娘と一緒に異世界転移!? とあるおっさんの異世界放浪記! ~日本に帰るためにお父さんは頑張ります! でも異世界人の彼女が出来てしまった。どうしよう……~

骨折さん

プロローグ

第1話ここはどこ?

 春の日差しを浴びながら俺はバイクを走らせる。

 愛車である400ccのビックスクーターからはいつも聞いている軽やかなエンジン音が伝わってくる。

 川越街道を真っ直ぐ進み、目的地の公園まで後一時間というところだろうか。


 陽光が暖かい。気持ちいいな。風は少し冷たいがあまり気にならない。

 後ろに乗っている娘の体温を感じられるからだ。


「ねぇパパ! あとどれくらいで着くの!?」


 娘の桜が大声で俺に話しかける。

 そんなに怒鳴らなくても聞こえるよ。


「あと一時間だ! 疲れたか!?」

「ううん! 大丈夫! バイクに乗るのなんて久しぶりだから! ふふ、昔を思い出すね!」


 慣れたもんだな。この子は保育園に通ってる頃から俺のバイクに乗っている。

 かみさんには危ないからバイクで迎えに行くのは止めてって、よく怒られたっけな。


「ねぇパパ! 私も大人になったらバイクの免許を取ってみたい!」


 はは、俺の子だね。

 でも安全運転を約束してくれよ。


「いいよ! でも教習代は自分で稼いでな!」

「えー! そこはパパが出してよ!」


 益体も無い会話を楽しみつつ、バイクを走らせる。

 時間帯も早いせいかあまり車が走っていない。

 都内を抜け、埼玉県に差し掛かるといった所で……


 サァァッ……


 霧が出てきた。

 あれ? 今日は一日晴れの予定だったのに。


 俺はバイクを路肩に止める。

 おかしいな。袖をめくり腕時計を見ると、まだ朝の八時だ。

 朝靄が出るには遅すぎる時間だし……


「パパ、どうしたの?」

「少し休もう。この霧の中を走るのは危ないからな」


「えー。つまんない。それじゃ時間潰しでゲームでもしましょ。パパ、スマホ出して」


 俺は桜に促されるままスマホを取り出す。対戦式のパズルゲームだな。

 あのゲーム苦手なんだよね。今まで一度も桜に勝てたことがない。 

 アプリを起動したところで桜が変な顔をした。


「どうした?」

「あれ? 圏外になってる…… どうしたのかな?」


 桜の言葉のあと、霧は更に深くなっていく。

 おかしい。すぐ横にいる桜の顔が見えない程に…… 


「パパ!? これどうなってるの!?」

「落ち着け! 俺から離れるな!」


 桜を抱き寄せる。

 この霧の中、はぐれでもしたら…… 


「うぇ…… タバコ臭い」

「我慢しろ。今離れ離れになると危険だからな」


「パパって私から見ても男前だし、優しいし、結構理想の男の人なんだけどタバコを吸うのだけは難点だよね」

「はは、すまんな。これだけは止められなくって」


 俺は酒も飲まない。いや、飲めないんだ。

 ギャンブルもしない。興味が無い。

 女にも…… いや、女には興味深々だが、かみさんが死んでから恋愛をする気も起きなくって。

 桜は私のことは気にしないでって言ってくれるのだが、今は自分の幸せよりも娘が独り立ちするのが優先だ。


 かみさんにもタバコを止められないことをよく怒られていたっけな。

 桜を霧の中、抱きしめ続ける。



◇◆◇



 どれくらいたったのだろうか? 少しずつ霧が晴れていく。

 胸に抱く桜の顔が見えてくる。14歳になったとはいえ、女の子だ。

 桜が震えてるのが伝わってくる。

 よしよし、怖かっただろ。もう大丈夫だぞ。


 桜の震えが止まり、俺の顔を見上げ……


「あれ? ここって……」


 桜は辺りを見て言葉を失っている。

 俺も霧の晴れた辺りを見ると……


 俺達は国道にいたはずだ。

 通い慣れた川越街道。だがそこにあるものは。


 アスファルトの地面ではなく。


 周りに建物も無く。


 人の営みを全く感じさせない鬱蒼とした森林が広がっていた。


「これってどういうこと!? ねぇパパ、ここってどうなの!」


 俺が聞きたいとこだよ! 

 落ち着くために懐からタバコを取り出し火を付ける。

 深めにふかし、紫煙を吐き出す……


 桜はそんな俺を見て少し嫌な顔をしている。

 タバコを一本根元まで吸い終わり、携帯灰皿に吸い殻を入れる。


「さてと…… 状況を把握する必要があるな。桜、少し辺りを見てまわるぞ」

「う、うん……」


 不安そうにしてるな。

 バイクからキーを抜いて、俺達は付近を探索し始めた。

 そこはまるでジャングルのようだ。実際は行ったことなんてないんだけどな。

 かつて見たテレビで某探検隊が密林の奥地に住む巨大生物を探しにいくみたいな番組をガキの頃見た記憶がある。

 それにそっくりな光景が広がっていた。


 聞こえてくるのは鳥の声だけ。様々な種類がいるようだ。

 チュンチュンだったりギャーギャーだったりと、けたたましく鳥が鳴いている。

 ふと上空に羽ばたく音が聞こえる。

 上を見ると木の枝に一匹の鳥がとまっているのが見えたが…… 


「パパ…… あの鳥、なんか変じゃない? 足が四本ある……」


 桜の言うとおりだった。枝にとまっている足が明らかに多い。

 よく観察すると…… 足だけじゃない。目も左右に四つずつある。これは……?


 俺は足を止める。鳥を見つつ考える。もしかしたら…… 

 いや、そんな馬鹿な話があるか。

 しかし、あの鳥は明らかに地球にいるそれではない。


 まさか異世界転移……? 

 娘の桜がはまっているラノベを俺もたまに借りて読んでいるうちに、はまってしまったのだ。

 最初は馬鹿にして読んでいたのだが、こういった話って昔からあるよな。

 某巨匠が描くアニメ映画でも神隠し的な内容もあったし。

 そう思い始めたら、俺は色んなラノベを娘と読みあうようになってしまったのだ。


「なぁ桜。俺達ってもしかしたら異世界に来ちまったのかもしれないぞ?」

「そんな…… ラノベじゃあるまいし」


「でもさ、あの鳥をどう説明する? 鳥ですらないかもしれないぞ? お前、今まで目が八つ、足が四本ある鳥なんて見たことがあるか?」

「確かに…… 本当に私達、異世界に来ちゃったの?」


 桜が不安そうに震えている。そりゃそうだよな。

 ここは一つ、父親として娘を元気付けてあげないと。


「桜、心配するな……」

「やったー! 夢にまで見た異世界転移! パパ! 一緒に冒険出来るわよ! きっと何かすごい能力とかあるのかも! そうだ! ステータスオープン!」


 おまっ!? 桜は怖がるどころか今の状況を心から喜んでいるようだ。

 流石は14歳。中二病真っ盛りだな。

 でも桜はすぐに真顔に戻る。


「あれー? ラノベみたいにステータス画面が出て来ないよ。なにか違う言葉を言わなくちゃいけないのかな?」

「おいおい。そんな都合よく話が進むわけないだろ。いいか。仮に異世界転移をしたとしたら、俺達は今かなり危険な状況にあるってことだ。

 どんな動物がいるか分からないし、人間がいたとしてもそいつらが友好的とは限らない。慎重にならないといけないぞ」


 某有名なゲームの三作目では異人とかは差別の対象にもなってたからな。

 磔からの火あぶりなんてごめんだぞ……


「う、うん。そうだね。ごめんね。少し興奮しちゃったみたいで。でもさ、せっかくだから異世界を楽しんでみたくない?」


 まぁ気持ちは分からんでもない。

 思春期はファンタジー系のRPGにどっぷりはまったからな。

 剣と魔法なんてものには憧れはある。

 とりあえず今は……


「桜、今はこの森を出ることが先決だ。人里を目指すぞ」

「うん…… でもさ、パパも言ってたけど人間がいても友好的とは限らないんだよね?」


「あぁ。でもここにいるよりはマシだ。夜の森でサバイバルなんてごめんだからな」


 まだ太陽は真上に出ている。

 夜が来るまで時間があるだろう。 

 どこに行けばいいか分からないが、とにかく森を抜けないと。

 俺は桜と二人、バイクを停めておいた場所に戻る……


「キャーッ!」


 突然の悲鳴! 

 俺達がさっきいた場所の方角から聞こえる! 


「パパ! 今のって!?」

「分からん! とにかく急ぐぞ! バイクに乗れ!」


 桜は慣れたように、颯爽とバイクにまたがる。

 俺はキーを差し込み、エンジンを始動させる。

 タコメーターが跳ね上がり、スターターを起動。



 ドッドッドッドッドッ



 エンジン音が鳴り響き、アクセルを回す。


 

 ドルンッ ブロロロロッ……



 俺は悲鳴が聞こえた方向にバイクを走らせた。

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