第123話準備期間 其の三

 俺とフィーネとロナはとある集落…… いや、集落の跡地にいる。

 誰もいないな。リクエスト通りだ。今日はここに大浴場を作る予定なのだ。

 ロナが不思議そうな顔をしてに質問してくる。


「今度は一体何をするつもりなんだい? マルスに言われてあんたらをここに連れて来たはいいが、何の説明も受けてなくてね」

「なんだ、お前ら恋人同士のくせに報連相がなってないな。コミュニケーション不足は別れる原因になるぞ?」


「大きなお世話だよ! マルスは忙しいの! で、でも別れる原因になるってほんと……?」


 ちょっとからかったつもりなのだが、ロナを不安にさせてしまった。


「すまんすまん、冗談だ。森の中であんな熱いキスをするんだ。お前達は幸せになるよ。マルスはお前にぞっこんみたいだしな」

「だから! なんで知ってんのよ!? 覗いてたの!?」


 ロナをからかうのはこれぐらいにしよう。さぁ、仕事の時間だ。


「ほら、ロナ。遊んでないで仕事だ。今日中に終わらせるぞ」

「あんたが言い始めたんじゃないか…… もう! さっさとやるよ!」


 怒られてしまった。では気を取り直して。

 俺はフィーネとロナに図面を渡す。


「ライトさん、これの通りに地面に線を書いていけばいいんですか?」

「そうだ。かなり大きくて複雑な内装にするつもりだから線は真っ直ぐに頼む。スピードより正確さを心掛けてくれ」


「はい!」


 フィーネとロナは図面通りに地面に線を書き始める。設計に関しては畑違いだからよく分からん。

 だが正確に真っ直ぐな線があれば、俺の能力、作成で簡単な建物は出来上がる。

 飾りとかは後でみんなに任せればいいさ。


 一時間もすると二人は線を書き終える。

 フィーネが嬉しそうにこっちに走ってきた。


「ライトさーん! こんな感じでいいですか!?」

「あぁ。上出来だ。この大きさなら一回で千人は風呂に入ることが出来そうだ」


 集落の跡地をフルに使ったからな。さて、今度は俺の出番だな。


「フィーネ、ロナ、後ろに下がっててくれ」


 二人が下がるのを確認。安全確保よーし。それでは……


 オドを練る……


 この一回で全てのMPを使用する……


 イメージする……


 老若男女問わず気軽に風呂を楽しめる大浴場を……


 脱衣所、番台、浴室……


 そうだ。予定には無かったがアレも作っておこう。


 少し脱衣所を狭くして、その横に小さめな部屋を作る……


 これでよし。


 イメージのまま……


 オドを放つ!


作成クリエイション!】



 ゴゴゴッ……



 俺が一言発すると、地面は盛り上がり、石造りの大きな建物が出来上がる。


「うわぁ…… 相変わらずすごいですね……」

「はは、誉め言葉だな。それじゃ中を確認してみよう」


 三人で大浴場の中に入る。うん、予定通りの作りになってるな。


「ねぇ、ここって何をするところなの?」


 ロナが番台を指差して質問してくる。


「俺の世界では、ここで入浴料をもらうんだ。それに男湯、女湯に別れてるからな。悪いことをするやつを見張る場所でもある」

「でもさ、金を取る気は無いんだろ? だったらなんでこんなの作るのさ?」


 番台を作った理由か。それはな……


「ノリで作ってみた。やっぱり番台があった方が雰囲気出るだろ? なぁ、フィーネ?」

「…………」


 何も答えない。何故だ? 


「私…… ライトさんのこと、大好きですけど…… こういうところはあんまり理解出来ません……」


 なんだ? 俺のこだわりが理解出来ないとは? フィーネはA型なのかな? 

 死んだかみさんもA型で俺の無駄なこだわりには一切の理解を示してくれなかった。

 いつも呆れてたっけな。


 番台を過ぎると脱衣所だ。

 ドライヤーとかマッサージチェアを作りたいが、それは機構が複雑で俺には作れない。

 日本に帰ったら電機関係の勉強とかしようかな。

 そうだ! その手の本をいっぱい買ってこよう!


 でも電気はどうしよ。雷魔法? 

 まぁそれは後で考えるか。


「ここでは何をするんだい?」

「服を脱いで風呂に入る準備をするのさ」


「へー、それじゃ、あの部屋は何? 図面には無かったじゃないの」


 ほう、ロナは気付いたのか。でもあれの説明は後だな。

 二人を連れて浴室に。そこには……



 カポーンッ



「うわぁ…… おっきい…… すごく大きなお風呂ですね!」


 浴槽の出来にフィーネはご満悦のようだ。

 最大で五百人は入れる浴槽を男女別で二つ。

 間違いなくビアンコ、交配種達の憩いの場になるだろう。

 そうだ、せっかくなので試しにお湯を張ってみるか。


「フィーネ、男女両方の浴槽に水を張っておいてくれ。でもお湯を沸かすと時間がかかるな……」

「ふふ、今日は特別ですよ。火魔法でお湯にしてみます!」


 なるほど。普段は給湯器を作ってお湯を沸かしているが、そっちの方が早いかもな。

 なんたってフィーネは魔法のエキスパートだし。


「それじゃお湯は任せていいか? 俺は一度戻ってタオルと着替えを持ってくるよ」

「みんなも呼んで来たらどうですか?」


 そうだな。せっかくだ。久しぶりにみんなで風呂を楽しむか。


「ロナ、マルスも呼んでこいよ。気持ちいいぞ」

「マルスを? べ、別にいいよ…… 後でみんなと入るから……」


「そうか? でも二人っきりで風呂に入れる機会なんてそうそうないぞ。イチャイチャするチャンスだ。いいから呼んでこい」

「…………」


 はは、ロナの顔が真っ赤になったよ。

 ロナは強がってはいるが、マルスが大好きなのだろう。若いっていいねぇ。


 フィーネにお湯を張るのを任せて集落に戻る。

 俺達に宛がわれた小屋に戻るが…… 誰もいないな。

 しょうがないので、タオルと着替えを持ってマルスを訪ねる。

 あいつなら桜とチシャがどこにいるか知ってるだろ。


 マルスの小屋に向かうと、中から声が聞こえてくる。

 ロナの声だな。


「すごいんだよ! 早く行こうよ! ライトが作ったフロってやつはさ、すごく気持ちいいんだって!」

「そ、そんな興奮するなよ…… でも俺はこれから仕事があるからさ…… 遊んでる訳には……」


 マルスめ。真面目な奴だ。

 だがな上に立つ者として、風呂の素晴らしさを皆に伝える役目もあるのだ。

 それにはマルス自身が先に風呂に入っていないとな。


 俺はドアをノックしてマルスの小屋に入り……


 強引に連行することにした。


「なっ!? ライト!?」

「ほら、ごちゃごちゃ言うな。風呂行くぞ!」


 マルスを連れて大浴場に向かう。その間、ロナは終始笑顔だった。

 マルスと一緒に風呂に入れるのが嬉しいんだな。


「そういえば桜とチシャはどこに行ったんだ?」

「二人か? あいつらなら仕事を終えてからビアンコの子供達と遊んでるはずだ。今はサクラが子供達に教えたカゲオニっていう遊びがブームでな。みんなカゲオニに夢中なんだよ」


 ほう、桜め。中々やるじゃないか。影鬼だったら道具もいらないしな。

 みんなで遊んでいるのを止めるのもかわいそうだ。桜とチシャは後で風呂に誘うとするか。


 大浴場に到着すると…… 建物の換気孔から湯気がもうもうと出ている。お湯は問題無さそうだな。


「こ、これがフロか…… すごいな……」


 マルスは大浴場を見て驚いている。

 ふふ、まだ早いぞ。驚くのは風呂に入ってからだ。


 フィーネが外に出てきた。額には汗が滲んでいる。

 千人が入れる浴槽に水を張っただけではなく、それをお湯にしたんだ。

 頑張ってくれたみたいだな。そうだ、あれも作っておかなくちゃ。


「ライトさん! いい湯加減ですよ! さぁ入りましょ!」

「そうだな。それじゃ俺達は男湯だ。マルスとロナは女湯に入ってくれ」


 マルスがキョトンとした顔をする。


「え? 俺とライトが一緒に入るんじゃないのか?」

「お前なぁ…… かわいい彼女がいるんだろ? ここには俺達しかいないし。ロナと一緒に入ってこい!」


「え? え!? で、でも俺達フロの入り方なんて分からないし……」

「大丈夫だ。声は通るよう設計してある。隣から入り方をレクチャーしてやるから。ロナ! マルスを連れてけ!」


「うん!」


 ロナは笑顔でマルスを女湯に連れていく。


 ふふ、しっかり風呂で楽しめよ?

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