問0-3 席替え監視員
教室の時計の針は、3時20分を指していた。いよいよである。クラスメイトは浮き足立っていた。
僕の隣の女子生徒は、両手を合わせ祈っていた。その唇からは、か細い声で「アヴェ・マリア」を歌っていた。希望の座席になるように、神様にお願いしているのだろう。その祈りの姿は、さながら聖母マリアの銅像のようであった。
そんな彼女を、不憫に思う者は誰一人いない。むしろ健気なほどの美徳を醸し出していた。誰もが、その心中に共感していたのだ。なぜなら今から人生の運命を決める「席替え」――が始まるからだ。
担任の田村先生が、教卓の上にクジ引きの箱を置いた。
「生徒諸君! ワシは誰からも賄賂を受け取っていないし、えこひいきもしない! お前らの平等の権利を守る!」田村先生は、真剣な顔だった。
「このクジ引きの箱の中に、1から41の数字が書かれている、41枚の紙が入っている。自らの意思で、一人1枚の紙を引け! 不正は許さん!」
それはまるで選挙監視員の如く、席替え監視員である。そして、もうすぐ、僕たちの運命の賽は投げられる――。
つづく
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