第71話ノア

 キリンに乗って桜が待つオアシスを目指す。

 俺の前にはリアンナ奴隷解放戦線の刺客、処刑寸前に助けることが出来た猫獣人のノアが乗っている。

 恐らくこいつは人族に対して強い警戒を持っているだろう。

 後ろに乗せてたらナイフを抜かれて喉を切られるかもしれないからな。

 一応念のためだ。


「ちょっとアンタ…… なんであたしを助けたの……?」

「助けて欲しそうだったから」


「ふざけないで!」

「そうだな。理由は休憩した時にでも話す。そろそろ夜になるな。今日はここで一泊するか」


 キリンを停め、作成クリエイションを発動し、地下室を作る。

 ノアを休ませないと。その前に水筒を渡して……


「飲め。水分補給はしっかりとな」

「毒が入ってるんじゃないの……」


 ノアはさっきから警戒しっぱなしだ。ずっと猫耳が後ろに倒れてる。

 出会った頃のチシャと一緒だな。


「毒なんか入れるかよ。ノアを殺しちまったら助けた意味が無くなるだろ?」

「…………」


 ノアは黙って水筒の水を…… 一気飲みする。

 少し変な顔をしてるな。


「これ何? 変な味がする……」

「経口補水液だ。かなり暑かったからな。水よりも体に吸収されるはずだ」


 ノアの服は処刑前だったからか、俺が着ているような全身を強い日差しから守る服装をしていない。

 半袖のシャツにパンツって感じだ。体力を消耗してるんだろうな。確認しとくか。



名前:ノア

年齢:17

種族:猫獣人

Lv:65

DPS:142

HP:452/1458 MP:524 STR:1231 INT:245

能力:剣術4 影足(相手に気づかれることなく移動可能、回避率向上) 暗殺 (背後からの一撃はステータス、レベルに関係無く致死攻撃を与える)

状態:熱中症(スリップダメージ)



 やば…… 熱中症にかかってたか。

 HPも残り三分の一だ。しょうがない。


「ノア、お前は今状態異常にかかっている。それを治さないと恐らく死んでしまう」

「分かってるよ…… 多分砂漠熱にかかってるんだよね…… 昔かかったことがあるんだ…… あの時は死にかけたけど…… 今回はもっとやばいみたいだね……」


「俺なら熱中…… いや、その砂漠熱を治せる。ちょっと我慢してもらわなくちゃならないことがあるんだが…… いいかな?」

「あぁ…… ここで死ぬよりはマシさ。なんだってやってやる…… それにあんたに頼る以外方法は無いみたいだしね……」


 覚悟はあるみたいだな。俺はノアを抱きしめて……


「なっ!?」

「大人しくしてろ」


 おでこにキスをする。これでよし。

 ノアよ、そんな怒るな。猫がシャー!ってしてるみたいだぞ。

 怖…… ステータス確認しとくか。



名前:ノア

年齢:17

種族:猫獣人

Lv:65

DPS:142

HP:452/1458 MP:524 STR:1231 INT:245

能力:剣術4 影足(相手に気づかれることなく移動可能、回避率向上) 暗殺 (背後からの一撃はステータス、レベルに関係無く致死攻撃を与える)

付与効果:来人のキス(一度だけ致死攻撃から回復、且つ状態異常回復、MP自動回復)



 これでよし。ノアも自分の体の変化を感じてるようだ。


「これは……? 体が軽くなった? 気怠さが無くなったよ!」

「そうか。でもHPは減ったままだ。しっかり食べて体力を回復するんだ。ごはんを作るから地下室で休んでいてくれ」


 ノアを休ませてる間に俺はごはんの支度だ。

 おにぎりはもう無いので桜に出してもらった無限ラーメンの出番だ。

 悲しいことだがフィーネがいないため、具材は一切無い。

 まぁ贅沢は言っていられない。

 具材無しのシンプルな塩ラーメンはすぐに出来上がった。


「ノアー。出来たぞー」

『もう出来たの!? 今横になったってのに……』


 地下室から文句を言うノア。確かに早かったな。

 いつもだったら野菜とかも茹でるからこの倍は時間がかかっていただろうし。

 すでに作成を使いテーブルとイスを作っている。

 そこにラーメンを並べて……


「あんた…… いつのまにこんな……? 魔法使いなのか?」

「魔法も使えるけどな。そう言えば俺の職業ってなんていうんだろうな。ゲーマー? なんか違うな。まぁいいや。さぁ食べようぜ」


 ノアに箸を渡す。きょとんとした表情を浮かべてるな。

 そうか、箸の使い方が分からないんだな。俺はノアの横に座る。


「こうやって麺を摘まむんだ。そして口に運ぶ……」

「ちょっと!? 気安く手を握るな!」


 怒りながらも俺のレクチャーを受け、ぎこちなくラーメンを啜り始める。


「何これ!? 美味しいよ!」


 ははは、この反応。初めてラーメンを食べたフィーネと同じだ。

 フィーネ…… 今はどうしてるんだろうか? 

 まともにごはんを食べさせてもらってるんだろうか? 心配だ……


 ノアは夢中でラーメンを啜り、あっという間に完食。

 すごい食欲だな。


「もう一杯食うか?」

「まだあるの!? お願い!」


 俺はお湯を沸かし、再びラーメンを作る。

 ノアがその様子を見にやってきた。


「これって…… こんな食べ物見たことない…… あんたもしかして……?」

「おいおい、そろそろあんたってのは止めないか? 自己紹介しなかった俺が悪いのか…… 俺の名は来人だ」


「ライト…… ライト!? もしかしてアズゥホルツを救った聖女の父のライト!?」

「聖女の父かどうかは知らんがアズゥホルツの町を救ったのは事実だな」


 ノアは俺のことを知っているみたいだ。これは好都合だ。

 ノアはリアンナ奴隷解放戦線のメンバー。

 聖女の名を冠するとこから察するにノア達も聖女信仰を持っているかもしれない。

 だとするとノアの仲間に会うことも難しくないだろう。


「わ、私、とんだご無礼を…… どうかお許しください!」

「ははは、気にするなよ。無理に敬語を使う必要も無い。ただ、名前で呼んでくれると嬉しいがね」


「は、はい、ではライト様……」

「色々聞きたいこともあるだろうけど…… ラーメンが出来上がった。ほら、食べな」


 二杯目のラーメンをノアの前に置く。

 あ、せっかく警戒が解けたと思ったのに、また耳が後ろにペタンってしてる。

 警戒っていうか緊張だな。

 緊張しつつもノアは二杯目のラーメンを食べ終えた。


「少し話すか…… こっちに来てくれ」

「は、はい……」


 焚火の前に移動し二人で並んで座る。

 お湯を沸かしてコーヒーを淹れる。

 ノアの分には砂糖を多めに入れておいた。


「飲みな。熱いぞ」

「はい……」


 では話を始めるか。


「ノア、実は助けが必要なんだ。お前が所属するリアンナ奴隷解放戦線。そこのアジト…… もしくは隠れ家? なんでもいいや。そこに案内して欲しい」

「助け…… 一体どうなされ…… あぁ! もうダメ! やっぱり敬語なんてむずかしいよ! ライト様! 無礼は許してね! で、どうしたの? 聖女様達が助けが必要って……」


「ははは、それでいいさ。実は仲間が一人捕まってしまってな…… アルブ・ビアンコの娘なんだ。その子を救い出したい」

「耳長…… そういえば聖女様の仲間に耳長がいるって聞いたことがあるね。その子が捕まってしまったんだ…… 分かった。ライト様、地図はあるかい?」


 俺は地図を広げる。二人で地図を眺めて……


「今私達がいるのがここ、ここから西に…… そうだね。キリンを使えば三日ってとこだね。そこは地下洞が多くて身を隠すにはピッタリなんだ。そこにアジトがある」


 三日か…… それなりの準備が必要だな。

 とりあえず水は大量に持って行かないと。


「ノア、ひとまずはオアシスに戻りたい。そこに娘がいてな。迎えに行かないと」

「聖女様に会えるの!? そ、そうか。そりゃそうだよね。ライト様は聖女の父親な訳だし…… うぅ…… 緊張しちゃうよ……」


 緊張する必要なんてないのに。ただの中学二年生だぞ? 


「とりあえずは明日朝一でここを出る。今日は早めに休もう」

「そ、そうだね…… あ…… その…… ライト様……?」


「なんだ?」

「いや…… 何でもない……」


 何か言いたいことがあるのか? 

 俺とノアは二人地下室に入り横になる。

 地下室はひんやりとして過ごしやすい。

 すぐに眠気が襲ってくるが…… ノアが話しかけてきた。


「ライト様……」

「なに……?」


「私を抱いてみない?」

「結構です……」


 しまった…… 獣人は強い異性に惹かれやすいんだった…… 


「わ、私初めてだけど、きっと満足する…… いや満足させてみせるよ!」

「もっと自分を大切にしなさい…… ってゆうかもう寝ろ……」


 ノアが俺に襲い掛かってきませんように…… 

 それじゃお休み……

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