第18話 1947FL
正直、Lowrider が売れずに話が流れても、僕は全くがっかりしなかっただろう。だが、あっさり話が決まってしまって、これも縁だと思った僕は何とか金策をして残金を振り込んだ。
数ヶ月後、店にKnucklehead が到着した。
店の前に佇む1947年のFLはすごい風格だった。当時のアメリカの一部の大金持ちしか買うことのできなかったであろう、その姿はオーナーの僕より格上に見えた(笑)。
メカニックはエンジンをかけると僕の目の前で、FLを乗り回して見せた。最初の触込み通りコンディションが良さそうだったのでホッとした。
それでも流石に乗って帰る気にはなれず家まで陸送してもらった。それから僕がFL に乗るための練習の日々が始まった。
FLはなかなか手強かった。今のバイクと違って、ハンドシフト・フットクラッチで、点火時期は手動で調整するいわゆる手動進角だった。セルスターターなどという便利な機能はないから、1200ccのエンジンをキックでかけなければならない。あまり体力のない僕には結構な重労働だった。リンカートのキャブレターも霧吹きそのものといった原始的な構造で、キックを失敗するとすぐスパークプラグをかぶらせてしまう。
Lowriderの時にはお守り代わりにしていただけだった予備プラグとプラグレンチは必需品となって、しかも予備のプラグは1セットでは不安で2セット持つ羽目になった。そして実際に2セット使うこともしばしばだった。
最初は一度かぶったプラグは捨てていたが、あまりにプラグを消費するのにたまりかねてガスバーナーであぶって、カブりを取って再利用するようになった。
一番手強かったのはフットクラッチだった。Knucklehead はロッカークラッチという左足で操作するクラッチを採用していた。といってもクルマのクラッチとは違って、シーソーのようなペダルを後ろに倒すとクラッチが切れ、前に倒すと繋がるというシステムだ。
余談だが、いわゆるゲートのないハンドシフトレバーとクルマと同じクラッチを使用したチョッパーは、その危険性からスーサイド・チョッパーなんて言われてた(笑)。何しろギアがニュートラルに入らないと地面に足が付けないからね(右足はブレーキ、フロントブレーキはないことが多かった)。
このロッカークラッチは半クラッチを手加減ならぬ足加減でする必要があって、クルマのクラッチと違ってスプリングがないから半クラッチの位置でペダルを止めるのが僕には難しかった。ミスってエンストさせるのもしょっちゅうだった。
まあ、僕の周りのナックル乗りやPanhead 乗りはみんな何の問題もなく乗っていたから、僕が不器用だったというだけなのだろう。
それでも、走り出してしまえばFL は意外と滑らかなエンジンフィールでShovelheadとは全く違った走りを楽しめた。特に旧車に乗る醍醐味の1つ、当時の空気感を味わうという点においては、FLに乗っていると自分がまるでアメリカの大金持ちの牧場主になったような気分にさせてくれた。
だが全体的には、この時期はHarleyに乗ることは楽しみというよりは修行のような感じだった。
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