幼馴染と作る最強のラブコメ

不破伊織

第1話 幼馴染こそが至極のヒロインだと思いませんか?

「俺、加納が好きだ」


 俺はまっすぐに目の前の女の子に想いを伝える。ただ好きだという想いを。


「こんな俺だけど、どうしようもない俺だけど、だからこそお前がいないとダメなんだ。 俺と付き合ってくれないか?」


 そう言った瞬間俺の唇に加納の唇が重なる。


「これが答えじゃダメ、かな?」


 唇を離すと加納の顔は朱色に染まっていた。


「ダメじゃない」


 そう返事をして俺と加納はもう一度唇を重ねる。 自分の顔が徐々に熱を帯びていくのが自分でも分かる。 その熱さが自分の熱なのか唇か伝わる加納の熱なのかそれともその両方なのかは分からない。


 ただ一つだけ言えることは、この甘酸っぱさをこの熱をこの苦しくも幸せな感覚をこれから先忘れることはないということだ。


 そして俺たちは何度も何度も唇を重ねた。 この想いが消えないように……。




「で? このキモオタ童貞の妄想を赤裸々に綴ったような痛すぎる文章はなに?」


「だから俺の小説の新作! どう? 今回けっこう自信作なんだけど」


「はぁ……」


「あ、捨てんじゃねー! せっかく寝る間も惜しんで書いた原稿なのに……」


 俺の目の前にいる彼女はまるでゴミを捨てるかのように原稿をゴミ箱の中へ放り込む。


「まぁそうねあえて感想を言うのなら、控えめに言ってダメダメかしら。 全くこれが自信作とか今までのはどんな駄作なのよ」


「そんなにだめ?」


「とりあえず小説としては0点ね」


「さすがにそこまでじゃないだろ」


「どこをとっても質は低いし」


「うぅ……」


「どこかで見たようなパーツの寄せ集めだし」


「ぐっ……」


「よくこんなクソ駄作を人に見せられるわね」


「ぐはっ……!!」


 こいつ本当に容赦ねーな……。


「ていうかこの会話だってどこかで見たことあるのは俺だけですか!?」


「そんなことよりも」


 スルーかよ


「何で私はあんたのオナニーを見せつけられてるわけ?」


「そりゃ、お前が幼馴染でプロのライトノベル作家だからに決まってるだろ!」


 茜が丘菜々あかねがおかなな。 表の顔はただ女子高生だがその正体は俺の幼馴染にして新人賞大賞受賞作『恋を知らないあの日の君へ』の原作者七瀬茜ななせあかね


 誰もが振り向くような美少女というわけではないが幼馴染のひいき目をなしにしても整った顔をしており、その容姿や現役女子高生作家ということだけあって今最も人気な作家に数えられる程だ。


 ただし、口の悪さが玉に瑕。


「60万部突破したそうだな。 おめでとう」


「ありがとう。 でもそれを知ってる奏斗だからこそ私がこんなゴミを読んでいる暇がないことぐらい分かるでしょ?」


 せっかく名前が出たことだし俺の自己紹介もしておこう。


 俺は一宮奏斗いちみやかなと。 茜が丘菜々の幼馴染でネットの小説投稿サイトに小説を投稿している。


 ……けどまぁ、菜々と違って人気なんてまったくないんだけど。 辛い。


「あぁ、それでも俺はどうしてもお前に読んでほしいんだ!」


 俺が言い寄ると菜々は少しだけ顔を赤くして俯く。 しかしすぐに顔を上げると赤くなった顔をごまかすように言う。


「どうしていきなり読んでくれなんて言うのよ! 奏斗言ってたじゃない! 小説を書くのが楽しくて仕方ないって」


「だったらそれでいいじゃない。 今まで通り好きなように書いてネットに上げていればそれでいいじゃない」


 あぁ、確かに前はそれでよかった。


「それじゃダメなんだ。 今のままじゃ誰も俺の小説を読んでくれないから」


「俺はもっと多くの人に俺の小説を読んでもらいたい!」


「だから頼むよ菜々、俺にシナリオの書き方を教えてくれ!」


 でも俺は変わらないといけない。 もっと多くの人に読んでもらうために……!


「嫌よ」


 えぇー、そんなあっさり……?


「お前、それは幼馴染としてどーなんだよ」


「そんなの知らないわよ。 あなたの評価なんてどうでもいいし」


 相当なんてレベルじゃなく度を越えた毒舌。


 それでも多少なりとも理性的に聞こえなくもないからこいつはたちが悪い。


「だいたい一番肝心なシナリオを人に聞くとか何舐め腐ったこと言ってんの?」


「それにそんなに言うなら新人賞にでも応募すればいいでしょ。 そんな勇気もないやつに教えることなんて何も無い」


 そう言って俺に背を向ける。


「待てよ!まだ話は……」


「もう話すことないんてない!」


 俺の話を遮ってそう言った菜々は俺の部屋を出る。 ただ、菜々の後ろ姿からは何故か悲しさのようなものが感じられた。


「……もう私のためだけには書いてくれないのね」


 そして菜々はこの場を後にする。


 締め切られた扉に少しの体温とその言葉を残して。

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