閑話3-9 ユージの妹サクラ、夫のジョージに兄のことを話す

-------------------------前書き-------------------------


副題の「3-9」は、この閑話が第三章九話目ごろという意味です。


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「もうお兄ちゃんたら! 下着ぐらいさっさと気づきなさいよ! ああ、アリスちゃんかわいそう……」


 アメリカ西海岸、ロサンゼルス。サクラがオフィスに到着し、メールチェックした時のことである。


『どうしたんだい、サクラ』


 共同経営者であり、夫でもあるジョージがサクラに話しかけてきた。


『お兄ちゃんがちょっとまたトラブルでね……。ランチの時に話すから。あ、そうそう、言っていた掲示板の翻訳終わったよ。こっちは説明に時間かかるから、夜にゆっくりね』


 どうやらサクラは、兄の事情をジョージに伝えることにしたようである。




『つまり……ユージさんは異世界にいるってことかい?』


 ジョージに抜粋して翻訳した掲示板の内容を手渡し、サクラが説明を終えて。ようやくジョージが言葉を発した。


『うん、そう。信じられないかもしれないけど、私は信じてるよ。あんな手の込んだ嘘をつける人じゃないし』


『異世界! 異世界か! ファンタジーか? ゾンビ、ゾンビはいるかな!』


 突然のジョージのハイテンションに驚くサクラ。いつも冷静なジョージにしては珍しいことである。


『えっ……。どうだろう……。緑色の小さい人型をした生き物と、空を飛ぶトカゲっぽい怪鳥は見たって言ってたけど、ゾンビはいないんじゃないかな?』


『そうか、ゾンビはいないのか……。画像と動画はダウンロードしたかい?』


 落胆したような表情を見せた後、いつも通りの冷静な姿に戻るジョージ。何がそんなに彼のテンションを左右したのか。ゾンビか。やはりアメリカ人はゾンビが好きなのか。


『うん、ぜんぶこのUSBメモリに入れておいたよ』


 サクラからUSBメモリを受け取り、ジョージは27インチのiM○cに差し込んで画像と動画データを移す。

 ここは、アメコミや映画のポスターがベタベタと壁に貼られたジョージの自室である。一見デタラメに貼られているようだが、それでも全体のバランスを崩さずオシャレに見えるのはジョージのセンスの賜物だろう。


 データを移し終え、さっそく画像を開くジョージ。


『これは……?』


 27インチのモニターには、でかでかとユージとコタロー、家の門、緑色の小さな人が映っている。

 ちなみにユージはIDを書いた紙を持ち、敵性生物を前ににっこりピースである。


『お兄ちゃんと掲示板の人たちはゴブリンって言ってた。ゲームとかでよく出てくるって』


『ゴブリン……。CG? いや、この自然な影は特殊メイクか? でもそれにしては表面の筋肉までリアルだ……』


『あ、ゴブリンは動画もあるよ。ファイル名は……これね。ちょっと気持ち悪いから、気をつけて』


 ユージが門を挟んでゴブリンを撃退した時のグロ動画を、ちょっと気をつけて程度の注意で夫に勧めるサクラ。どうやらこの子もちょっとネジが飛んでいるようである。


『これか……。カメラは固定か。ちょっと見づらいけど、それにしても……OH! ジーザス! 先に言っておいてくれよサクラ!』


『え? 気をつけてって言ったじゃない』


 27インチのモニタに血しぶきが舞い、臓物が映り込む。スプラッターの国の人とはいえ、ジョージはすっかり油断していたようである。

 気持ちを切り替えたジョージが、最後まで動画を見終える。


『カメラが固定でライトが足りないにしても……これはリアルすぎる。CGでも合成でも特殊メイクでも、素人レベルじゃないよ』


『もう……。だから、私はホントにお兄ちゃんが異世界にいるんだって信じてる。そう言ったじゃない』


『ごめんごめん、サクラ。さすがにすぐには信じられなくてね……。サクラ、ユージさんのこと、秘密にしたいかい? ボクの友達に画像や映像の加工に詳しいヤツがいるから、そいつに見せてもいいかな?』


『別に見せていいわよ。お兄ちゃん、これをそのままネットにアップしてるから誰でも見られるし……。でもひとつお願いがあるの。まわりの景色なんかも映ってるから、どこか調べてくれないかな? 合成だったりすれば、詳しい人ならわかるかもしれないし……』


『わかった。それも言っておくよ。ありがとう、サクラ』


 何がありがとうだかよくわからないものの、感謝の言葉を口にしたジョージと、見つめ合うサクラ。何故かいい雰囲気である。


 仕方あるまい。ここは彼らの家で、彼らは夫婦なのだ。


 ふたりの距離が近づき、そっと口づけを、次第に熱いキスを交わす二人。


 このあと滅茶苦茶セッ


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