デートウィズデヴィス
ルシウスの店を出て王都の中心街に戻ったスイとデヴィスは、鍛冶屋に来ていた。
「いらっしゃい、団長と…………ゆ、勇者様!?」
「はは、有名人だな。ドルフ、預けてた剣と鎧を引き取りに来た」
「あ、あぁ、すまないな、僕には何の素材かわからなかった。というか未だ発見されてない素材だろう」
そう言って鍛冶屋の店主ドルフは鎧と剣を差し出した。
「まあ、そうだよな。勇者と一緒に召喚されたんだ。そこらのモンとは違うだろうな」
デヴィスの言葉に頷きながら、ドルフはスイの装備を確認した。
「おや、勇者様が身につけてるのはメリーちゃんの『ホワイトローブ』じゃないかい?」
「わかるのか?」
「ああ、メリーちゃんが旅装にと、お給金を貯めて買った物だからね、特別に隠密効果と反射速度を強化してあるのさ。魔物から逃げられるようにね。ただ、確かにランクの高い装備だけど、勇者様に相応しいかと言ったら……ね。もし普段使いの軽いローブが欲しいなら、隣の『ハルフローブ店』を見てみるといい。そのローブもそこで買ってくれたものだし、もっと高ランクの物も揃えてるからね」
「はは、ドルフ。ちゃっかり妹の店の宣伝か。しかしそうだな、スイ、実はセバス様に勇者の身の回りの物を揃えるように言われてるんだ。気に入ったもんがあれば言うんだぞ」
「助かる。しかし武具と防具はもういらんだろ」
「……店主の前でそういう事言うか」
スイは「気遣いなんてめんどっちぃ」と口にしそうになったが、ミライアに「勇者たる態度で」と言われた事を思い出し、辛うじて抑えた。
「……ははは、勇者様のお眼鏡にかなわず残念だが、いつでもお待ちしてるよ」
デヴィスは鎧を背中に担いでいたリュックに入れ、スイは剣を腰にさし、店を出た。
「あ、いらっしゃーい」
続いて紹介があった『ハルフローブ店』に入る。
所狭しと並べられていた鍛冶屋に比べ、こちらの店は広めの店内に、空間に余裕を持って様々なローブが飾られている。
手前には庶民でも手を出せる物が多く、店の奥に行くほど魔力や質が高くなっていた。
「あれ、勇者様!?おっどろきー。どんな物をお探しで?」
「これと同じものが欲しい。気に入ってるんだが、持ち主に返した方がいいだろう」
スイはヒラヒラとローブをはためかせて見せると、ドルフの妹であり、店主であるハルフは驚きから呆れた表情に変わった。
「んーー。ふーーーん。勇者様って女心がわからないんだねー。メリーちゃんから貰ったんでしょ?あの子凄くソレ大事にしてたのよー?それを譲り受けたって事はどういう事かわからないかなー。返すべきは、それじゃなくてー想いだよねー」
店内に数人いた客は勇者が珍しく、すっかり野次馬になっている。野次馬はハルフの無礼に眉を顰めたが、次の勇者の清々しさに感嘆する事になる。
「そうか、そういうもんか。すまなかったな。ではデヴィス、ここに用はなさそうだ。それと、後で金の稼ぎ方を教えて貰えると助かる」
「い、いいのか、スイ。国の金で高ランクの物も買っていいんだぞ?」
デヴィスがちゃっかり下衆な発言をしたが、スイはきっぱり言った。
「言っただろ、俺はこれを気に入った。ランク至上主義は面倒だ。ハル、近いうちにプレゼントを買いに来る。まあ、他の場所で良い物を見つけたら来ないがな」
「ふふっ、一言余計だよ!でもわかってくれたなら嬉しーな、メリーちゃんも喜ぶし。待ってるよ勇者様!」
スイは野次馬の拍手に怠そうに手を振りながら店を出た。
「ではリザードステーキとポワロー煮、アロマエールを頼む」
日が暮れて、スイが昼を食べていない事に気がつき、早めのディナーはデヴィスのお気に入りの店に入った。
「なんだスイ、酒が飲めるのか。そういえばいくつなんだ?」
「十五年、前の世界で生きた」
酒場ほど騒がしくなく、されど程よい音に包まれた店内の照明は若干暗めで、スイは居心地の良さを感じていた。
「そうか、なら成人だな。って言ってもまだ子供だけどな。それよりスイの世界は争いなんかなかったのか?」
「……そうだな、平和だ」
恐らく平和な地球の話をしても、アルバリウシスの人間には想像も出来ないのだろう。故に説明し難い。
スイはそんなもどかしさを感じながらもしっかり受け答えていた。
「そうか、どうやってそんな世界が出来たんだろうな……あ、そういえばスイ、ルシウスの店で何貰ってきたんだ?」
スイも今思い出したかの様に、背中に挿した物を取る。
「最も俺に合った武器、ブーメラン。知らないか?」
「……知らないなぁ。それより、最もってどういう事だ、剣はどうする。何よりそれ、強いのか?」
「最強だ」
デヴィスは顔をしかめながら、ちょうど運ばれてきたビールを呷った。
「まあ、そうだな、明日の訓練で使ってみろ。勿論、剣の訓練も続けるぞ」
「楽しみにしてろ。それとデヴ、そのリュックの中どうなってるんだ」
そう言ってスイが指差したのは、隣の椅子に置かれた、スイの鎧が入っている筈なのに、明らかに軽そうで小柄なリュックだ。
「ん?あぁ、空間拡張リュック、魔道具さ。あまり多くは収納できないが……欲しいのか?」
「欲しいな」
「楽しみにしてな」
デヴィスの笑みを見て、スイは無表情で喜んだ。
「……お前は、表情を変える事もめんどくさいのかよ……」
そんな会話で二人の夜は更けてゆく。
――――――――――――――
「黒狼 召喚」
「なっ、召喚まで……しかも二十体も!?」
「魔封じのアクセサリーまでつけて、大丈夫なのか?」
翌日の訓練所に集まったのはスイ、ミライアとデヴィス。
いつも通り剣の訓練を行った後に、スイの新たな武器を見ようと集まった。
「よし。では一斉にかかって来い駄犬ども」
主人の挑発に乗った黒狼は一斉に動き出す。
しかしその半数が消えたのも同時だった。
――ザンッ。
片目を閉じて舞い踊るスイ。しなやかに揺れる腕に合わせてブーメランは回転しながら敵を殲滅する。
――ザシュッ。ザザン。
スイの身体全身が武器を操るタクトの様で。操られる芸術は威力を落とさず自由に舞い続ける。
「す、すげえ……」
「スイの魔力は消費してないってことは、あの武器マジックアイテムなの?」
ミライアの問いは半分は正解なのだが、ここに答えが解る者はいない。
そして残るは二体。
一体がスイを無防備だと判断し、襲いかかる。
しかし――
「キャゥン」
開いた片目で周囲の状況を把握していたスイの、回し蹴りによる一撃で消滅する。
その動きに合わせたかの様にブーメランは大きく曲線を描きながら最後の一体を貫いた。
「……まるでスイと武器が主役の舞踏会ね………」
殲滅を終えて、訓練所に響いたミライアの呟きに反応したのはスイ。
「では、これからの俺の相棒はこいつだ。それと、この世界に来てから活動し過ぎた。俺は疲れたから長期休暇に入る。自由に過ごさせてもらうから用があったらメリーに伝えておいてくれ」
「はぁっ!?何を勝手に!貴方訓練だって短時間しか受けてないじゃない!」
スイの突然の我儘に驚くミライアだが、思わぬ所から助けが入る。
「まあミライア、少しくらいいいんじゃないか?短時間とは言え、剣術はもう実践に出ても心配ないくらい鍛えた。そろそろギルドに登録させようと思っていた所だったんだ。それに突然異世界から召喚されたんだ、少しくらい甘えさせてやろう」
デヴィスの言葉に、頷かざるを得ないミライアだった。
「助かる」
しかし果たして、スイが要求したのは本当に休暇だったのだろうか。
「ブーメランは剣より楽で良いな」なんて呟くスイを見送る二人には、未だ知る由は無い。
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