第2話 起きたら昼だったなんて、普通のことだよ

 目が覚めると、同じ布団の中にシェフィーがいた。

 なんでこんなところにシェフィーが、と思うと、シェフィーの寝言が聞こえてくる。


「馬謖さんを斬るときは、せめて泣きましょうよ……むにゃむにゃ……」


 そうだ、思い出した。

 昨日、三国志すごろくの最中にみんな寝落ちしたんだった。


 寝落ちした私たちをベッドで寝かせたのは、たぶんスミカさんだろう。

 じゃなきゃ、私とシェフィーが一緒の布団に入っているなんてあり得ない。


 とりあえずシェフィーを起こさないよう、私はベッドから降りる。


「私がシェフィーより早く起きるの、珍しいなぁ」


 ふと時計を見れば、時間は午前11時30分。


 いつもより早起きしたことに気づいた私は、パッとカーテンを開いた。

 するとカーテンの裏からスミカさんが飛び出してくる。


「大変! 寝坊しちゃったわ!」


「わわわっ! ね、寝坊?」


「すぐにご飯作るから、みんなを起こしてあげてちょうだい!」


「は、はぁ」


 言われた通り、私はみんなを起こして回った。

 まずはシェフィーだ。


「お~いシェフィー、起きて~」


「……ユラさん?」


「スミカさんがお昼ご飯を作ってくれるって」


「分かり――お昼ご飯!? え!? 今、何時なんですか!?」


「午前11時30分」


「うわわ! 寝坊しちゃいました!」


「寝坊?」


 慌てて起きたシェフィーは、慌ててツインテールを作りはじめる。


 その間に私は両親の寝室に向かった。

 こっちの寝室で寝ているのはミィアとルフナだ。


――なんかミィア、ルフナを抱き枕みたいにして寝てる。ルフナ、幸せそう。


 幸せな空間を邪魔したくはないけど、私は2人を揺すった。


「2人とも起きて。スミカさんがお昼ご飯を作ってくれてるよ」


「おお~! スミカお姉ちゃんのお昼ご飯!」


「すごい勢いで飛び起きたね……」 


「お昼ご飯だって? ということは、私たちは昼間まで寝ていたのか。大寝坊だな」


「寝坊?」


 飛び起きたミィアはリビングへ一直線。

 ゆっくりと起きたルフナは背伸びをし、軽い運動をはじめた。下着姿で。


 リビングに戻れば、ミィアは早くも席に着いている。

 キッチンでは、シェフィーが料理中のスミカさんに質問していた。


「あの、スミカさん」


「何かしら」


「わたし、なぜかユラさんのベッドで寝ていたんですけど、どうしてかご存知ですか?」


 やっぱりシェフィーも同じ疑問を抱いてたんだね。

 果たしてスミカさんはなんて答えるんだろう。


 スミカさんはオムライスを作りながら、おかしそうに笑って口を開いた。


「昨日、すごろくの途中でみんな寝ちゃったのよ。それでね、シェフィーちゃんをベッドで寝かせてあげようと思ったんだけど、シェフィーちゃんがユラちゃんの服を掴んだまま離そうとしなかったの。だから、一緒のベッドで寝かせちゃった」


「へ!?」

「ほ!?」


 意外な事実に、私とシェフィーは変な声を出してしまう。

 そのまま次の言葉が思い浮かばず黙り込んでいると、ミィアが私とシェフィーの手を掴み無邪気に笑った。


「シェフィーとユラユラ、仲良しさんだよね~」


 なんだろう、ちょっと恥ずかしい。

 恥ずかしさのあまり、やっぱり言葉が出てこない。

 こういうときはスミカさんに助けを求めよう。


「ス、スミカさん、お昼ご飯まだかな?」


「ちょうど完成したところよ。さあ、お昼ご飯を食べましょ」


 ナイスタイミング。

 この機を逃すまいと、私もシェフィーもそそくさと席に着いた。


 少しすればルフナも到着。

 ここからはお昼ご飯の時間だ。


 みんなでオムライスを食べながら、話題は昨日のすごろくへ。


「昨日は夜更かししすぎちゃいましたね」


「でも、すごろく楽しかったよ~!」


「そうだなぁ。あの楽しさなら、夜更かしだって許せる」


「次の日に寝坊するのが確定しちゃいますけどね」


 う~ん、さっきから『寝坊』という単語が引っかかる。

 ちょっと正直に言ってみよう。


「さっきから気になるんだけど、みんなそんなに寝坊してる?」


 すると、シェフィーとルフナの時が止まった。

 2人とも宇宙人でも見つけたかのような視線をこっちに向けている。

 堰を切ったように口を開いたのはシェフィーだ。


「起きたら昼だった、はユラさんにとって寝坊じゃないんですか!?」


「寝坊じゃないね」


「即答!?」


「だったとしたら、ユラにとっての寝坊って何になるんだ?」


「起きたら夕方だった、かな」


「わたしたちと過ごしている時間が違いすぎます!」


「さすがユラユラ~、のんびりさんの天才だね! すご~い!」


「そのすごさは独特すぎますよミィア様!」


 正しいのは普通にシェフィーのツッコミだけど、私はミィアの頭を撫でる。

 頭を撫でられたシェフィーは「えへへ~」と満足げだった。


 ついでに、ミィアが味方になったので、ルフナも私の味方になった。

 これにシェフィーは苦笑いを浮かべる。


 話題を変えたのは、外を眺めていたスミカさんだ。


「困ったわ。少し立ち寄ってみようと思ってた街、お寝坊さんしちゃったせいで今日中に行けそうにないわ」


「なに? それはたしかに困ったなぁ」


 と言いながら、ルフナは地図を取り出す。

 私とシェフィー、スミカさんは地図を覗き込んだ。


「今いる場所がこの辺りだね」


「とすると、近くにある街や国はここですね」


「なんていう場所かしら?」


「ここは『すごろくな国』です」


 それを聞いたミィアがテンションを上げる。


「おお~! 楽しそうな名前の国だ~!」


「聞いたことのない国だから、興味深いなぁ」


「やけにタイムリーな国名だよ」


 昨日の夜は三国志すごろくで遊ぶ。今日は『すごろくな国』に行く。

 完全にすごろく三昧だ。


 ミィアはオムライスを食べるスプーン片手にスミカさんに迫った。


「『すごろくな国』行ってみようよ~」


「そうね、ちょっとだけ立ち寄ってみましょうか」


「やった~!」


 自宅の目的地は『すごろくな国』に変更だ。

 はてさて、新しい目的地はどんなところなんだろう。

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