第37話 希望への展望

「ほんと、アイツは何なんだよ……あ~っもう~っ、気色悪いっ! こうして離れた今でも鳥肌が立って寒気がしちまってるよ」


 デュランはルイスの気色悪い言動を思い返してしまい、その場で身震いをしてしまう。


(お、お兄様があのように乱れるなんて……。それにあのように同性であるはずの殿方と体を密接させながらも『おい、いい加減離せよ』『ふふっ。そうは言いながらも体は正直じゃないか?』なんてセリフのオマケ付き。私、あのような行為を初めてこの目で見てしまいましたわ。でもやはり……と言いますか、いつも愛読している本に書かれたとおりでしたわね。やはり殿方同士でも密接な関係を築き上げ、そしてベットでは……(照))

「ん? なんだルイン。どうかしたのか? それにどうして顔を赤くしながら潤んだ目になっているんだよ? 風邪か何かか?」


 ルインは先程までのデュランとルイスとのやり取りを間近で見ていたせいなのか、頬を赤らめ瞳までもウルウルとさせていたのだ。

 それはまるで性的興奮をしているようにもデュランからは見えてしまい、心配になって声をかけたのだが、彼女はボソボソと聞こえない程度の声で何かを呟いているだけである。


「おいルイン。本当に大丈夫なのかよ?」

「……ふぇっ? いえいえ、なんでもありませんわよお兄様。どうか私のことはお気になさらずに、そのまま密接で許されない行為をお続けになられて……ってあれ? あの方は一体どちらに???」

「うん? ルイスのことか? アイツなら、もうどこかへ行ってしまったぞ」

「そう……なんですの? 残念ですわ……」


 デュランがそう告げると、何故かルインは落ち込んだ表情をしていた。

 デュランにとっては何故彼女がそうなってしまったのか、皆目検討もつかないことだったがロクなことではないと思い、それ以上追求しないことにした。



「ほら。これでも飲んで少し落ち着くといい」

「ありがとうございます。んっ……それでお兄様はこれからどうなさるおつもりなんですの?」


 少し間を置き、デュランはルインにワインを飲ませると、ようやく落ち着きを取り戻した彼女からそう尋ねられてしまう。

 そして自分がこれからすべき事を彼女に話すことにした。


「そうだな。とりあえず街にあるレストランを流行らせること……これが俺の今の一番の目標になるな。次いでこの近くにある廃鉱山だな。何が採れていたのかまだ分からないが、これも出来れば再開させたいと俺は思っている」

「そうでしたの。このような苦境に陥っても、お兄様はご立派なのですね」

「立派というか、今の俺にはこの二つしか残されていないってだけだ。それにレストランの方もアルフともう一人が手伝ってくれるからな。丸っきり俺一人って話じゃない」


 デュランは今自分が置かれている状況を整理する意味合いでも、彼女に聞かせ意見を聞くつもりだったのだ。

 自分がしようとしていることが本当に正しいのか、そしてまた何を目標に据えたらいいのか、それを再確認する意味もあった。


「そうですわね。お兄様に出来ることはお店を流行らせ、少しでも安定した生活の基盤を築くことが先決ですわよね。お金が無ければ何をしようにもできませんものね。お兄様、何か私に手伝えることがあれば遠慮せずに仰ってくださいまし!」

「ルインありがとう。そう言ってくれるだけでも助かるよ」


 ルインは隣に座るデュランの手の上に自分の両手を重ね合わせながら、出来うる限り協力させて欲しいと申し出てくれた。


 現状において、彼女に手伝って貰えることはほぼ無きに等しかったが、それでも今はその気持ちだけをありがたく受け取っておくことにした。


 それからも花嫁の披露を兼ねたお披露目パーティが続いたが、その途中でデュランは帰ることにした。


 結局その後もマーガレットと言葉を交わす機会は無くなり、この場に居続けても今の自分が成すべきことはもはやここには無い。いつまでも上流階級のお遊びに付き合ってはいられないとの嫌気もあったからだ。


 マーガレットの代わりにルインへと別れの挨拶を済ませると、早々に屋敷を後にすることにした。

 このまま真っ直ぐ街へと帰るには時間も早く、そしてデュランの目的はマーガレットの結婚式の他にもあったのだ。



 トールの街から更に奥へと進んだ山側の麓……そこはデュランの父親がかつて営んでいた鉱山跡地が顔を見せる。


「ここが父さんが所有していたっていう鉱山なのか。随分使われていなかったんだな」


 そこにはレンガを積んで作られた鉱山入り口とともに、掘り出された岩や鉱石を地上へと運ぶため、また鉱山の採掘には付き物である湧き水を排出するため、蒸気機関を用いた蒸気ポンプを備えた建物が存在していたのだ。


 その周りは荒れ果て建物も隙間風が入るほどレンガが崩れ落ち、廃墟と化していたのだ。


 デュランはメリスから降りると手綱を引き、周辺を見て回ることにした。


「これは石炭を燃やして水蒸気の圧力によって動力を得ることで地下から土や鉱物を含む石、それと湧き出してくる地下水などを汲み上げる仕組みにもなっているんだな」


 その機械にはまるで水車の歯車のように一定の間隔で段落が付けられており、そこに今は使われていない古めかしい木のカゴが備えられていた。


 このカゴに地下で採掘した鉱石や掘って出た土や石などを載せ、地上へと排出する仕組みとなっていた。


「これが無ければ、今の鉱山仕事は成り立たないとも言える。なんせ、鉱山とは常に地下から湧き出てくる水との戦いでもあるんだからな。見たところ……随分とまだ綺麗に見える。このまま修理せずに使えると良いのだが……」


 もし機械の分を人の手で補おうとすると、その頭数によって多くの賃金と共に危険手当の報酬を上乗せしなければならなくなるわけだ。


 鉱山とは鉱脈を見つけることも大変であったが、その際に発生する土や鉱物石を含んだ岩石、そして延々と湧き出てくる湧き水を地上へ排する作業にこそ一番苦労する。


「だが選りにも選って、これを動かすことができる燃料が石炭なのか。これは再開させようと思ったら馬鹿みたいに金を食うだろうなぁ。もしかすると採掘量に対して石炭なんかの燃料費がネックになったから、そのまま廃鉱にしたのかもしれない」


 もし鉱石が枯渇しての廃鉱でなければ、今なおこの鉱山には鉱石が採掘できる可能性があるということになるわけだ。

 あとは石炭の燃料費と働いてくれる人夫に支払う人件費をどうにかできれば、再開できるかもしれないとデュランは考えていた。

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