骸骨探偵は死の理由を求む
一ノ矢 真銀
第1章 私の死の理由
第1話
目覚めると、私はだだっぴろい川岸にぽつんと一人で立っていた。
「ここ……どこ……?」
慌てて周りを見る。
足元はホームセンターで売られているような、異常に真っ白な砂利が敷き詰められており、足を動かすと微かに石が擦れ合う音がする。
眼の前には、上流も下流も向こう岸までもが見えないほど恐ろしく大きい川。よく見なければ流れているのかさえ分からないくらいゆったりと流れている。
正直言って見たことない景色だ。
「夢…だよね?」
思わず、頬をつねってみる。
……痛くない!
「なんだ。夢かぁ」
私はほっと胸を撫で下ろした。
まったく、こんな変な夢見るなんて、私なんか疲れてたのかな。
えっと、今日は何してたっけ?
確か……?
えっと……?
思い出せない。
ただ、思い出そうとすると、なんだか胸が暖かくなるから、きっといい日だったんだと思う。
でも……
なんで思い出せないんだろう?
私はしばらく川を眺めていたが、夢から覚める気配はない。
「とりあえず、周りを散策してみよう」
暇を持て余した私は、川上の方へと歩いて行くことにした。
しばらく歩いていると、川に木の舟が浮かんでいるのが見えた。はっきり言ってボロい。
あのまま漕ぎ出したら、穴が空いて沈むんじゃないかというくらい傷んでいて、正直夢でも乗りたくはない。
舟の近くには、これまたボロい木製のベンチが置かれている。
そして、そこには立つ黒い人影が立っていた。
「人?」
人影はこちらに背を向けて立っていた。
上は黒のジップパーカー。フードを目深にかぶっており、下はジーパンに黒のスニーカーというカジュアルなコーディネートだ。
私より背は高くてガッチリしてそうだから、男の人だろうか。
私はそおっと近づいていった。
が、気配を気づかれたみたいでくるりとこちらを振り向いた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
私は思わず悲鳴をあげた。
だって、その男の顔が
――真っ白な骸骨だったのだから。
逃げなくちゃ!
そう思ったのに、なぜか足が動かない。
ちらりと自分の足を見ると、小刻みにプルプルと震えている。
マズイ、完全に腰が抜けてる。
そうしている間にも骸骨は一歩また一歩と、近づいてくる。
ヤバイ!殺される!
そうだ、これは夢だった!
夢なら早く覚めてお願い!
ギュッと強く目を閉じて祈った。
だがその祈りも虚しく、カラリカラリと骨の音が、私の目の前まできて止まった。
もう駄目だ!
私が諦めたそのとき、低くて通る声が聞こえてきた。
「やっと客が来たな」
「へっ、客?」
そっと目を開けると、さっきの骸骨が手招きをしていた。
「そうだよ。お前、舟に乗るんだろ?」
と舟の方を指さしている。
「ほら、船着き場はこっちだ」
骸骨は私を案内するようにくるりと背を向けて、スタスタと先ほどのボロい船の方へと歩いていく。
どうやら骸骨は私に危害を加えるつもりはなく、本当に舟に乗りに来た客だと思っているらしい。
「死ぬかと思ったあああああああ」
今までの緊張が溶けて大声でそう言うと、船着き場に向かっていた骸骨がくるりとこちらを向いた。その姿にまだ慣れず、背筋がゾクッとする。
「はぁ? 何言ってるんだお前」
そう言って骸骨は顎をガクガクと震わせた。どうやら笑っているらしい。
正直怖いんですけど……。
一通りウケたのか、顎の震えがピタッと止まり、その後かがむように私に顔を近づけた。
怖い怖い怖い怖い怖い!!
今度こそ食べられる!
そう思ったとき、骸骨は口を開いた。
「お前、もうとっくに死んでるぞ」
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