第6話 同郷会のお誘い


 「はぁ?スタイルについて落ち込んでいたの?」


 歩は若干あきれ顔で真緒を見る。

 「うるさいなぁ…」

 真緒は頬を膨らませ、そっぽを向いた。

 「真緒さん…スタイルなんてものは人それぞれで、そんなこと気にしていたら、金ばっかり掛けて調整するようになるよ」

 「あなただって、天野の胸をじっと見ていたでしょうよ!」

 「いやいや、じっと見ていたわけではないよ。それに裸でみたことはありません」

 「服の上から見ていたでしょ?いやらしい」

 「あれってなぜか視界に入ってくる様な位置にあるらしいよ。生殖本能を煽るために。だからといってジッと見ないようにするけどね」

 「ほう…直訳すると、アレで性欲を持て余したと?」

 真緒の表情が怖い。修羅の魔闘気を放っている。

 「違う、違う。それは男の嵯峨だから責めないでくれってこと。真緒さんだって俺の手を自分の胸に押し当てて、興味をこっちに持って来たんでしょ?」

 「うぅっ…」

 図星を突かれた。

 「それって『手を出すならこっち』と言わんばかりに…」

 「わかった、わかった。それ以上言わないで。私がわるかった!」

 真緒は顔を真っ赤にして歩の言葉を遮り降伏した。


 「とこでさ、生徒会立候補の件なんだけど…」


 「えっ、本気で私を生徒会長に推薦するつもりなの?」

 「…それか財前さんを擁立させるか?」

 真緒は真顔で歩の頬をつねりあげる。

 「でも、財前さんは真面目そうだから現実見て絶望しちゃうかもよ」

 「やっふぁり、まほさぁんひゃん(やっぱり真緒さんじゃん)」

 歩はつねられた頬を撫でながら告げる。

 「私、そんなに持ち上げられたことないんですけど!歩君が応援してくれても、落選すれば意味ないじゃん!」

 「意味あるよ。要は…」

 歩は対面に座る真緒に顔をもっと近づけろと手招きする。

 そして掌を片手で拝むように口の右横に当てる。内緒話をしたいようである。

 「なに?」

 真緒も耳を彼の掌に重ねるように顔を近づける。

 「………………」

 「えっ。それが目的なの?」

 歩はコクリと頷き手をどかし顔を遠ざけた。

 「ところで、相手との差が大きい場合は…?」

 「その時は…」



 「あらゆる汚い手を使ってでも彼女の人気を落とす」

 「あらゆる汚い手を使ってでも奴を殺す!!!!!」



 今、途中まで言いようにハモっていたが、途中から意見が分かれた。

 えっ?という表情で歩は真緒を見る。

 「歩君が言うとおり、あの馬鹿天野を殺しましょう。その方が楽」

 「…いやいや、あれ冗談だし、生徒会選挙だよね?殺しても意味ないでしょ?」

 「いや、その方が私の気持ちが晴れるから!それに魔法使えば証拠残らないし」

 「ちょ、ちょっと冷静に考えようよ。誰がその魔法を使うわけ?」

 真緒は無言で歩を指差しニコッと微笑む。

 「いや、そう思うんだったら、それは自分で手を下そうよ。微笑んでもダメ」

 「大丈夫でしょ、歩君の弁護士最強だから!」

 「イヤイヤイヤ、『最強』の『きょう』の字が違うから『最凶』だから」

 「そういえば、『凶』といえば『胸』なんとなく似ているね…で、歩君は2度も私の胸さわったから、だから天野の馬鹿ってくれるよね」

 「一回は俺の手引っ張って自分から触らせたじゃん!それだけで俺は…」

 …以下省略。

 結局、20分ぐらいその件で戯れて、食事して帰ったわけだが、ここでの具体的な話は後日持ち越しとなった。


 次の日の朝


 歩が教室に行くと、4馬鹿が声を掛けてきた。

 「あ、あのよ…先生、ちっといいかな?」

 剣持はちょっとビクビクしながら歩の肩を軽くポンと叩く。

 だがこの時、歩は昨日の言葉遊びで若干ストレス溜まっていた。

 それに、この4人からこの前までのいじめられていた生活が脳裏に過ぎった。


 (このまま放置するよりは叩いておいた方がいいのかもしれない)


 「『あの世、先生ちょっといいかな?』…ほぉ、教育的指導が足らなかったと」

 歩はどこかの救世主の様に指をポキポキ鳴らしている。

 「ち、違いますから」

 「『自害しますから』ほぉ…だったら一々俺に言わず、介錯は仲間に頼め!」

 「ひぃっ…」

 剣持は完全に涙目になっている。

 「ごめん、そういう意味じゃないの」

 慌てて黒井がフォローに入るが…

 「『御免、そういう忌みじゃない』とそうか、俺は忌み嫌われているんだな」

 「ただ私達は…」

 白石が涙目になって弁解する。

 「『タダ、渡し駄賃は』だと、あの世の三途の川の渡し船の駄賃はテメエで用意しろと」

 こうなっては何言ってもダメだ。悪意ある解釈しかしない。

 彼らにしても、どうしても伝えたい用件があった。

 歩の機嫌がすこぶる悪い…どうしたら正しく伝えられるだろうか。

 残るは力石である。この男はトラブルキャラであるが、こうなったら彼に掛けるしかない。

 皆が力石の肩に手を乗せる。ものタダでさえ蚤の心臓の彼にしてみれば凄いプレッシャーだったに違いない。

 歩は「何か用か?」と力石を睨む。

 力石が何も言えず黙っていると、『早く言え』とばかりに力石を凝視しさらにプレッシャーを掛けた。

 …これは詰んだ。

 力石は覚悟を決め、

 「生徒会の…会長呼んでます…」

と泣きながら、要件を伝える。

 「何、会長が呼んでるだと?………」

 しばらく沈黙する歩。

 そこで冷静になったのか、続くツッコミがなかったのかは不明なるも、ようやくツッコミはとまった。


 「それ早く言ってくれないか?」


 話が繋がった。安堵する4人。ここから用件を伝えようとしたところ、歩は彼らをスルーしてカバンを机の上に放り投げ生徒会室に行こうとしている。

 まだもう少し用がある。剣持が「あのぉ…」と恐る恐る声を掛ける。

 歩はイラッとしているようで、ヤンキー張りの眼光で「あぁん?」と振り返り4人を睨み付けた。4人はビビって震えだした。

 「何、まだ用あるの?」

 「……私達も呼ばれています」

 「今度は生徒会室で俺をボコろうとしてるの?」

 「違います、違うのよぉ…もし嘘だったら、そこにいる剣持が切腹しますから」

 黒井が泣きながら、さりげなく剣持を売った。

 「なんで、俺が切腹しなきゃならないのぉ!!」

 「…分かった。信用するから。お前らの営み見てもうれしくもないから」

 「…?」

 そこで余計なこという男が一人…

 「『切腹』と『セッ○ス』ですね、なるほど」

 力石である。

 黒井と剣持の顔が真っ赤になる。当然二人は慌てて顔を振って否定した。

 そこで、彼らからの言いがかりや仕返しではない事を理解した。

 「あっ、そういうことか。昨日はずっと真緒さんとくだらない話をしていたせいか、そういう風に聞こえちゃうんだよな…一人で勘違いして喧嘩ふっかけて悪かったよ」

 「あぁ…またボコられるかと思った…」

 4人は今にも泣き出しそうであった。



 (これって以前の俺と逆じゃないか。絶対に嫌がらせされないようにと念入りにお返ししたけど、やりすぎるのもどうかな…)



 「もう、お前ら俺を構うな。俺もお前らに少なからずともトラウマがある。お前らにもそれ相当にあると思う。俺に構うとお前らも辛くなるんじゃないか?」

 歩は絶縁宣言を伝えるが、逆に4人は泣き出す始末。

 「そうも行かないんですよ。とにかく細かいことは生徒会でお話しますから」

 これ以上、泣かれると困るので黙って生徒会に同行した。

  

 「失礼します。会長、先生お連れしました」


 生徒会室前でご丁寧にノックをして「どうぞ」の指示があるまで姿勢を正し待っている剣持ら。歩はそこまで礼を尽くす必要がないのであえて強引に

 「入るよ」

と言ってガララ…とドアを開く。

 剣持らは慌てているが、そんなのお構いなしである。

 「あっ…」

 目の前にいる天野と後ろの4人が間抜けな声を挙げた。

 それもそのはず、天野は下はジャージ、上はスポーツブラの上から半袖体操着をかぶろうとしていた。彼女は次の体育の授業でここで着替えをしていたからだ。

 

 (うん、確かに真緒さんより大きい)


 ガララ…

 歩は無言で退室してドアを閉める。そして廊下で4人に逆ギレした。

 「な、な、なんでお前ら、中で着替えているって言わないんだよ。ドア開けちまったじゃないか」

 「いや、先生…怖くて声かけられなかったから…」

 「先生、大丈夫ですって。会長は見られたからって、全然怒りませんから。大したことじゃないですから、ラッキーでしたね」

 剣持の弁明に対して、白石からちょっと酷い一言。

 その時、天野は生徒会室内で


 (いや、怒っているわよ!あんたその言い方が!)


と思った。

 慌ててジャージに着替え、赤くしつつも冷静を保ちドアを開ける天野。

 「コホン、どうぞ…」

 剣持、力石らは顔を赤くして頭をぺこりと下げ中に入るが、白石、黒井そして歩は全く何もなかったかのような表情で中に入る。

 天野は


 (ちょっとは恥じらいなさいよ!)


とムッとなったが、彼を呼びつけたのは自分であるし、呼んでいる最中にここで着替えをしている自分が悪いと思い直し、は許すことにした。

 「天野先輩、おはようございます。朝からなんでしょう?」

 「おはよう日比谷歩さん。今日お呼びしたのは2点あります」

 「2点…ですか?」


 (選挙だけじゃないのか?)


 「まずは1点目から。私を含めたこのメンバー、見て何か感じませんか?」

 「?」

 歩は天野、そして横にいる4人を見回す。

 そして10秒後、


 「先輩の方が大きい」


と何か見当違いの話を答えた。

 天野は最初、「何が?」と尋ねようとしたが、さっきまで着替えていた自分の姿を見て答えたと理解すると再び顔が真っ赤になった。天野の表情で白黒コンビも意味がわかり、それぞれ両手で胸を押さえて仰け反っている。

 「そういう意味じゃなくて!!このメンバーを見て何か感じませんかって言う意味です!」

 天野は感情的に言い直すと歩は再度周りの連中を見回した。

 「いや、特に…わかりません」

 「あぁ…もう!!」

 自分が思ったとおりの返事ではなく何かはぐらされているような気のない返事に天野は若干癇癪を起こす。

 「何か、俺やらかしたのか?」

 素でわからない。

 すると、剣持が天野の真意を伝える。


 「先生、先生も転生してきた人…ですよね」

 

 「……そっちの方か」

 歩は面倒くさそうに髪の毛を掻く。

 「そりゃ、再生リジェネレーションぶっかましたから、わかっちまうだろうな。特に転生者には」

 「はい」

 「それでお前ら出身はどこだ?まさかマカ……」

 「マカロフです」

 再び言葉を皆まで言う前に遮られ答えられてしまった。


 (何だよ、この学校の転生者ってマカロフ出身者ばっかりなのか?)


 「そうなんだ。マカロフか」

 「…あまり、驚きませんのね?」

 天野が淡々としている歩の態度に呆気にとられている。

 「マカロフ出身者なら敬語抜きでいいな。他にもいるのか…?」

 天野らから転生前の名前など告げられたものの、なんかパッとしないしない歩。

 「そうかぁ。お前らと一緒に旅を続けていた可能性もあるのか…」

 歩は唸りながら考えるも、何か引っかかっている様でハッキリ思い出せない。

 剣持が必死で問いかける。

 「そうだと思う、いや絶対にそうだ。先生には、俺らの記憶ないのか?」

 「ないな。お前らの記憶がさっぱりない。記憶が一部戻ったのはクルマに轢かれて死にかけた時だが、思い出したのは名前と素性くらい。いくらかは断片的にはあるが、一緒に行ったメンバー…ガルウィンとかユリアーネだっけ?そう言われてもわからないんだ」

 「じゃあ、エマシア様のことも?」

 力石が天野を指すが、歩は黙ってコクリと首を縦に振った。

 天野は立ち上がり呆然としていたが、目を潤ませながらその場に崩れるように地面に膝を落とした。

 天野は歩のことを多少なりとも知っている様だ。

 「別に悪意はないが…今の状況だとゴメンとしかいいようがない」

 力石も今の状況を伝えた。

 「そういえば、俺たちも記憶が一部ないんですよ特に一緒にいったはずの勇者の記憶が」

 「もしかして、その勇者ってサウザンドクロウって言われていなかったか?」

 歩の答えに前のめりになる天野。

 「あっ、そうそう!!サウザンドクロウですわ!えっ、あなたサウザンドクロウのことご存じなんですか?」

 「ああ、知っているよ。そいつの本名はレオンバルド。それで俺の前世の名前だ」

 

 「………」


 一同は黙り込んでしまった。

 「あ、別にいいんだよ。『こいつ違う』とか『偽者じゃね?』と思ってもらっても。お前らの知り合いじゃなかっただけの話だ」

 「い、いや…そういう訳ではなくですね…」

 「俺らも記憶が飛んでいてわからないけど…」

 「でも、その名前の響き」

 「その突っ慳貪な態度…」

 「どこか懐かしい…」

 「おいおい、まるで亡くなってしまった昔の同級生を思い出すような言いっぷりはやめてくれないか?」

 彼らは今も勇者サンザンドクロウの記憶を失ったままであるが、どうも転生したその体でも懐かしさを引き継いでいた様だ。

 「先生ハグしていいか?」

 「おい、剣持、俺はショタじゃねえっつうの!吐き気がするから殺すぞ」

 「俺ならいいっすよね?」

 「力石みたいな馬鹿力で迫られるとマジで汗臭いのでゲロが出るから殺すぞ」

 「じゃあ、私なら」

 「黒井、お前みたいな弟も見境なく喰っちゃうビッチに抱きつかれると化粧臭くなるから、殺すぞ」

 「私なら良いよね」

 「白石、百合ビッチみたいなのに抱きつかれると、虫唾が走るから殺すぞ」

 散々な言われようである。


 「…………?!」


 沈黙する彼ら。だがその毒舌で何かを思い出したようで、昔を懐かしみ、歩を担ぎ上げ胴上げをして盛り上がってしまう。

 「いや、懐かしいです先生!」

 「そうそう、こうやって罵倒されながら稽古つけてもらっていた!」

 「先生、酷いなぁ…私、ガル専門ですから」

 「昔っから私のこと、百合ビッチ呼ばわりするのって先生ぐらいですからね」

 

 「ちょ、ちょっと待て。何のことだかわからん、降ろせっていうか…この腐れ童子わらすども!!」


 そこでふと、マカロフ時代のことを思い出した。


 (そういえば、向こうの世界の小学生の兄ちゃん、なんて言っていたっけかな…そうだガル公だ…剣持のやつそいつに感じが似ている。そうなるとガル公の姉がいたな…アメ子だ…黒井なのか?な)


 さらに思い出す。


 (アンドレイ…たしか似たような…そうそう、ハナタレっていっていたドワーフいたよな。力石か?そうするともう一人がエルフの…なんだっけか…百合っ娘…それが白石なのか?)


 ふと、天野を見る…が思い出せない。

 

 「おい、ガル公!!いつまで遊んでいるつもりだ稽古はどうした!!」

 「はっハイ先生!!」

 「アメ子!!ガル公の面倒しっかり見てるか!!」

 「ハイ、一緒にいつも面倒みています、だからいつも一緒にいます」

 「ハナタレ!!おまえ馬鹿なんだからしっかり勉強してるか?」

 「ハイ、先生の教え通り…とはいきませんが、このメンバーの中では1番ですから」

 「百合っ娘!!いつまでもアメ子のこと狙ってないでハナタレの面倒見てやれ!!」

 「ハイ、先生。今はやおい本専門になりました!!それにハナタレはもう大丈夫です!」


 まだ完全とは言えないが4馬鹿の記憶が思い出した。

 パズルのピースが少しずつ組み上がっていく。


 (そうなると、剣持と力石がいつも歩に対して稽古だと言って手を出していたのは前世の記憶がそうさせていたのかもしれない。黒井が剣持にべったりしていた件と白石が力石と一緒にいたのも合点がいく)


 「先生、マジでハグさせてくれよ」

 「やだ、お前でかくなりすぎ!!そしてキモい!!」

 「先生、俺もいいですか」

 「お前、ハナタレ…ていないけどそんな馬鹿力で俺をさわるんじゃねえ!!」

 「先生、私はいいでしょ、ガル専門だから!!」

 「うるさい、お前はガルを止めろ!!」

 「先生、是非男共にもみくちゃにされてください」

 「お前、今日から百合っ娘改めチ○子だ!!」

 

 とりあえず、この4人は良いとしても問題は、そこでよよよ…と泣き崩れている、天野である。

 「天野先輩は思い出せないんだよなぁ…逆に教えてくれよ」

 天野はゆっくり立ち上がると、涙を拭いながら語り始めた。



 「いいですか、レオンバルド。私とあなたは夫婦でした」



 「夫婦?」

 …衝撃的な事実を告げられた。

 「…あっ、あれ…俺って妻帯者だったけ?えっ、マジ?ごめん、そうだったんだ…えっ、あ…う」

 良いようにパニクっている元勇者、全くそういうイメージがない。

  「ですから…」

  天野がそこまで言いかけた途端、


 「嘘だ」「嘘です」「嘘ね」「嘘よ」


と4馬鹿が声を揃えて否定した。

 「チッ…」

 天野は舌打ちしギロリと4馬鹿を睨み付ける。

 「何だ、お前ら知っているのか?」

 「いや、知っているも何も…」

 「先生もよく教会で会っていたはずですよ…」

 「さあ勇者よ…って」

 「私ら何度も生き返らせてもらったじゃないですか」

 今の話を総合的にまとめると………

 「シスター?それとも神父?」

 「先生、おっしい!!」

 「声の主です。声の!!」

 

 「さあ、お行きなさい。勇者よ!!」

 

 天野がボソリと呟いた。

 

 「えっ、女神様?」


 そう言った瞬間、天野は号泣。

 ようやく元女神様について記憶が繋がった。

 もちろん、全てを思い出した訳ではないが、少なくともこの4人と旅をして、この女神の洗礼を受けて活動をしていたという記憶のパーツが埋まった。

 「あ~ぁ、そう言えば直で接見する機会ってあんまりなかったからなぁ…。女神様の中身が天野さんだったんだぁ…」

 「そうです、そうです!ソレなのにあなたは私の事をスルーして、あの馬鹿と共に行動してぇ~っ、酷いじゃないですか!」

 「あぁ、ごめんなさい。俺も記憶が一部戻って良かったですよ。でも今度は直接顔を合わせられるから、それだけでも感謝ですね」

 「あぁ~っ、もう、もう、もう!!」

 天野が感激余って歩に飛びついてきた。一見すると、真ヒロインが現れ良い感じである。

 …が、この話はそういう風に行かない訳である。どこかの嫉妬深い魔王様が何らかの仕掛けをしていない訳がない。

 天野が歩に抱きつこうと彼の体に触れた瞬間…


 バチバチバチ!!


 天野と歩の間に電気がスパークした。結界である。

 少し髪の毛が焦げて伸びてしまった女神様。

 「い、今の俺じゃない…」

 ふと周りを見回す。聖水のようなものの痕跡が体に降り注がれた形跡がある。

 どうやら歩の頬からその痕跡が確認できた。


 (あれ、もしかして…真緒さん?そういえばグラスいじっていたよな…あの水って聖水?いや…聖水だったら真緒さん自体もやばいよね)


 「あの…あの…あの腐れ○○○がぁ!!」


 今、女の子が(もちろん男の子も)絶対言っちゃいけない言葉を聞いた。

 しかも言った本人は元がつくけど女神様である。 

 

 「女神除けの結界なんぞしやがって!!」


 歩の頭上にはバーカと嘲け笑う真緒の姿が浮かび上がる。もちろんこれは歩と天野の想像の話である。

 でも、白黒コンビは黒焦げになっていないところをみると、神聖なもの…つまりは『女神有効』の『反聖水』なのだろう。

 …ということは、真緒は天野の正体を知っていたということになる。

 つまり、天野から歩を奪還されないようにトラップを仕掛けていた。


 (真緒さん、どれだけ俺の事好きなんだ?)


 この後、結界が発動したことを知った真緒が生徒会に乗り込んでくることは言うまでもない。

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