第三話 ユージ、異世界人に初遭遇する

「紅葉もキレイだけど、やっぱり実りの秋、食欲の秋! 今日も大量だな、コタロー」


 雄二の身体能力が上がってから三ヶ月。

 季節は変わり、夏を過ぎて秋を迎えている。

 広大な森は赤や黄に色づき、美しい風景を見せている。

 ドングリをはじめとした木の実や体を張って食べられるか確かめた茸、コタローの活躍により仕留められた山鳥など、冬に向けて食糧を確保していく雄二とコタロー。


「しっかし、南も西も二泊三日じゃ人の気配はなかったしなー。森もまだ続いてるみたいだし……」


 そうだね、まだもりはつづくみたいだね、と同意するようにコタローがワンッとひと吠え。


 そう、夏の間、雄二とコタローは森を抜けるべく南と西へ、それぞれ二泊三日の探索を行っていたのだ。


 しかしどちらも森を抜けることなく、人が手を入れた跡も見つけられず、すごすごと帰ってきたのであった。

 唯一の収穫は、西に一日少しの場所に南に向けて流れる川を見つけたことである。

 ちなみに北と東には向かっていない。なにしろ外出初日にワイバーンが飛来したルートであるので。


 現在、安全で快適な住居があるうえに一人でも特に困らないという雄二のぼっち気質ゆえ、それほど本腰を入れて森を抜ける努力をしていないということもある。そもそも探索行も二泊三日である。行楽か。


 ちなみに自宅前で行われたゴブリン防衛戦、森でのゴブリン遭遇戦以来、ゴブリンをはじめとしたファンタジー生物も見かけていない。

 身体能力が上がっても意味なしである。まあ重い荷物が持てるようになり、採取には役立っているようであるが。


「そもそもこの世界に人間はいるのか。あ、でも言葉わからないじゃん。ひとりっきりかもなあ……」


 大きな声の独り言の内容に反応したのか、雄二の足に体をなすりつけるコタロー。

 雄二を見上げるつぶらな瞳は、なにいってるの、わたしがいるじゃない、となぐさめているかのようだ。


「おおう。ありがとな、コタロー。まあ考えたってわからないし、いまは冬に向けての食糧集めだな! 非常食の乾パンとカロリーメ○ト各種とソイ○ョイ各種、ハーブティーにドングリコーヒーじゃ飽きるもんな!」


 けっこう充実しているようである。

 冷蔵庫も生きているため、捌いた鳥は一部冷凍保存もしており、実は一人と一匹が冬を越えるには余裕がある。


 ちなみに保存食としての薫製作りは失敗した。半生の薫り付けはうまくいったが、専用の道具なく代用品だけでしっかり水分を抜き、保存食としての薫製を作るのは意外に難しいのである。


 そんな状況もあり、森からの収穫ですべてをまかないきれる訳でもなく、非常食はゆるやかに消費している。

 このままであれば、次の冬は余裕だが次の次の冬は厳しい生活になりそうだ、というペースである。


 雄二としてはこの秋でできるだけたくさんの食糧を集めて冬を越し、次の春か夏に森を抜け、人里を探す本格的な旅に出る予定であった。


「日も落ちはじめて来たし、今日はそろそろ帰るか、コタロー」


 雄二の時計で時刻は三時。

 度重なる探索により、もはや「獣道」と呼べる程度には歩きやすくなった道の上で、雄二はコタローに声をかける。が、反応はない。

 コタローは道の先の一点を見つめ、ウォンッと吠えると視線の先へ駆けていった。


 どうしたコタロー、なんか見つけたか、などと言いつつ追いかける雄二。走ることしばし。


 大木の横でおすわりして雄二を待っていたコタローの足下にいたのは、人であった。


 大木にもたれかかり、うつむいた顔は胸まで伸びた赤毛で隠れている。


 それは、人であった。


 しかも、幼女であった。

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