第69話脱出

 俺は町の外を目指し走る! 俺を捕まえようと暴徒と化した住民が追ってくるが…… 


 後ろを振り向いてアサルトライフルを構える。

 殺すのが目的ではない。足を狙って発砲。



 タタタタタタタタタタタタタタタタタタタンッ



「うぎっ!?」

「ぎゃあっ!?」


 先頭を行く者達がバタバタと倒れ、それに足を取られた後続が動きを止める。

 本当はフラッシュグレネードを使うのが一番なのだが乱発は出来ない。

 ゲームと同じで一定時間のチャージが必要だ。


 フィーネを助けたかったのだが、敵のDPS、数を考えると作戦も無しに突っ込めば俺が死ぬことになるだろう。

 俺一人ならそれも覚悟の上だ。

 しかし桜、チシャのことを考えると…… 


 俺は逃げ出すことしか出来なかった。フィーネを見捨てることになるなんてな…… 


「パパ!」


 桜だ! 町の外で俺を待っていてくれたみたいだ! 

 チシャと二人でキリンに乗っている。その横ではキリンのムニンが俺が乗るのを待ってくれている! 

 急ぎムニンに乗って……


「行くぞ!」

「行くってどこに!?」


「知るか! とにかくこの場を離れる!」


 どこに行けばいいか分からない。俺は来た道を逆走し始める。

 このまま進めばオアシスがあるはずだ…… 

 あそこにするか。水場があり、ある程度ではあるが体力を回復出来る。

 今は身の安全を確保しないと…… 

 俺達は来た道をひたすら戻ることにした。



 キリンに乗って街道を進み、太陽が西の空に沈みかける頃…… 

 俺達はオアシスにたどり着いた。


 危なかった…… 手持ちの水は尽きかけていた。三人でオアシスの水を浴びるように飲む…… 



 ゴクッ ゴクッ……



 生き返るな。水を生成出来るのはフィーネだけだ。

 それにテントなどの寝具もフィーネが持ってたんだ。

 何気にフィーネに頼りっぱなしだったってことか。


 仕方ない。俺は作成クリエイリョンを発動し、安全に寝られる場所を作ることに。

 だがオアシスに家があったら目立つよな…… 

 そうだ! シェルターを作るか! 

 とある一角に向かい作成クリエイションを発動する。


 作るは地下室…… 目立たず…… 頑丈で…… 

 熱い日差しを遮ることの出来るシェルターを……


 オドを練って作成を発動! 



 ゴゴゴッ



 地鳴りがして、少し地面が揺れる。

 数分もすると地面に地下に続く階段が出来上がり、それはシェルターへと繋がっていた。


 三人でシェルターの中に入る。一応明り取りのために小さな小窓を作っておいた。

 月明りがシェルター内部を照らす。完全に暗闇ってことにはならないな。

 これである程度ではあるが休める場所を確保出来たか……


 中はひんやりとしていて過ごしやすい。

 しまった。最初からこれを作っておけばよかった…… 

 そうすればいちいち町に寄ろうなんて考えなくても済んだかもしれないのに。

 後悔先に立たずってこのことか…… 


 チシャも桜も疲れたのだろう。地面に座り込んでしまう。

 俺は外に行って水筒に水を汲んでくる。

 桜に塩と砂糖だけ出してもらって経口補水液を作る。

 ほんとは柑橘類を入れるべきなんだけど食料品はフィーネが管理してくれてたからな…… 

 食料は桜の無限ラーメンと無限おにぎりのみ。

 飢え死にはしないが栄養は偏っちまうな。でも食べなきゃ…… 


「桜、おにぎりを頼む。食欲は無いだろうが少しでもお腹に入れておこう……」

「うん……」


 三人でモソモソとおにぎりを齧る。

 おにぎり一個でお腹いっぱいだよ。

 桜は一口齧って食べるのを止めてしまった……


「パパ、これからどうなるのかな……?」

「すまん…… 正直どうすればいいのか分からない…… でもフィーネは助けないと」


「どうやって?」

「…………」


 答えられない。闇雲にフィーネを助けに行ってもこっちの戦力は足りないだろうな。

 正直今の俺は一騎当千という力を持っているだろう。

 でもあくまで千を相手に出来る力だ。

 相手が万だったら? 十万だったら? 百万だったら? 

 一人で国相手に戦争が出来るほどチート性能を有してるわけではないんだ。

 無理に出て行っては俺が死ぬ。一人では無理だ。協力者が必要だ。 

 でもこの国で協力してくれる人なんて……

 

 暗い未来しか見えない。少し休むか…… 

 休んでリフレッシュすれば違う視点で考えられるかもしれないしな。


 三人川の字になって横になる。

 するとチシャがすすり泣く声が聞こえてきた。


「どうした?」

「ごめんなさい…… フィーネお姉ちゃんが捕まったのは…… 私のせいなの……」


 チシャのせい? どういうことなんだろうか?


「私の首輪ね…… 今白い色してるでしょ…… これね、いつもは黒い首輪なの…… 主人のところから逃げ出した奴隷の首輪は白い色に変わるの…… お姉ちゃんとお買い物してる時にフードが脱げちゃって…… ごめんなさい…… ごめんなさい……」


 それを見た住民がチシャを襲ったって訳か。

 恐らく人相書きなんかも出回ってるんだろうな。

 フィーネの存在に気付いた騎士団は魔女一派として彼女を捕えようとしたんだ。

 シクシクと泣くチシャと抱きしめる。


「お父さん……? 怒ってないの?」

「あぁ、怒るもんか。大丈夫だよ。フィーネは必ず助けるから」


 自分に言い聞かせるように…… 

 大丈夫。フィーネはまだ殺されていないはずだ。

 コドーの町で騎士が言ってた言葉。魔女は殺さず、生きたまま護送しろと。

 先に戦った騎士も言ってたしな。殺さずに捕えろって。

 つまり俺達はこの国を治めるルチアーニにとって何らかの使い道があるってことだ。多分ね…… 

 だから捕えたら即死刑とかにはならないだろう。


 どうするか考えないと…… 

 目を閉じる。少しでも眠ろう。


 …………


 ……………………


 …………………………………………



 眠れん…… フィーネのことばかり考えてしまう。


 眠れないなら考えるか…… 

 どうすればフィーネを助けられるか考えてみよう。

 俺達が独力で救出するか? 

 いや駄目だな。俺はチート性能を有しているとはいえ、あくまで人として強いだけ。

 一国の軍隊と一人で戦争をして勝てるわけが無い。


 ならこの世界で知り合った権力のある者に助けを求めるか? 

 俺はアズゥホルツを治めるあのテリアっぽい犬獣人の王様とは顔見知りだ。

 彼に助けを求めれば…… 


 これも駄目だな。他国の厄介ごとに首を突っ込むべきではないだろうし、それに物理的に距離が遠すぎる。

 バイクならともかく今の俺達は原付程度の速度でしか走れないキリンに乗ってるんだ。


 ならこの国で協力者を探すか? 

 いや、この国で知り合いなんていないし、俺達は魔女一派として恐らく指名手配されてるだろうし……


 ん……? 待てよ…… 知り合いはいないが…… 

 この国に恨みを持つ者達なら知っている。

 各地でテロを起こし、奴隷解放を目指す組織。リアンナ奴隷解放戦線。

 こいつらに接触出来れば…… 


 でもどうやって? テロが起こるのをじっと待つ? 

 いつ奴らが現れるのか分からないのに? 

 駄目だ、効率が悪すぎる。


 あ…… 一つ思い付いた……


 これならいけるかも。いや、これしか方法は無いだろうな。


「桜、起きてるか?」

「ん……? うん…… 眠れなくて……」


 チシャは泣き疲れて眠ってるようだ。

 俺と桜は二人シェルターから抜け出す。


「で、どうしたの?」

「フィーネを助ける方法…… 思いついたんだ」


「ほんとに!? でもどうやって!?」

「だがこれを話す前に…… すまんが桜とチシャは少しの間、ここで留守番をしてもらわないといけないんだが…… 頼めるか?」


「私が足手まといってこと?」

「いいや、今回は俺一人の方が動きやすいし、チシャの面倒は恐らく見れないだろうからな。そうだな、五日間あれば大丈夫だろう」


「五日もパパと離れるんだ。ちょっと心配だね…… で、どうするの?」

「俺は一人でコドーの町に戻る。二日もあれば着くだろ。覚えてるか? 俺達、コドーの町に着いた時にリアンナ奴隷解放戦線の刺客に襲われたよな?」


「うん…… 結構強かったよね……」


 そう、俺の考えてることは……


「俺は捕らわれてる刺客を助け出す。そしてリアンナ奴隷解放戦線のアジトに連れてってもらおうと思うんだ」


 桜の顔が驚きの表情に変わる。

 そうだよな。父親がテログループと接触しようってんだ。

 驚くのも無理はない。


「どういうつもりなの……? だってあいつら人殺しだよ?」

「この際、綺麗事は言っていられない。いいか、敵の敵は味方。この考え方で行く。俺達の当面の敵はこの国そのものだ。そして敵対するようにリアンナ奴隷解放戦線が存在する。俺達がリアンナ奴隷解放戦線に協力すればフィーネ救出を手伝ってくれるかもしれないからな」


 桜が乗り気ではないのは分かる。

 でも俺に残された道はこれしかないだろう。


 フィーネを助けるためだ。

 利用出来る物はなんだって利用してやる。


「明日の朝にはコドーに向けて立つつもりだ。桜、留守の間チシャの面倒を頼む。ここらは強い魔物が多いはずだ。なるべくシェルターから出ないようにな」

「分かった……」


 納得出来ない顔をしてる桜とシェルターに戻る。

 隣で眠るチシャを見て思う。

 すまんが少し留守にするぞ。

 いい子にして待ってるんだぞ。


 いつもは俺の隣で眠るフィーネを思う……

 必ず助ける…… 

 待っていてくれよ……

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