合う母親がぴーぴーぎゃーぎゃー怒っている。母親の隣にいる父親も何か言っているが、彼は騒がしくない。冷静に子どもと母親を諭しているようだ。夫婦は陸、沙希と背中合わせになっている。
沙希たちは何かほのぼのと会話している。
私たちから最も遠い券売機側の端っこには、70代くらいの小柄なおばあちゃん。隣に20か30代くらいの茶髪でガテン系っぽい雰囲気の男がスマホもいじらず読書もせず、じっと座っている。その隣には、彼より少し若く見える、スマホの画面を叩くように操作する落ち着きのない男。貧乏ゆすりでもして足掛けを震動させているのか、さっきからガテン系っぽい男にメンチを切られている。
私もそこにいたら、十中八九メンチを切る。そんな殺伐とした空気のなか大将は、彼らの正面でチャーシューを切っている。
お前、食事中はスマホいじるなよ。私は心の中でそう念じた。
ウォーター、ビールサーバーを隔てた席には、右側にショートヘアの女性、左側、私の隣に薄毛の男性。夫婦または親子だろうか、二人とも50から70代くらいで、男性のほうがいくらか若く見える。二人は揃って
辛いもの好きにはたまらないと評判の山椒辛味噌らーめん。私は今回、その更に上をゆく辛いメニューを注文した。
「お待たせしましたー、マーボー山椒辛味噌の小です」
「おぉっ。い、いただきます」
奥さんが運んできたどんぶりに、私は軽く
「まどかちゃんマジか!」
背後から見ている沙希も驚いている。つぐみも陸も、隣の自由電子くんも。
「おーう、なんだ小盛かまどかー。大きくなれないぞー」
「もう成長期は過ぎたからいいんだよ。いただきます」
鷹の爪の輪切りがたっぷり。山椒辛味噌スープの上に赤茶色の麻婆豆腐を載せた、マーボー山椒辛味噌ラーメン。普段、辛いものをあまり食べない私にとってそれは、勇み足の一杯だった。卓上のピッチャーから水をつぎ足し、箸を手に取る。そうしている間に、他5人が頼んだ品も続々と運ばれている。
忙しなく動き回る大将が、こちらをチラチラ見ている。
さて、これは
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