究極魔女の魔法教室 ~私の魔術のつかいかた~

ラウンド

断片章:彼女はそこにいた

予告編:とある世界の魔女の話

 かつて、その世界のヒト種族は、闇の領域を支配する魔王の侵攻を受けていた。

 最初こそ追い込まれはしたが、数多くの選ばれた戦士たちを始め、時に天界の神々や、魔に属する者たちと協力しながら、人々はこの侵攻に対抗。最後にはこれに勝利し、魔王の軍勢を闇の領域へと押し返すことに成功した。人神魔連合軍の勝利である。


 ヒト種族の教える歴史の教科書には、そう記録されている。


 しかし、戦士たちを決定的な勝利へと導いたのは、実はたった一人の魔女であったとしたら、どうだろうか。きっと誰も信じてはくれないだろう。

 だが、その人物を知っている者は、口々に言う。

 その魔女は、まるで自分の手足のように術を操り、時に嵐を巻き起こしては一瞬にして魔物の群を屠り去り、時に天から火を打ち下ろしては魔王の城塞を破砕し、時に精霊の力を湧きあがらせては、枯れた森や荒れた大地を元のように蘇らせてみせた、と。

 それほどに偉大な力を有していた彼女だったが、最後の戦いの後に、表舞台より姿を消し、行方をくらませてしまった。そのロゼルと言う名前と、伝説のみを残して。


 そして、それから十年の月日が流れた。


 ある時。ヒト種族の住む大陸の、人間たちが支配する国の片隅。

 とある建物の近くにある広場にて、十数人の若い魔術師たちが男女混合のペアに分かれ、それぞれに魔術の鍛錬をしていた。

「よし! 俺が決めてやるぜ!」

 ペアの一つに属する男子の魔術師が、周囲に数本の魔力矢を浮かべながら、目の前に立ち塞がっている人造生命体ゴーレムを見据えている。

「大丈夫なの? さっきから連打するだけで、威力がイマイチなんだけど?」

 その隣で、気の強そうな面持ちをしている女子の魔術師が、同じ本数の魔力矢を浮かべつつ、どこか呆れた様子で見ている。

「う、うっさいな。次は大丈夫だから見てなって! 集中……集中……」

 そう言うと、男子の魔術師は、浮遊させていた魔力矢を一斉に発射。魔力矢の蒼い光が、直線や放物線を描く尾を曳きながら、次々にゴーレムに殺到。突き刺さっていく。

「よし、アタシも!」

 その様子を確認した女子の魔術師も、同じように魔力矢を放ち、全弾を命中させる。

 しかし、十本近い魔力矢を受けたはずのゴーレムは、二人の気合と期待に反して、少し体を後退しただけだった。

「うお、マジかよ……」

「効果が薄いわね。当て方が悪いのかな?」

「よぉし、もう一回だ!」

 男子の魔術師が、気合の掛け声と共に魔力を喚起し、再び数本の魔力矢を作り出そうとする。

 その時だった。

「みんな、そこまで!」

 良く通る声と共に、建物の方から一人の女性魔術師が姿を現した。手には、紙資料の束を持っている。

「もうすぐ授業が終わるから、それぞれペアで使った訓練用ゴーレムの片付けを始めて!」

 彼女は、やはりどこまでも通る透き通った声で、周囲に片付けを指示する。

「はい! ロゼル先生!」

 すると、周囲に散らばっていた若い十数名の魔術師たちが、声に従って一斉に動き始めた。

「ふぅ……」

 女性魔術師ロゼルは、その様子をある程度まで見送ると、ふと空を見上げる。

「今日も良い日和だね。平和でよろしい」

 そして、そう呟いて、ふっと笑った。


 あの時に姿を隠した魔女は、隠れたままに、ここに居た。ヒト種族に魔術を教える学校の先生として。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る