断片章2:彼女の見ている世界

4時間目:魔力付与(初・中級)

 ある日の教室にて行われた、ロゼルの授業にて。

「つまり、物体へ魔力を付与する技術と言うのは、魔術が生み出された初期から存在している、基本的な技術の一つだったということだね」

 黒板にチョークで文字と、棒人間が武器に向けて魔術を行使する図を書き込みながら、ロゼル笑みを浮かべた。

「ここまでで、何か質問はある?」

 言葉と同時に教室を見渡すと、一人だけ手を挙げる生徒がいた。そのまま指名して、起立させる。

「どのような物体にでも、魔力は付与できるのですか? 例えば家屋等の、大型の物体とか」

「良い質問だね。もちろん可能だけど、その分の魔力量が要求されるから、単独で行うのは厳しいと思うわ。複数で行うのなら問題ないと思うけどね」

「有難う御座います」

「他に質問がある人は?」

 着席した生徒と、他の生徒の様子をチラと確認する。特に手は上がらない。

「それでは、次に行こう」

 ロゼルは教科書のページを捲った。


 そこからしばらくは、魔力付与の使い方についての内容を、教科書に沿って進めていく。

 ロゼルが、チョークで黒板に刻む音と文字。生徒が、鉛筆でノートに刻む音と文字。たまに質問が行われ、それに答える声がそこに彩りを添える。

「さて、教科書ばかりと言うのもつまらないだろうし、実際に物体魔力付与エンチャントを試してもらおうかな。全員、魔術行使の準備を始めて」

「あ、はい!」

 その言葉に、全員が待っていましたと言わんばかりに教科書を閉じ、座る位置を調整し始める。

「準備が終わったら隣同士でペアを組み、さっき学んだ通りの手順で魔力付与を行って。対象は自分の手。そしてペア相手と自分の手を合わせて、弾かれたら成功。では、始め!」

 ロゼルの声と同時に、各所で魔力を練る気配が起こり始める。それぞれの手に、青く淡い光が集まっていく。

「拳に魔力を付与する時は、手袋をはめる時のような動きをイメージすると良いかも知れないね。内側に浸透させるというよりも、魔力で編んだ手袋をはめるように」

 イメージが上手く行かず、苦戦する生徒に向けて、ロゼルが助言を飛ばしていく。

「掌に、集めた魔力の塊を乗せて、それを拳と共に握り込む動きをイメージしても良いね。あまり時間は無いけれど、焦らず、落ち着いてイメージすると良いよ」

 教室の中を、助言を口にしつつ、机間指導のために歩く。

 そこで、ふと教室の隅に目を向けると、複数人が魔力行使に失敗したことで行き場を失った、魔力の残滓が蓄積していることが分かる。

「……」

 ロゼルは、生徒達が成功や失敗に一喜一憂する様に微笑みながら、さり気なく、それら行き場を失った魔力を回収していくのだった。


 そして、授業が終わった後。

「ふぅ……」

 授業を終えたロゼルは独り、図書棟兼研究棟の屋上から、下界を見下ろしていた。

 その傍らには、淡く輝いている魔力の球体が一つ、浮いている。それは先程、教室内に堆積していた、魔力の残滓を集めたものだった。

「さあ、そろそろ還る時だよ。また生徒たちの力になってあげて」

 彼女はそう言い、魔力の球体に手をかざす。

魔力成形マジック・クラフト

 頭の中で組み上げたイメージを基に、球体を光る花びらへと作り変え、纏める。

魔力付与エンチャント魔力結合コネクト

 最後に、別に生み出した空気の渦で花びらを包みこむと、ばら撒くように敷地内へと解き放った。

「名付けて『春風の花吹雪』ってね。魔力の塊に別の魔力を付与して特性を与える。これも教えてあげないとね。うん。どんな反応するか楽しみだなぁ」

 風に乗って飛んでいく光の花びらを見送りながら、ロゼルは静かに笑うのだった。

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