異常の魔窟-1
ブレイドが見つけ出した魔窟は森の奥にある洞窟の中にその入り口をぽっかりと開けていた。
MSOでも感じたことのない濃い魔素にはブレイドも驚いたものの、封印を目的にやって来ているのだから引き返すという選択肢は皆無である。
「ここが、魔窟の入り口か」
緊張をはらんだ声を落としたのはミリエラ。
自身の魔法特性もあって魔窟封印には参加したことのないミリエラにとって、入り口であっても魔窟は恐怖の対象になってしまう。
「ここは……五階層くらいか」
「……分かるのか?」
「ほら、普通は分からないんだからね?」
「うーん、納得いかんぞ。絶対に魔窟封印をメインに働いてる人とかなら分かるんだって」
ここでもブレイド魔素
「そんなもの、聞いたことがないぞ?」
「ぐぬぬっ、これは早くマンティスよりも大きな都市にも行かないといけないな」
「お兄ちゃん、まずは目の前の魔窟封印からだよ!」
「分かってるよ。おそらく、ダーラグロロアより強い魔族がいるとは考えにくい」
表情を真剣なものに変えてはっきりと口にするブレイドの発言に、リアナとミリエラは少しだけ安堵する。
しかし、二人の表情はすぐに深刻なものに変わった。
「だからこそ怖い。最深部の魔族が自身の命を省みず魔素を放出することで他の魔族に変化をもたらすことがある」
「変化とは?」
「本来よりも上位の魔族に変化するんです。一人の強敵よりも、多くの手強い相手の方が怖い存在になることもある」
「……それは、数の暴力ということだな?」
ミリエラの言葉にブレイドは大きく頷いた。
「さっきの場合は異なります。こちらも数を用意することができますからね。だけど、魔窟の中では俺たち三人しかいません。そんな中で数の暴力に晒されれば、普通は押し潰されます」
「そうか……ブレイド、私は本当に役に立つと思うか?」
心配そうに口にしたミリエラは、自身の魔法特性を心配している。
太陽の光が全く届かない魔窟では光魔法の効果は期待できず、外での戦闘だったダーラグロロアにすら手も足も出なかった。
ミリエラは自分もマンティスに残るべきだったのではないかと、今さらに思っていた。
「大丈夫ですよ」
しかし、ブレイドはあっさりとミリエラの思いを良い形で否定する。
「……宿屋で言っていた、魔法の条件変更だな?」
「はい。さっき少しだけ俺で試してみたんですけど、問題なくできたのでいけるはずです」
「た、試したって、いつ試してたの?」
「ん? あぁ、魔窟を探していた時にちょっとね」
リアナの疑問にさらりと答えたブレイドだったが、そのような素振りを見ていなかったリアナはそれでも疑問顔である。
「俺の魔素判定は上下左右どちらか一方向に対して長い射程を持っているけど、それは魔窟を目の前にして階層を探るためなんだ。だけど、今回は場所の分からない魔窟を探るために精度は劣るけど広範囲で調べていたんだ」
「……ふ、普通は、そんなことできないんだがな」
「でも、精度は劣るのになんで見つけられたの?」
「ある程度の場所を把握したら、また条件を変えていつもの精度と一方向の射程重視に戻して探し出したんだよ」
当然のように口にされたことで、リアナもミリエラも呆れ顔だ。
「これをミリエラさんにやってもらいます。そうすれば、最大の威力は劣るものの太陽の光がなくても十分な威力を残したまま魔窟で使えるはずです」
「……できたらな」
自信なさげなミリエラを見て、ブレイドは目の前まで移動してはっきりと口にする。
「できたら、じゃない。やるんです」
「か、簡単に言ってくれるな」
「実際、簡単ですよ。要は意識の問題です」
「意識だと?」
「はい。今は光魔法はこうあるべき、こうじゃないと使えないと、頭の中で確立されているはずです。その考えを変えるんですよ」
「……本当に、簡単に言ってくれるよ。それなら、ブレイドならばどのように条件を変更する?」
想像がつかないミリエラはブレイドの知恵を借りることにした。
ブレイドも質問されることを予想していたのだろう、すぐに答えを口にする。
「光があれば威力を増幅させることができる、かな。この光を太陽に限定するんじゃなくて、単純な光だったり、炎から得られる光でも問題なし」
「……なるほど。それなら条件は軽くできるな」
「その分、太陽の光に限定した時よりも威力は落ちますから、魔窟を攻略しながらどの程度の威力まで出るのか探っていきましょう」
「ブレイド、当たり前のように言っているが……いや、そうだな。やらなければならないんだったな」
ミリエラも覚悟を決めた。もとよりそのつもりだったのだ。
「ブレイド、リアナ、頼りにしているぞ」
「わ、私もですか?」
「先ほどの魔法を見せられては、私以上の実力者だと思われても仕方がないぞ?」
「俺も頼りにしてるからな!」
「お兄ちゃんはダメだからね!」
今から魔窟に潜る人たちとは思えないような賑やかさにミリエラは苦笑しながらも、頼りになると内心で思いながら初めての魔窟に潜っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます