全てから自由になったらどうなるんだろう。~自由っていったいなんだ?~

デルロット

自由とネコ。

 ある夜、部屋のベッドでマンガを読んでいた俺。キュイーーーンという音とともに丸い光の玉が現れた。宙に浮いている丸い玉がしゃべりだす。

「こんにちは!私は神のようなものでそうでないもの。創造主のようなものでそうでもないもの。です。あなたにプレゼントをあげます。『完全な自由』です。」


 何やらわけのわからないことを言いだした。しかし環境適応力がかなり高い俺。

「その、よくわからんものよ。とりあえず、わかりやすく、しかも手短に、説明してくれないか?」


「そう!あなたのその異常なまでの環境適応力が『完全な自由』をプレゼントする一番の理由です。ふつうならいきなり出現した私を見てまともに相手してくれないでしょう、シクシク。『わかりやすく』、『手短に』と要望するなら、まずはプレゼントの基本中の基本を教えます。その後の質問はいくらでも受け付けます。あなたは【~する自由を!】と口にすればあらゆる事、物、者に対して全て自由にすることができます。『手短に』とのことですのでとりあえずここまでです。さあ、質疑応答の時間です!どうぞ~パチパチパチ」


 質疑応答はあとにして俺は考えてみる。俺はこのよくわからんものの言うことをすぐに信じるほどバカじゃない。完全な自由か。本当なら魅力的だが。論より証拠。俺は自由の呪文を唱えてみることにした。


「時間を自在にする自由を!」

 ……何も起こらない。だが、光の玉は言う。

「おおー!いきなりスゴイ自由を選びましたねえ。時計を見て念じてみて下さい。過去なり未来なり自由自在~♪」


 俺は念じる。時間よ十分進め、と。シュン、と分針が動く。三十分進め、シュン、と動く。とりあえず四十分戻して元の時刻に。

 確信を得るためにテレビをつけてみる。お笑い番組をやってる。十分進め、シュン、一瞬で次のコーナーへ行っていた。二時間後に進め、と念じる。シュン、俺の好きな深夜アニメが始まった。ここでまた現在に戻る。と、ある疑問が浮かぶ。俺の考えを読んだのか、玉はこう言う。

「私がここに来る前の時間に戻っても大丈夫。平気。私は神的な時空を越えた別世界の者ですから。私と会うより過去に行っても、能力は消えませんよ。これからはずっといっしょ。一生一緒にいてくれや~♪」


 神やら創造主に似たわけわからんものとずっと一緒か。よし、ファンタジー的にひとつ願ってみるか。そのあとに細かい質疑応答コーナー。

「このわけのわからん光の玉の姿をネコの姿にする自由を!ついでに小さな羽根がついててシャムネコで宙に浮いてる感じに!名前はポコタ!」


 光の玉がまばゆくかがやき、部屋が光に包まれてポン!と宙を飛ぶシャムネコが現れた。


「ニャンと!この神的な創造主的な私を、ネコのすがたに!でもかわいいからこれはこれでいいニャン。」


 語尾にニャンとつけろとは言ってないんだがな。でもこれで、この命名【ポコタ】が言うことはデタラメではないことがわかった。でも100%信じたわけじゃない。なにかワナがある可能性もある。この後の質疑応答でこれからどうするか決めよう。


「まずポコタ、この『完全な自由』を得る権利、なぜ俺が選ばれた?お前は何者だ?神的とか、創造主的とかじゃなく、具体的に言ってくれ。」


「お答えしますニャン。この権利にあなたが選ばれたのは、さっき言った適正があったこと、あとは『たまたま』、『偶然』、『運がよかった』、だけですニャ。例えば台風の被害で亡くなる。宝くじで運がいいだけで一億円ゲット!地震などの災害で命を落とす、または九死に一生を得る。難病を持って生まれる、生きる。どれも何の理由もないニャ。神というのは無慈悲できまぐれでいたずら好きなのニャン。

 で、私、ポコタの正体ですか。さっきから言うように、神に近いもの、創造主に似てるもの、というあいまいな表現しかできないニャ。あえて名前をつけるなら、天の使い、天使が近いかもしれないニャ。そこらへんも、『自由』の力で探ってみると面白いかもしれません、ニャ。天使ポコタ。なんかかわいいニャ。」


 偶然でたまたまか。まぁ、ここら辺は納得できなくもない。俺も常日頃思うことだが、世の中は理不尽なことであふれかえっている。いいことも、悪いことも。続けて俺は『完全な自由』の力について、問う。


「ポコタよ、『自由』の能力だが、何か制限はあるのか?例えば、たった三度だけとか(そしたらあと一回しか使えないじゃないか!)、一日三回までとか、あとは『人を生き返らせる』とかできないことはあるのか?」

「『完全な自由』と言いましたニャ。制限があったら完全な自由とは呼べないニャン。人を生き返らせることも、それ以上のこともありとあらゆることが『完全な自由』、ニャ。そして、さっきゲットした『時間を自在にする』は他の能力をゲットしても失われることはないニャ。能力の重複もいくらでも、ニャ。」


 おいおい、マジか?これじゃ古今東西あらゆる『願い事をかなえる』物語の最強版じゃないか?魔法のランプ、ドラえもん、ドラゴンボール…。

 そして俺は質問を繰り返す。


「ポコタ、お前は最初、【~する自由を!】と言えばそうなると言ったが、【~する】のところ、変えられないのか?【~する】を入れると意外と使いづらいんだが…。」


「お答えするニャン!さっきは簡潔に、と言われたので省略しましたが、要は、自由という言葉と念じる気持ちさえあれば問題ないニャン。そして意味が通じる言葉じゃないとダメ、というのもポイントニャン。いよいよ現存世界のチートっぽいですニャン。そろそろ質疑応答は終わりですかニャ?」


 俺はたぶん最後になるだろう質問をする。


使


 …一瞬ポコタの表情がゆがんだように見えた。どんな意味があるんだろう?そしてポコタは答える。

「あなたがその質問をできるくらいは賢くてよかったニャン。お答えするニャン。最大のリスク、それは『手順を間違えると取り返しがつかない』ということですニャ。一つの例を提示するニャ。『水中を自在に動ける自由を!』と願うとするニャ。その願いで確かに水中でスイスイどこでも行けるニャ。でも呼吸まで自由になったわけじゃないニャ。溺死。ド座衛門の完成ニャ。だからその前に『水中でも呼吸できる自由を!』と言わなければならないニャ。わかったかニャ?『手順』がもっとも重要なんだニャ。」


 とりあえず質問はおわり。難しい所はなかったと思う。すべてを自由にできる力。たぶん恐ろしすぎる力でもあるだろう。いかに環境適応力が高い俺でもさすがに精神的につかれた。とりあえず明日の学校の心配はしなくていいだろう。時間も自在だし。俺は寝ることにした。そのあと、いくらでも考えよう。


「もう寝るよ。おやすみ、ポコタ。」

「おやすみニャさい。」


「10時間、安眠できる自由を。」


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 次の日、おはようございますニャ、と言う宙を浮くネコを見て、ああ、きのうのことは夢じゃなかった、と確認した。安眠の呪文のおかげだろうか。とても気持ちよく眠れた。桃源郷にいるような心地よさだった。現在AM 9:00。ふだんなら母さんがとっくに起こしに来ている時間だが、これも呪文の効果か、今日は来なかった。


 さてさて、新しい人生の始まりだ。なにしろ『完全な自由』を手に入れてしまったんだから。学校にいく必要もない。お金のために動く必要もない。もちろん自由なんだから逆でもいい。当面はこの『完全な自由』を使いこなす練習だ。


 20xx年5月12日午前10時10分。俺はこの時間を拠点にする。


 一時間くらいデス(ティニー)ノートに書きながら考えてみた。死人さえも生き返らせられる自由。とりあえずでっかいことを考えてみる。世界征服。超人的なパワー。宇宙旅行。太陽系、銀河系をすっ飛ばして宇宙の果てまで行ってみる。

(ここまで書いて筆者は思った。この話、収集つくんか?)


 なんでもできる、できる。ん?何か忘れてないか?

 次の瞬間、ボゥ!!と頭の上に炎がのぼった。(イメージですニャ)

 健全な若者なら誰でも考えること。


(ポコタからお知らせニャン。ここのことを描写すると完全に18禁ニャ。割愛しますニャ。ただ、実時間三ヶ月後、彼のお肌はテッカテカになってたことだけお伝えするニャン。)


 ノートに思いつく限りのやりたいことを書く。二時間くらいでノートの半分くらいは書いてしまった。一応、拠点時間に戻す。書いているうちに想像力がふくらんで、いくらでも書けるような気になった。そしてそれらがすべて現実になる。ひかえめに言って、めちゃくちゃ興奮する。


 ポコタは言っていた。あらゆる事、物、者を自由にできると。事、事象を自由にできるというのはどういうことになる?ちょっと軽い願いをやってみるか。現在の時刻の天気は快晴。


「ここの地域の天気を雨にする自由を!」


 パ!と空が灰色の雲におおわれ、雨が降り出す。えーと、この場合、周りの人への影響はどうなるんだろう。もともと雨が降っていたという認識になる?それとも急に快晴から雨になったということになる?


 テレビをつけてみる。昼のワイドショー番組。しばらく見ていると、緊急速報です、と俺の地域だけ雨が降り出し、この奇怪な現象をどう説明するか、などけっこうな大騒ぎになっていた。 


 俺はヤバイヤバイ、とビビッて天気を元に戻し、さらに拠点時間に戻る。ちょっとオイオイ、天気を雨にしただけでえらいことになってしまった。これを台風にしてたら、気象のことはよく知らないがたぶん大変なことになりそうだ。事象を操るのはしばらくはやめておこう。どうなるか予測不能だ。バタフライエフェクト的な?


 ということで最初のうちは自由の力を俺周辺のことだけに使うことにする。


「おい、ポコタ。」

 俺は本当のネコみたいに丸くなって寝ているポコタを呼ぶ。

「ふにゃあああ、何ですかニャ?」

「秘密基地を作りたいんだが、どうやって願えばいい?」

「眠いけどしょうがない、教えるニャ。クラフト系は使う人の想像力が必要ニャ。なるべく詳細に緻密にイメージするニャ。そして自由を唱える。そうそう、秘密基地を作るなら、ポコタ用のふわふわあったかベッドを作らなきゃいけないニャン。これが一番大事な所ニャン。」


 なんかポコタ、本当にネコになったみたいな感じだな。俺が願ったのは姿かたちだけだったはずだが。まあいいや。

 俺は強くイメージする。そして念じる。

「この部屋から異空間へ通じる広い秘密基地を作る自由を!」


 ポ!と床から出たのは昔のRPG風の下に降りる階段だった。俺は降りてみる。ポコタもフワフワついてくる。ダ・ダ・ダ・ダ。


「こ、これは!ニャ!」

 秘密基地はほぼ正方形で体育館くらいの広さだった。全面、近未来風の銀色。そして…何もない。

「フギャーーーー!あったかいベッドって言ったニャン!どこにもなんにもないニャン!」

「待ってくれよ。ちゃんとこれから作るから。一回じゃいっぺんにイメージできなかったんだよ。それにこれでも大変なんだぞ?室温を過ごしやすい20度に設定したり、湿度とか明るさも考えたり。」

「想像力、創造力、ともに貧困ニャン。」

「うっさい。」


 とりあえずポコタの要望のベッドを作る。ドデンと部屋の真ん中に(これでもすごく感謝してるんだ)。シンプルだが大きなベッド。ふわふわポカポカも要望通り。デザインが気に入らないとポコタは言うが無視。そして俺用のベッドとソファ。トイレも忘れちゃいけない。思った以上に、イメージするのは難しい。凝ったデザインはできず、全部シンプル。ポコタは何度も「貧困ニャ、貧困ニャ」とからかう。あとは時計かな。西暦と日付、曜日まである時計を作った。とりあえずこれだけ。いつでも追加、修正できる。


 さてさて、お次は…数時間寝るか。時計の時間はほとんど変わってないが、実時間だとだいぶ経っている。寝ないで済む自由を、とは願えるが、俺にとってこれは義務じゃなくて権利だ。ようは、寝るのが好きってこと。


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 お昼寝、かはわからないが、睡眠時間終了。さ、練習再開。

 ベッドに入ってから眠りにつくまでに少し考えたが、ポコタが言っていた『手順』というのが気になった。水の中では呼吸ができないから、つまり自由の言葉が発せられないから詰んでしまう。言葉にしなければ自由の力が出ない。これは変な表現だがけっこう不自由じゃないか?というより最大の弱点?そこで俺は言ってみる。


「自由の力を念じるだけで使えるようになる自由を!」


 …どうだろうか。無意識にポコタを見る。ポコタはツーン、とそっぽを向いている。ためしに軽い願いを念じてみる。腹も減ったし、


(ここに肉まん二つを出す自由を…。)

 ポンポン!肉まんが出てきた。成功だ。


「なんか気に入らないけど、なかなかのクリティカルヒットニャ。これで酸素がない状態でも、真空状態でも、あるいはのどをつぶされても、サイレスを使われても、自由の力は使えるニャン。あと、念じるだけと言っても、自由というキーワードだけは残しておいた方がいいと思うニャン。じゃないと、ふとした感情で能力を出してしまうかもしれないニャ。」


 ポコタは暗に、自由の能力強化もできる、と言っているように俺には聞こえた。まあいいや、とりあえず俺は、誰でも一度は願うだろう、あることをやってみようと思う。『空を自由にとびたいな♪』


 と、ただ空を飛ぶだけじゃありきたりでつまらない。さっきノートに書いたとき、プランを立てていた。俺はこう願う。

「自分への重力を自在に変化させる自由を!」


 時間のときと同じように俺は念じる。重力をゼロに。ふわぁ。俺のからだが浮き上がる。しかし、うまく動けない。思わずジタバタすると、なんか体がクルクル変な感じに回ってしまった。


「うわわわわ、重力を十分の一にぃぃ!」

 クルクルが弱まり、ゆっくり着地する。ポコタが「プー!クスクス、ニャン。」と笑っている。フン、失敗は成功の母なのだ。


 なぜ空を飛びたいという願いをわざわざめんどくさい重力操作に変えたかと言うと、訓練次第で実質、空を飛ぶことができるからだ。例えば、重力をゼロにして屋外でジャンプ(地面をける)すれば当然上に飛んでいく。そこで重力を戻せば止まる、というか落ちる。またゼロにして水泳のようにバタ足すれば横に飛べる(たぶん)。重力を自在に、だから横方向や逆方向に変えられるかもしれない。できなければ追加すればいい。まあ、自在に動けるようになるには、相当な訓練が必要だろうが、言ってみればゲームのようなもので、空を飛ぶのを時間をかけて楽しみたかった。とりあえず重力ゼロは難しいので十分の一からかな。「プー!クスクス、ニャン。」まだ笑ってる。


 他にも違う使い方もある。念じる。重力を十倍に、はヤバいから二倍に。ズシン、体が重くなる。俺の体重が60キロだから今は倍の120キロか。こりゃ太ってる人が出不精にもなるわけだ。少し歩いただけでしんどい。十倍の重力で修行したら圧死するな、マジで。元に戻す。


 時間操作に加えて重力操作。これはうまく使えば楽しそうだ。しかし下手したら空から落っこちてペチャンコトマト。そうならないように予防線を張るか、スリルを楽しむか。っと、ちょっとハイになりすぎてるな。スリルとか前の俺ならもとめなかった。


 ここまでで実時間およそ一日分だろうか。一日だけでずいぶん色々なことをやってしまった。ここで休息を兼ねて、しかし一番やりたかったことをやろうと思う。


「ポコタ!これから一番重要な自由を手に入れるぞ!!」

「す、すごい気迫ニャ。いったい何ですかニャン?」

「マンガを好きなだけ飽きるまで読みまくる!」

「ズコニャ!」


 ポコタは昔のギャグマンガのように宙でズッコケた。俺の部屋のマンガでも読んだのか?まあ先は長い。たぶん考えるのもイヤになるくらい長い。とりあえずマンガを一週間くらい読み続けたい。そんなこと?と思うかもしれないが、十代の俺にとってはマンガを好きなだけ読み放題は、空を飛ぶのと同じくらいの夢なのだ。


 俺は再び拠点時間 20xx年5月12日午前10時10分 に戻す。



《中編につづくニャン!》

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