第3話 秘密の花園

 星子はミノリン先生の隣でご機嫌だった。

 鈍感な奴め。ミノリン先生は超美形だが、恐ろしい何かを隠しているのは間違いないんだ。


「穴だ。穴を突け。どんなセキュリティにも必ず穴がある」


 また妄想に浸っている。しかしこれは、星子の機嫌がいい証拠なのだ。しかし、女子会でそのセリフはどうだろうかと思う。穴を突くとか……。


「あら星子ちゃん。ダ・イ・タ・ンね」


 ミノリン先生は、星子につられて大喜びしてるじゃないか。大人はそこを注意して欲しいと思う。


 食後のコーヒーを飲みながらミノリン先生が話し始めた。私をじっと見据えている。


「何の用かしら?」


 本題に入った。


「私が何に気を付けたら良いのか教えてください」

「あら、知子ちゃんは聡い娘だと思っていたけど、鈍感ちゃんだったのね」

「意味が分かりません」

「そう。難しかったかしら。一つは三谷よ」


 ミミ先生が何をしたというのか?

 それとも、何か危険な物でも持っているというのか。あの人は微妙な風体だが、生徒に危害を加えるような事はしないはずだ。


「もう一つは星子ちゃん」


 星子?

 このぼんやり妄想おっぱい娘が何をしたのか?

 さっぱりわからない。


「わからないみたいね。教えてあげるからよく聞きなさい」


 私はミノリン先生を注視した。星子と波里も真剣な眼差しで、ミノリン先生を見つめている。私の鼓動は高鳴り、両手にはベッタリと手汗をかいていた。


「三谷はね。教師なのに怪しい研究をしてるのよ。知ってた?」

「噂だけは」

「その内容が問題なのよ」

「知りません」

「そう。でも、それを欲しがっている連中がいる。そいつらは三谷とお前たちのつながりが深い事を知っている」


 私たち三人は顔を見合わせる。

 告白っぽいことをして逃げられた。これを深いつながりと言うのだろうか? 意味不明である。


「もう一つは星子ちゃんね。貴方は予言者だと思われているわ」


 また一つ途方もない事を言った。予言者だなんて馬鹿げている。星子は妄想癖があり、アニメのセリフを適当に喋っているだけなのだ。


「星子ちゃんがただの妄想娘だと思ってたの?」


 当然、私と羽里が頷く。


「打ち切りになったアニメのセリフを喋っていただけじゃないの?」


 そうそれは『機甲猟兵セミラミス』だ。過激なセリフとウインドウズの脆弱性を暗喩していると噂になった伝説のアニメ番組だった。その他にも、暗黒なんちゃら原作のマイナーなアニメ番組も大好きなのだが、ここでは関係がないようだ。


「違うのよ。星子ちゃんはね。打ち切りになって放映されていない第十話以降のセリフも話しているのよ。予告編にも登場してなかったセリフをね」


 それはつまり、星子が公開されていない情報を妄想で引き出していると言う事か。

 三人に見つめられる星子だったが、相変わらずのほほーんと妄想に耽っていた。


 私は、もう一つ気になっていたことがあったので質問してみた。


「転校生に気をつけろって言われてましたけど」

「あの子、怪しいでしょ。あからさまに」

「トッシー・トリニティ……」

「ええそうよ」


 そのミノリン先生の言葉に、星子と羽里も頷く。顔には出していなかったのだが、この二人もトリニティが怪しいと思っていたのだ。


「でも、あんな怪しい名前で何かするとは思えないのですが」

「さあどうかしら」


 あの鈍感な星子が怪しいと感じていたのだ。それだけ怪しければかえって注目を浴びてしまい、やましい事など実行できないと思ったのだが、ミノリン先生の見解は違うという事か。ミノリン先生は笑いながら話し続ける。


「あの子については何もわからないの。何もわからない。生年月日、本籍、両親の名前、前に通っていた学校。出身中学校や小学校、その他色々」


 私たち三人は顔を見合わせた。


「名前が変なだけじゃないのよ」


 ミノリン先生の言葉は重みを増した。トリニティは正体を隠している。それだけの何かが、あの男にはある。そういう事か。


 ファミレスでの女子会はお開きとなった。ミノリン先生は、皆を車で自宅まで送ってくれた。何かあってからでは遅いからと言って。

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