第30話 研鑽

女は強し。




商店街の中に最近オープンしたスポーツジム。

その一角。


「クソッ!何で勝てない!!俺の泳ぎは完璧だったはずだ!!」


「………」



 地面にひざまずき、こうべを垂れるオス。

 その姿を冷ややかな目で見下ろすメス。



 いつだって男は女には勝てない。

 財布の紐を妻に握られた夫。人生の縮図を見ているみたいだ。

 1つの真理を体現したかのような美しさが、そこにはあった。



「なぜだ!?日本代表にまで選ばれたこの俺が手も足も出ないなんて…」


「キュゥ。キュイ」

(出直してきなさい。坊や。)


「壁を蹴り、初速からトップスピードに持っていく脚力。水の抵抗をまったく感じさせない、水中での滑らかな動き。可愛くも素早い犬かき。あんな泳ぎができるなんて……人間じゃねぇ!!」


※正解。カワウソです。





商店街の中に最近オープンしたスポーツジム。

その一角。


「クソッ!何で勝てない!!俺の走りは完璧だったはずだ!!」


「………」



 地面にひざまずき、こうべを垂れるオス。

 その姿を冷ややかな目で見下ろすメス。



 いつだって男は女を騙せない。

 浮気の証拠を妻に握られた夫。人生の縮図を見ているみたいだ。

 1つの真理を体現したかのような美しさが、そこにはあった。



「なぜだ!?国体で優勝までしたこの俺が手も足も出ないなんて…」


「キュゥ。キュイ」

(出直してきなさい。坊や。)


「大地を蹴り、初速からトップスピードに持っていく脚力。空気の抵抗をまったく感じさせない、滑らかな動き。両手両足で大地を駆け抜ける力強さ。あんな走りができるなんて……まるで獣じゃねぇか!!」


※正解。カワウソです。






 まったく、相手の実力も見極められないなんてバカな男たちね。

 私が彼以外の男に屈する訳ないじゃない。


「さくらちゃん、こんなところにいたのね」


 あ、師匠!


 師匠は、年齢不詳、色気増し増しの美ボディの素晴らしい女性だ。

 彼女の手によって、何人の美魔女が世に放たれたことか。

 だから私は敬意を込めて師匠と呼ばせてもらっている。


「次はお腹まわりを引き締めるエクササイズよ!早く来なさい」


「キュイ!!!」



ーーーーーーー




「はい!ワン・ツー!ワン・ツー!」



「キュッキュー!キュッキュー!」


……

…………


「さくらちゃんダメよ。尻尾で支えちゃ。ちゃんとお腹を意識して!!」


「はい!ワン・ツー!ワン・ツー!」



 ぐぬぬぬ。

 キツイけど、女は自分磨きをやめたら終わりよ!!


「キュッキュー!キュッキュー!」



「尻尾ぉっ!!」



「キューーッ!!」




女は強し。

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