第十三話 ユージ、開拓地でケビンと鍛冶工房の準備部隊を迎える
ユージが第二次開拓団を連れて街から帰ってきた翌日。
前日の夕方に顔合わせをすませた開拓民たち。
第一次開拓団は、ひとまずそれぞれの仕事に取りかかっていた。
新たにやってきた九人の第二次開拓団は、ユージについて開拓地の見学である。
「この共同住宅が、女性陣の宿泊場所 兼 針子の作業所です。結婚されてる女性はこちらでほかの女性陣と一緒に生活するか、布の仮設テントでよければ提供します。すいませんがまだほかの建物は建築中なので……」
ツアーガイドよろしく第二次開拓団の9人を案内するユージ。
ユージをサポートするように、コタロー、アリス、リーゼ、元冒険パーティのリーダー・ブレーズ、針子のユルシェルが同行している。
「こちらの方が古い建物ですが、新しい共同住宅はまだ内装が完成してませんので……」
どうやら開拓民たちは、これまで住んでいた共同住宅を女性と針子の作業所に譲り、男たちはまだ未完成の共同住宅で生活するようだ。レディファーストである。まあ男は元冒険者が中心なので、野営することを考えたらなんの苦もないようだが。
ユージの言葉を聞いて、キャッキャとはしゃぎはじめる女性陣。
第二次開拓団のうち、女性は四人。
三人は街で働こうと田舎の農村から出てきた同郷の女の子たち。まだ20才にもなっていないらしい。若い女性集団の独特のエネルギーで、ユージはちょっと近寄りがたいようだ。
四人目の女性は『深緑の風』の盾役・ドミニクの婚約者。彼女も針子として働くことになっているようだ。無口な男・ドミニクは、ケビンに交渉済みであるようだった。さすが、まわりが気づかないうちに女性を射止めた男。いつの間にか婚約者を針子として雇ってもらう根まわしを終えていたらしい。
「はい、じゃあ次は水場と、あとは農地と建築現場、森の境界の柵を案内しますね。そんなところかなあ……」
「水場! そうよ、この開拓地はすごいの! 水を汲みに行くにも近いし、なんたってお湯も使い放題なんだから!」
針子の女性・ユルシェルの宣言に目を見張る女性陣。
お湯が使い放題? ウソでしょ、と疑っている。燃料を使って沸かすお湯は贅沢品。
プルミエの街や周辺の村では木材が豊富なため、王都や他の都市ほどではないが、それでも贅沢品であることに変わりはない。彼女たちが疑うのも当然であった。
水場に到着した女性陣は、感動の涙を流していた。
ユージの家の蛇口にホースをつなぎ、出しっ放しとなっているお湯と水。お湯に手をかざし、温度を確かめては泣きながら大喜びしている。洗濯も、食器などの洗い物も、水浴びもお湯でできるのだ。
元冒険者の五人の男たちはさっそく上半身をさらけ出し、お湯をかけあってはしゃいでいた。むさい。いや、ここぞとばかり三人の独身女性に筋肉アピールをしていたようだ。
ちなみに、一行は水場に向かう途中で犬人族のマルクとすれ違っていた。
ペコリと頭を下げ、水瓶を運んでいったマルク。
三人の女性のうち、一人の目が輝いていた。どうやらカワイイものに目がない一人がマルクをロックオンしたようだ。
初めてユージと会った時は12才だったマルクも、気づけばもう14才。優しいマルクが強引に押し倒され、いろんなものをなくす日も近いのかもしれない。
「そっか、また人数増えたし蛇口を調整しなくちゃなあ」
「ユージさん、用水路は排水の方を先に作った方がいいんじゃねえか? とりあえず開拓地から離れたところまででもよ」
ボソリと呟いたユージの言葉に反応し、案を出すブレーズ。もっともである。排水路ができれば、蛇口を全開にしておけばいいだけなのだ。
「ユージ兄! あと、お風呂つくってあげよーよ! お風呂はきもちいいんだから!」
アリスが目を輝かせて思いつきを口にする。優しい女の子である。
お風呂文化はないものの、サウナや沐浴は存在している。ユージ家からは給湯ペースに上限はあるものの、お湯は無尽蔵に提供できる。湯船さえ作ればすぐに風呂に入れるようになるうえ、開拓地にはすでに木工職人がいるのだ。
「おお、そうだねアリス! なんで思いつかなかったんだろ! よーし、露天風呂だ!」
はしゃぎだすユージ、アリス、コタロー、通訳してもらったリーゼ。三人と一匹は、さっそく木工職人のトマスの下へ駆け出していった。
案内していた人々は置き去りである。
呆気にとられ、立ち尽くす第二次開拓団の面々。
「あー、ユージさんには時々ああいうことがあるんだ。まあだいたい悪いことにはならねえから、ほっといてやってくれ。次は農地だったか? ほれ、こっちだ」
ここまで同行していたブレーズとユルシェルは苦笑い。
ユージの突発的な奇行に慣れている二人は、第二次開拓団の案内を続ける。
どうやら開拓団長にして村長のユージは、住人の優しさに助けられているようだった。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
「おーい、ユージさん!」
「あ、ケビンさん、おかえりなさい! 早かったですねー」
開拓地に第二次開拓団を迎えてから一週間。
水場からの排水路造りに取りかかっていたユージに声がかかる。
どうやらケビンは手早く準備を終え、開拓地へやってきたようだ。
「あれ? ケビンさん、後ろの方たちは? ……あ、おひさしぶりです!」
「あ、気づきましたか。ええ、鍛冶工房の親方とその弟子のみなさんです。開拓地に作る鍛冶場の場所を下見していただこうと思いまして」
ケビンの後ろにいたのは、背が低く、がっしりとした体格の男が数名と人族の男たち。
以前にユージがバールのようなものを作ってもらった街の鍛冶工房の面々であった。背が低い男たちは立派なあごひげを生やしたドワーフだ。
「なるほど……あ、ひとまず開拓地を案内しますね! 宿泊はテントでいいかな……」
ブツブツと呟きながら考え込むユージ。
ユージと一緒に作業していたアリスとリーゼは、興味津々でドワーフのあごひげを見つめている。
何を張り切っているのか、先頭を歩きはじめるコタロー。ワンッと声をかけるさまは、こっちよ、ついてきなさい、と言っているかのようだ。リーダー気取りである。犬だが。
「おお……さすがに人手がいると早いですねえ……」
「ええ、新しい人たちもがんばってくれてますよ! 出張で来た木工職人のみなさんも」
新しい共同住宅と、2棟の建物を見て目をむくケビン。
あいかわらず内装は後にすることで、二軒の住居はそれなりに形になっていた。もっとも、金物を使わない建築技術はまだまだ練習中のようだが。
「それで、ここから先が工房の予定地です。どうでしょうか?」
開拓村の予定図を手に、ユージがケビンと鍛冶師のドワーフに場所を示す。ちなみに、建築ということで木工職人のトマスと親方も同行していた。
鍛冶工房の予定地はユージの家の裏手、北側。
伐採はすでに終わり、広い敷地が確保されている。
プルミエの街に続く道、村の入り口、共同住宅は南側。
農地はユージの家の南から東にかけてがメイン。水場は西側。
秘密を守り、関係ない人を近づけないために、ユージは家の北側を提示したのだ。
「広さは問題ねえ。水場も近いしな」
ドワーフの親方が満足そうに頷き、言葉少なに答える。
「それはよかった! ではトマスさん、親方、こちらは夏までにお願いします」
「ケビンさん、了解っす! それにしても……敷地もそうですが、建物もでかいっすね。それを2棟っすか……」
開拓地に建設するのは、鍛冶工房であって鍛冶工房ではない。ここは缶詰作りの工場になる予定なのだ。
金属を加工する場所、料理して詰める場所、封をして殺菌する場所。
鍛冶と調理は空間を分ける必要があるが、秘密を守るためには近くにしたい。さらにユージが持ち込んだ『流れ作業』の概念が、広い敷地を必要としたのだ。
工期を計算しはじめた木工職人チームにユージが声をかける。
「トマスさん、親方、間に合わない時はブレーズさんとマルセルに声かけてください。開拓民に手伝ってもらいますから。ここが開拓地のキモになると思うんですよね」
そんなユージの発言に目を見開くケビン。どうやらユージのまっとうな発言に驚いたようだ。失礼である。
「ところでよ。あの柵に使ってた金属はなんだ?」
話が一段落したのを見計らっていたのか、ドワーフの親方がユージに質問する。
開拓地の大外をぐるりと囲む第三防壁。
その補強に使われていた黒い格子状の金属。
鍛冶師たちは、無限増殖できる門に興味津々のようだった。
ああ、アレはですね……と説明をはじめるユージ。
とはいえユージもたいしたことは知らないのだが。
ともあれ。
開拓地の産業の一つとなる缶詰工場は、ようやく動き出した。
一気に人数が増えた針子の教育もはじまり、服飾の増産も見えてきた。
ユージたちがプルミエの街で手配した依頼を受けた冒険者たちは、ちらほらと道造りに取りかかりはじめたようだ。
第二次開拓団を迎え入れた開拓地・ホウジョウ村は、急発展の兆しを見せるのだった。
まあ、もう間もなく開拓団長とメインスポンサーは旅に出るのだが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます