第5話 コタツトラップに誘い込め

 すき焼きパーティーの合間にシファー・マラクさんが事情を説明してくれた。


 彼らは異星人である。故郷はおうし座のキャラッテ星。そこは主に猫獣人が住んでいて、三つの国家がある。一つ目はソル。そこは単色系の毛色の猫獣人の国。二つ目はダブラ。縞模様系の猫獣人の国。三つめはキラリア。二色・三色系の毛色を持つ猫獣人の国。他にも少数勢力の毛色の猫獣人は存在するが、国家としては存在していない。勢力としては縞模様のダブラが約45パーセント、キラリアが30パーセント、ソルが15パーセントとの事だ。

 ある日、一大勢力を誇るダブラがソルに侵攻した。圧倒的な軍事力を持つダブラに対し劣勢であるソルはキラリアに救援を求めた。


「その、ソルの姫君がこちらのシファー・マラクさんなのです」

「そして、私を救出して下さったのがキラリアの王子であるアル・ファールドさんなのです」


 概要は理解した。しかし疑問はある。


「何故二日間だけ保護すればいいのかという事です」


 俺の質問にシファー・マラクさんが答えてくれた。


「現状、我が国の王都はダブラの制圧下にあります。しかし、彼らの狙いは、軍事力を背景にした政略結婚なのです」


 そして、アル・ファールドさんが続ける。


「しかし、我々の国が所属しているアルマ星間連合は、このような侵略行為を認めていないのです」

「つまり、その政略結婚が成立すれば国が奪われてしまう。しかし、あと二日耐えれば、アルマ星間連合の力で侵略は阻止できると」

「その通りです。和也さま」


 なるほど、事情は理解した。

 亡国の危機に晒されている姫君を助けるという大仕事だ。これは胸が熱くなるではないか。


 その時、インターホンが鳴った。

 カメラの画像には猫耳を立てている男が二人立っていた。


 来たか。

 自動人形が玄関まで出迎え、二人の猫耳男をリビングに連れてきた。


 一人は小柄でまだ中学生といった印象の男性。もう一人は逞しい体つきの壮年の男性だった。本来は猫獣人なのだろうが、猫耳以外は人間そっくりで、二人共、紺色の仕立ての良いスーツを着用している。


「初めまして。私はダブラ王国の皇太子、ムラート・アデュ・ダブラと申します」

「私はムラート様の護衛兼執事で、名をナル・セル・アキュラと申します」


 自ら名乗り、そして恭しく礼をする。


「あ! 姫さま見つけた! 寂しかったよ~」


 ムラート皇太子はシファー・マラクさんを見つけ彼女に突進するのだが、執事のアキュラは皇太子の首根っこを捕まえて拘束した。


「太子。はしたない真似はお止めください。行儀が悪すぎますぞ」

「ごめんごめん。姫さまを見つけて我慢できなくなったんだ」

「甘えてはなりません。我慢ですぞ」

「はーい」


 なかなか厳しい執事さんである。そして皇太子は案外素直だった。


「俺がこの家のあるじ綾川和也あやかわかずやです。こちらのシファー・マラクさんとアル・ファールドさんから話は聞いています」

「それなら簡単です。さあ、シファー姫をこちらに引き渡してください。僕たち、結婚するんです」

「俺は彼女の意見に同意し彼女を保護する。貴方に引き渡すわけにはいかない」

「ねえ、そんな固い事言わないでよ。僕、困るんだよね」


 やはり皇太子はゴネている。

 この掘り炬燵を利用して時間稼ぎをするか、もしくは彼らを退散させる必要がある。


「少し話し合いましょう。さあこちらへどうぞ」


 俺は猫獣人二人を掘り炬燵へと案内した。

 妹と星子、波里の三人は席を立たせ、二階へと上がらせた。

 

 長方形の掘り炬燵に俺とシファー・マラクさんが並んで座り、俺たちの正面にムラート皇太子と執事が座った。


 途端に二人の表情が緩む。


「おおおお。この暖房器具は癖になりそう」

「これは……太子……意識を保ってください」


 なるほど盛大に顔が緩んでいる。

 さあここからだ。今からシファー・マラクさんを守るための戦いが始まる。

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