6けんめ 『西の方の国』で女王様とお城さんに会う話

第1話 マモノも『西の方の国』を目指してたらしい

 町を出発し、山脈と谷を越え、何度か太陽が空を通り過ぎた頃。

 魔法石の輝きに浮かんだ丘の上を歩く自宅から、大きな街が見えてくる。

 ミィアはリビングの窓の前で嬉しそうに笑った。


「あ! ミィアのおウチだ~!」


 その声に呼ばれて、ミィアの隣に立つシェフィー。

 彼女は外の景色を見るなり、胸をなでおろす。


「ようやく『西の方の国』に到着ですね」


 ふむふむ、あの城壁に囲まれた大きな街が、旅の目的地『西の方の国』なのか。


 まだ街までの距離はあるけれど、ここからでも三角屋根のカラフルな建物がたくさん並んでいるのが見える。

 街の真ん中には、高台に立つ立派なお城が。

 なんだかジオラマを見ているみたいだ。


 ただ、ここから見えるのは『西の方の国』の街だけじゃない。

 窓の外を眺めて、ルフナは深刻そうな表情で言う。


「マズイぞ。私たちだけじゃなく、マモノたちも『西の方の国』に到着したみたいだ」


 ルフナの言う通り。

 大きな街のすぐ近くでは、マモノの大軍勢が陣を張っていた。


 まるで野外コンサートのような光景だけど、のんきなことは言っていられない。

 マモノの軍勢に対して、『西の方の国』では少数の騎士団の旗がはためくだけだ。

 今の『西の方の国』は危機的状況にあるらしい。


「これはスミカさんの出番だね」


「そうみたいね。勇者に選ばれた私が、ここで戦わないわけにはいかないわね!」


 いつの間に私の隣に座っていたスミカさんは、そう言って気合を入れた。

 ルフナは不死鳥の剣を片手に鎧を着込み、戦闘の準備。

 シェフィーも数枚の魔法陣を用意して戦いに備える。


 2人が準備をしている間、私とスミカさん、ミィアは2階の寝室へと向かった。

 寝室の窓を開けた私は、ベランダから双眼鏡でマモノの軍勢を観察する。


「ユラユラ~! マモノたち、どんな感じ~?」


「ええと、街の方に兵力を集中させてるね。中央後方にいる、大きなクモみたいなマモノが総大将だと思う。後ろの方に別働隊みたいなのがいるけど、あれは騎士団の援軍への備えっぽいから、無視でいいかな」


 半ば独り言みたいな私の言葉に、スミカさんとミィアはぽかんとした表情。

 そこにルフナとシェフィーがやってきた。

 ルフナは私の言葉を聞いていたらしい。


「大きなクモみたいなマモノは、きっと『オーキークモ』だ。猛毒を撒き散らす厄介者で、近づくことすら困難な相手だ。もし紫の縞模様をしていたら、レジェンド級の個体だぞ」


「紫の縞模様だね。なるほど、総大将が強いから、総大将の守りが薄かったんだ」


 こうなると、ちょっとした問題が出てくる。

 果たして完璧な防犯のシールドは、猛毒まで防いでくれるのかだ。


 一応は攻撃魔法を防いだシールドだから、きっと大丈夫だとは思う。

 でも、万が一があると怖い。

 だったらどんな作戦を組み立てるべきなのか――。


 頭を悩ます私を見て、ルフナは目を丸くした。


「驚いたなぁ。毎日のんびりと好きなことばかりしてるユラが、戦を前にこんなに真面目な顔をするなんて」


 続けてシェフィーが、私を褒めてくれる。


「危機を前にしたユラさんは、とっても頼りになるんです! 今回の戦いでも、きっとユラさんが私たちを勝利に導いてくれます!」


 ちょっと褒めすぎじゃないかな。嬉しいからいいけど。

 2人が私を褒めてくれる一方で、スミカさんとミィアはニコニコしながら言い放った。


「フフフ、ユラちゃんが緊急事態に強いのはたしかだけど、案外、ユラちゃんは今ものんびり好きなことをしてるだけなのかもしれないわよ」


「うん! ミィアもそう思う! だってユラユラ、ゲームで遊んでるときと同じ顔してるもん!」


 むむ、この2人は真理をついてくる。


 私はスミカさんとミィアの言葉に冷や汗を垂らしながら、黙って作戦を考えた。

 考えた結果、作戦と呼んでいいのか分からないような作戦が完成した。


「みんな、ちょっと聞いて。今回の作戦は『遠距離からオーキークモを一方的に攻撃作戦』でいこうと思う。作戦内容は、作戦名のまんまなんだけど――」


 思いついたままに作戦内容を説明する私。

 みんなは真剣に説明を聞いてくれる。


 最終的に、私の作戦を聞いたみんなは納得してくれたみたい。

 最初に作戦に納得してくれたのがルフナだったのは、なぜだか知らないけど嬉しかった。


 さて、戦闘準備は完了。これから『西の方の国』救出作戦がはじまる。

 戦闘中の私は、指揮官っぽいことを口にしながら、ベッドの上でゴロゴロするだけだ。


    *


 スキル『ジャパニーズニンジャ』のおかげで、自宅はマモノに気づかれることなく丘をのしのしと下っていく。

 自宅のベランダには、12ポンド砲とガトリング砲が並んでいた。

 私は思わず苦笑いを浮かべてしまう。


「ごく普通の一軒家に物騒な装備。なんだか奇抜だね」


「歩く家って時点で、充分に奇抜だと思います!」


「まあね。ただ、これからもっと物騒で奇抜なことするんだけど」


 振り返り、ベッドの上に座るスミカさんに私は尋ねる。


「スミカさん、対地ミサイル、大丈夫そう?」


「使い方がよく分からないけど、たぶん大丈夫よ」


「オッケー。じゃあ、やろう」


「なんだか2人ともテキトーですね……」


 心配そうなシェフィーのツッコミ。

 でも、対地ミサイルは誘導式だから、機械音痴のスミカさんでも敵に当てられるはずだ。


 今回の『遠距離からオーキークモを一方的に攻撃作戦』は遠距離攻撃が重要。さっさと攻撃開始といこう。


「スミカさん! 対地ミサイル、発射!」


「発射!」


 合図と同時、自宅の屋根から1発のミサイルが飛び出した。

 一体どこにミサイルがあったのか、とかは気にしないようにしよう。

 そもそも、それを気にしていられる状況じゃない。


「あらららら!? ミサイルが空の彼方に飛んでいっちゃったわ! どうしてかしら!? どこに行っちゃうのかしら!?」


「もしかしてスミカさん、ミサイルのロックオン、してないでしょ」


「ロックオン?」


「やっぱり……ミサイルを発射するときは、ロックオン――ミサイルを当てたい敵を捕捉してから発射するの」


「そ、そうだったのね」


 スミカさんの機械音痴を甘く見すぎていたみたい。


 ただ、スミカさんがロックオンの方法を覚えるのは早かった。

 次々と発射されるミサイルは空を切り裂き、オーキークモ周辺に着弾。オーキークモは爆発の中に消えていく。

 これにミィアは興味津々。


「おお~! ミサイル、つよ~い! どうしてミサイルはオーキークモを追いかけるの? 魔法を使ってないのに、不思議~!」


「ファンタジー世界っぽい感想、ごちそうさまです。まあ、私からすると、魔法の方が不思議なんだけどね」


 ファンタジー世界にとっては不思議な科学技術の力。

 私の元いた世界にとっては不思議な魔法の力。

 目の前の戦いに勝つためには、このふたつの力が必要不可欠。

 だから私は、ベランダに並ぶシェフィーとルフナに合図を出した。


「2人とも! オーキークモへの集中攻撃、開始!」


「はっ、はい!」


「その言葉を待ってたぞ!」


 快活な返事があった直後だ。

 シェフィーは光の槍魔法を発動。同時にルフナの持つ不死鳥の剣は炎の柱を生み出す。


 白い光の槍と炎の柱は混じり合い、放物線を描き、オーキークモに直撃した。

 ふたつの魔法攻撃はミサイルが作り出した爆煙を吹き飛ばし、オーキークモを再び爆発の中に叩き込む。


 その光景に、スミカさんは喜びの声を上げた。


「やったわ! 命中よ! ユラちゃんの作戦、うまくいきそうね!」


「まだまだ。2キロぐらいの距離まで近づいたら、大砲とガトリングも撃ってね」


「分かったわ」


 自宅はのしのしと丘を駆け下り、マモノの軍勢のすぐ近くへ。

 ついに自宅の大砲とガトリング砲も火を吹きはじめた。


 オーキークモを襲うのは、対地ミサイルと12ポンド砲、ガトリング砲の連射、シェフィーとルフナの不死鳥の剣が放つ魔法攻撃の束。

 対するマモノの軍勢の攻撃は、自宅には届かない。

 魔法と科学技術を前にして、気づけばマモノの軍勢は、霧が晴れるみたいに消えていった。


 もしや、オーキークモを倒したのかな?


 そうは思ったけど、念のため、私たちは攻撃を続ける。

 こうして自宅と魔法使いとナイトの一方的な攻撃は、その後も数分間続くのだった。

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