第7話 NHK俳壇

『NHK俳壇 二〇〇四年六月』


兼題 「月見草」


月見草最終電車独りをり


つきみそうさいしゅうでんしゃひとりおり

2004/06/05


月見草は朝を求める。

私は最終電車に独り、朝を求める。


◇◇◇


兼題 自由


悲しみの紫陽花真似て移りけり


かなしみのあじさいまねてうつりけり

2004/05/20


紫陽花はこの句の中での私の解釈は、

紫陽花の花の色が次第に移り行くと言う意味で使っている。

悲しみと言うのは、

紫陽花の花の色の様に時を経て変わって行くものだ。


◇◇◇


兼題 「海」


波殺し水鶏止め入る静寂かな


なみころしくいなとめいるしじまかな

2004/05/25


朝を破る水鶏の鳴き声。

その時、静寂は消え去った。

波殺しの激しい飛沫さえ消え去った。


* 水鶏は波殺しの傍に居ない


◇◇◇


懸想文海原ぽつり蟻ぽつり


けそうぶみうなばらぽつりありぽつり

2004/06/01


誰に書いたか懸想文。

誰に託すか海原へ。

それは儚く、大きな海の中ではまるで一匹の蟻の様だ。


◇◇◇


兼題 自由


扇風機洗い髪梳く手櫛かな


けそうぶみうなばらぽつりありぽつり

2004/06/01


誰に書いたか懸想文。

誰に託すか海原へ。

それは儚く、大きな海の中ではまるで一匹の蟻の様だ。


せんぷうきあらいがみとくてぐしかな

2004/06/05


エアコンの普及した時代にも愛される扇風機。

その前に湯上りに座るととても涼しく、

洗い髪はそのまま手で梳いてくれる粗い手櫛の様で、

ゆるやかに乾かして行く。

浴衣を着た女性が似合い、背中の浴衣が少し滲んでいる。

* 季重なり


◇◇◇


蛍や懸想文結ふ細き枝


ほうたるやけそうぶみゆうほそきえだ

2004/06/05


例えば浴衣を纏った女性が、

ラブレターを儚い細い枝に結ぶ姿とその不安に、

愛する心を運ぶと言われる蛍の確信。

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