第144話一時の別れ 其の一

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 ゴゴゴッ



 俺が一言唱えると地面がせり上がり、石造りのしっかりした家屋が出現する。

 ふー、これで今日のノルマは達成だな。


 俺は今、大森林に戻ってきている。

 バルゥから桜を救い出してから一ヵ月か。

 ロウエンに城塞都市ダイーンに送ってもらい、皆の無事を確認した。

 もう戦う必要は無くなったことをマルスとロナに伝えると、拠点である大森林に皆で戻ろうということになった。


 今大森林には五万を超えるビアンコの民、二十万人近い交配種達がいる。

 先日ロウエンが彼らを引き連れて大森林にやってきたのだ。

 ロウエンは捕らわれていたビアンコの他に王都アシュートに住む交配種にも声をかけたそうだ。

 そしたら大半の交配種が大森林に来ることになってしまい、俺は彼らが住む場所を作るのに奔走することになってしまった。


「パパー。調子はどう?」


 この声は桜か。桜はここに戻ってきてから食料生産を担当してもらっている。

 人口が突如増えてしまったので、森の中で狩りをするにもこの人数だ。このままでは皆飢えてしまう。

 自立することは大切だが、今は緊急事態でもある。

 皆が飢えないようラーメンのストックを大量の用意しておくことにした。


「俺か? とりあえずこれで全員が屋根の下で眠れるだろうな。手狭になったら各自で小屋でも作ってもらえばいい。桜、食料の生産はどんな感じだ?」

「んーとね、毎日MPが切れるまでラーメンを出し続けてるから…… 三食ラーメンでも一年分は大丈夫じゃないかな? 味噌も醤油もいっぱい出しておいたしね」


 そうか、当面は問題無さそうだな。


「桜、俺はマルスに報告に行く。お前も来るか?」

「私? 遠慮しとく。疲れたから戻って休んでるよ」


「分かった。ご苦労様。ゆっくり休んでくれ。報告が済んだら俺も帰るから」

「うん! それじゃ待ってるね!」


 桜と別れ、マルスとロナが住む集落に向かう。あいつらも仕事に忙殺されているだろう。

 今や大森林は小国家と言える程の人口を有している。人が増えるということはトラブルも増えるということだ。

 問題が発生したらリーダーであるマルスに報告することになっているのだ。


 そうだ、ロウエンからこの国を治めろって言われたけど、マルスに丸投げするってのもいいな。

 あいつなら立派にヴィルジホルツを治めてくれるに違いない。

 うん、そうしよう。


 意気揚々とマルスの家を訪ねる。


「マルスー! いるかー……?」

「「…………」」


 マルスとロナは二人して机に突っ伏している。

 何があったのだろうか?


「どうした?」


 俺の言葉にロナが答える。


「どうしたじゃないよ! 全くどいつもこいつもつまらない揉め事を起こしてさ! いびきがうるさいだの、ラーメンのスープが少なかっただの! 好きな子が出来たから告白するのを手伝ってくれなんてバカもいるんだよ!」


 あちゃー、結構抱え込んでるな。これ以上仕事を増やせんな。


「ところで何の用だい?」

「いや、報告をと思ってな。マルスは寝てるのか?」


「疲れてるからね…… 私が後で言っておくよ」

「そうか、それじゃ言うぞ。住居、食料の生産はとりあえず今日で何とかなった。これでしばらくは衣食住には困らない。俺がやれることは全てやった……」


「そうか…… じゃあそろそろ帰るんだね? あんたの世界に」

「あぁ。しばらく留守にする。すまんが、フィーネとチシャのこと頼めるか?」


「任せておくれ。でもアンタがいなくなるのは痛手だね…… 私達だけでやっていけるかな……?」


 不安そうな顔をする。

 だが二人なら問題無いだろう。実際二人はよくやっていると思う。


「大丈夫だよ。お前達は立派な指導者だ。みんなもお前達を頼ってるじゃないか。でもな、全部を抱え込むなよ。一人が出来ることなんて限られてるんだ。早いとこお前達の部下になるやつを見つけて育てるんだ。そうすれば負担も減るしな」

「部下か…… アンタが言った通り、私達って上の立場になっちゃったんだね」


「そういうことさ。だけどこのまま仕事ばかりだと婚期を逃すぞ。さっさと分業出来るようにして自分の時間を作れ。このままじゃマルスと結婚出来ないぞ?」

「あんたねぇ…… ふふ、その通りかもね。でも今は頑張る時さ。マルスと一緒になるのはもう少し先でもいいよ」


 ロナは微笑むつつ、突っ伏して寝ているマルスの頭を撫でる。

 その光景は既に夫婦のようだ。二人にも幸せになってもらいたいものだ。


「それじゃ俺は戻るよ。出発は明日だ。どうせ戻ってくるから見送りは必要無い。マルスにもそう伝えておいてくれ」

「そうかい? 私は見送りはしたかったけど……」


「ははは、今生の別れじゃあるまいし。いいからお前達は自分の仕事をしろ」

「分かったよ。マルスには伝えておく。ライト、気を付けて帰るんだよ。そして…… 絶対に戻ってきておくれよ…… アンタは必要な男だ。みんなにとってね」


「あぁ。必ず戻ってくる。それじゃあな。行ってくるわ」


 ロナに別れを告げ、家族が待つ家に戻る。

 中には桜とチシャがいる。フィーネは…… いないな。


「お父さん! お帰りなさい!」


 チシャが俺の胸に飛び込んでくる。

 しっかり抱き止め、そのまま抱っこするとチシャは満足そうに微笑む。


「ただいま。いい子にしてたか?」

「うん! 今日はね、小さい子と一緒に遊んであげたの! 算数も教えてあげたんだよ!」


 ほう? そんなことを。

 チシャは大森林で唯一の獣人ということもあり、子供達から人気があるようだ。

 いつも同年代の子供達と一緒にいるしな。


「そうか、チシャは偉いな」

「えへへ……」


 抱っこするチシャの頭を撫でるが…… 

 少し寂しそうな顔をする。


「どうした?」

「あのね…… お父さん、もうすぐおでかけするんでしょ? お留守番出来るけど…… やっぱり寂しい……」


 そうだよな。必ず戻ってくるとはいえ、いつ帰れるか分からない。

 バルゥも言っていたが、転移の際に時間軸がずれることもあるそうだ。


 正直心配ではあるが、俺に帰らないという選択肢は無い。

 けじめを付けに一度日本に帰らないと。

 そしてまたこの世界に戻りチシャを本当の娘として迎えるつもりだ。


「ごめんな、絶対に帰って来るから。いい子にして待てるか?」

「うん…… 我慢する…… ぐすん……」


 泣き出してしまった。しょうがないな。


「泣かないの。チシャ、お土産を持って帰ってくるからさ。何か欲しい物はあるか?」

「いらない…… 早く帰って来て…… それだけでいいの……」


 いじらしい…… 

 その言葉を聞いてチシャを抱く力が強くなってしまう。


「はわわ……」

「あはは、ごめんな。大丈夫だよ。なるべく早く帰ってくるからさ」


 チシャを下ろす。さてごはんの支度にかかるか。

 しばしの別れだ。少し豪華な夕食にしようと思ったのだが…… 

 フィーネがいないんだよな。


「桜、フィーネはどこに行ったんだ?」

「少し遅くなるってさ。夕食は先に食べててくれって言ってたよ」


 そうか、本当はみんなで食べたかったが。桜とチシャを待たせるのもかわいそうだ。

 俺は夕食を作ることに。今日はカレーにした。俺達を家族にしてくれた思い出の味だ。

 チシャの場合はオムライスかな? また帰ってきたら作ってやるからな。


 三人で食卓に着きカレーを頂くことに。


「からーい。でも美味しいねー」

「パパのカレーは相変わらず最高だね! なんでそんなに女子力高いのよ」


 二人とも満足そうにカレーを頬張る。

 はは、いっぱい食べろよ。お代わりはたくさん用意してあるからな。

 食事を終えるとみんなで風呂に。チシャと桜はパシャパシャとお湯をかけあって遊んでいる。


「あはは! やったなー!」

「きゃー。お父さん助けてー」


 楽しそうに遊ぶ二人。本当の姉妹のようだ。

 血は繋がっていないが、魂で繋がっている。

 臭い台詞だが、二人を見るとそう思えてくる。


 俺はチシャとも家族になる運命だったのかもな。


「それじゃそろそろ上がろうか。もう遅いからな。二人は先に休んでてくれ」

「お父さんは?」


「俺か? フィーネの帰りを待ってるよ。っていうか、フィーネ遅いな……」


 もう八時を回ってる頃だろう。二人はいつも寝ている小屋に戻っていく。

 俺は食事の後片付けをしてから外で一服する。

 二本目のタバコに火を着けようとした時……


「ライトさーん!」


 フィーネ? ずいぶん遅かったな。


「お帰り。お腹空いてないか?」

「もうペコペコです!」


「ははは、そうか。カレーを用意した。温めるよ」

「カレー!? やったー!」


 はは、相変わらずだな。


 俺はフィーネと二人で、小屋に戻っていった。

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