第24話 忌まわしい出来事5
セプテムにチョッカイを出した後、向かったのは翠嶺龍ことスペロ・テラ・ビルトスの所だ。
「スペロォ~何処に居るのぉ~」
「姉さん、どうして我が領域に」
「あら、お姉ちゃんが来てはいけないのぉ」
「い、いや、そうじゃ無くて体は大丈夫なのか?」
「ふふふ、優しいスペロ。お姉ちゃんを心配してくれているのぉ?」
「当たり前じゃないか、我も
「スペロ、頼りにしてるわ」
末弟のスペロからすれば、全能なる母と同等の長姉に優しくされる事の緊張感は半端では無い。
常に一語一句が完璧で無駄を好まず的を得た答えを示してくれる存在。
それがテネブリス・アダマスと言う暗黒龍だった。
※個龍の感想です。
そんな末弟ながら一番体格の大きいスペロ。
実際の大きさは変身の魔法で調整が可能だが、数人の姉の要望で現在の体型に決まった経緯がある。
可愛い末弟とイチャイチャしながら戯れて後にした”闇のテネブリス”。
三体の
しかし、三龍が不思議に思った事がある。
(((どうしてあんなに明るく振る舞っているんだ?)))
今までは物静かで、立場をわきまえて周りに気を配り毅然とした姉が、ふざけた態度で接しているからだ。
不信感では無く疑問を持ったのだ。
調子に乗っていた”闇のテネブリス”は自分の眷族にも声をかける。
とは言え自身の使徒であるベルムは要注意個体の使徒と”出来ている”事を知っているので、第1ビダに近づくのだった。
「ロサァ~」
「おぉ我が神よ、御身体の具合は大丈夫なのですか?」
「ええ、ありがとうロサ。それにフィドキアも居たのね」
「は、我らの神が御健勝で何よりです」
「もうフィドキアッたら硬いわねぇ、ロサを見習って”柔らかく”しないとモテないわよ」
「はっ」
何を見習うのか解らないがとりあえず返事をして後から創造主たる父に教えを伺おうと瞬時に判断したフィドキアだった。
「さぁ、あなた達の研究はどうなっているの?」
両肩に腕を回し二体の間を割り込む様に入って行く”闇のテネブリス”。
普段、触れる事も無い神の身体が自身の肩に腕を回されて内心ドキドキしているフィドキアと、久しぶりに眷族の神に甘える孫のロサだ。
テネブリスの振る舞いは全ての者達が疑問を感じ取っていた。
毅然とした凛々しい存在が、同位の同朋の様な振る舞いに戸惑ってしまう場面も有った。
しかし、その存在感は以前と変わらない。
その存在感・・・
秘めたる力の存在。
全てを飲みこむ底なしの闇。
その力に触れれば、自ずと理解してしまう膨大な魔素。
それらは例え表現が違っても変わる事は無い。
然るに、全ての者が”闇のテネブリス”を以前と変わらず崇め接していた。
唯一、一体を除いて・・・
”闇のテネブリス”が素の性格を出して龍国内を散策している頃、一体の龍が思案していた。
(最近お姉様が不在の時が多いわ。まぁお元気になられたから良いけど・・・国内のどこを見に行っているのかしら。以前は報告を聞くだけで何処にも行かなかったのに・・・まぁ元気になったのは良いけど・・・)
アルブマには不満が有った。
親愛なる姉が以前のように元気になったのは喜ばしい事だ。
しかし、それならばどうして自分の所に来ないのか。
以前であれば三日と開けずに自分を”求めて来た”のにだ。
それに・・・
以前とは違う態度。
以前は2人きりの時、優しかった姉とは違い乱暴な物言いで、力ずくで迫って来る姉。
拒絶してからは一切出向いて来る様子は無い。
(いったい、どうしちゃったのかしら・・・やっぱりお母様の言ってた心の中で葛藤していた何かが現れたのかしら・・・)
何度となく姉の異変を母のスプレムスと議論し、アルブマの証言とスプレムスの記憶からテネブリスの精神に何等かの支障が産まれ、”龍格”が二つになった可能性があると推測したのだった。
(もしも龍格が二つになったとしたら・・・戻るのかしら? それとも別々にした方が良いのかしら? まさかこのままずっとなんてイヤだわ。何とかして元のお姉様に戻ってもらわないと・・・)
秘めたる思いを胸に幾つかの打開策を講じるアルブマだった。
(今のままなんて嫌。論外だわ。元に戻る方法を考えるしかないわね。でも二つの精神を分けるには・・・)
精神を分けるでは無く、魂の分割は眷族の研究対象で既に実証済みの方法だが、一つだけ問題が有った。
それは別れた魂を宿す憑代だ。
アルブマの眷族が行なった生体実験では拒絶反応が多く、魔素を宿した無機質な物体を憑代にする事は可能なのだ。
そんな無機質な物に敬愛する姉の魂を移すなどアルブマに取っては論外なのだ。
もっとも、”姉では無い方”を移すのは良いが、どちらかの魂を選んで移す事は現状では出来ないのだった。
確立は二分の一。
(それでも、もしも最愛の姉が物に移ったら・・・)
そう考えると、その方法は最善では無いと思考の片隅に追いやるアルブマだった。
更にテネブリスと同格の魂を移す為にはかなりの魔素量を保有する器も必要だ。
(はぁぁ私のお姉様ぁ、必ず私が治してあげるわ)
アルブマの硬い決心を胸に、向かった先は龍国の中心部だった。
「お母様に相談しなきゃ」
※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero
一体の龍に二つの龍格。
スプレムスとアルブマが出した結論だ。
そして解決策としてアルブマの眷族が作成した魂を肉体から分離させる魔法陣を使い、本来の姉では無い龍格を隔離する作戦だ。
問題だった魂の器として膨大な魔素を含む無機質な物体はあっさりと見つかった。
「アルブマ、それだったらこの床を使えば良いわ」
「え、床ですかお母様」
スプレムスは地上の魔素を龍国に集めて保存管理している。
その為に、ほぼ中心部で仮眠状態なのだ。
長い時を過ぎると体に接していた場所に魔素が移る場合が有る。
ましてや、龍国は元スプレムスの殻なのだから、本龍の魔素が移りやすく溜まりやすい。
お腹の部分に接していた”白い石”に何気に手を当てるスプレムス。
すると球状の白い塊が浮き上がった。
その球体に更に魔素を送り込むスプレムス。
「これで憑代は大丈夫のはずよ」
「ありがとうございます、お母様」
「後は異物をその中に封印するのよ」
「はい、お母様」
全ては母娘の計画通りだった。
※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero
計画は順調だった。
”闇のテネブリス”が行なったのは唇を重ねる行為だ。
始祖龍スプレムスとその子らは繁殖を必要としない。
自らの魔素で子孫を創生できるからだ。
意図的に一部の龍種は性別に別れてはいるがテネブリス達は無性だ。
しかも、変身の魔法を使う際に”想像した”性別の形に変わっている。
アルブマとセプティモは”姉”を見習って、残りの二体は姉達の意向を元に”弟”になったのだ。
幼い頃は龍体でじゃれ合ってはいたが、成龍となり変身できるようになってからは、むしろ距離を取るようになっていた。
長姉たちを除いては・・・
それぞれの眷族からは神とも呼ばれる存在に気安く呼びかけ、馴れ馴れしくも体に障り、頬ずりをしてくる者がいた。
最初は困惑していたが慣れて来ると嬉しい物で、いつの間にか”それが”当たり前のように許していた。
そんなある日、いつもの様にベッタリと抱き付き頬ずりしながら挨拶していると、両手で頭を抑えられ唇を押し付けられたセプティモ。
「なっ・・・むぐうぅぅ・・・」
「ぷはぁ」
「ふふふ可愛いセプティモ。大好きよ」
姉から突然の行動と告白に顔を赤らめて動揺する妹だ。
「な、ナニをするのお姉ちゃ・・・姉貴ぃ!!」
「あら、ただの挨拶じゃない。そんなに驚く事じゃないでしょ」
しかし当のセプティモは、慌てふためいて何処かへ逃げて行った。
(ふふふ可愛いわねぇ。この調子で弟達も・・・)
※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero
「はぁい、セプテムゥ」
弟のセプテムに対しても同じ行為を行なうと・・・
「姉上、我にそのような行為をしても宜しいのですか? 」
ほんのりと頬を染めているが態度は冷静なままのセプティモだ。
「うふふ、どうして?」
「この事を知ればアルブマ姉上が御怒りかと」
「あら、知ってたの?」
落ち着いて頷くが内心嬉しいセプテムだった。
「良いの良いの、”あの子”にはちゃんと言って置くから」
そのままの勢いで末弟の所に向かった。
「スペロォ、おはようの挨拶だよぉ」
一連の行為をいると。
「な、何をするんですか姉上ぇぇ!!」
一番激しく狼狽えて動揺しているようだった。
産まれた時から甘やかしていたせいか、スペロにベッタリの”闇のテネブリス”だった。
「や、やめてください姉上、皆の前でその様な事は・・・」
おはようの挨拶を済ませイチャイチャする
スペロの眷族に見せつける様にして弄んだ姉は満足して違う場所に行った。
((はぁ、元気になったのは良いが、あんなに変わってしまうとは・・・しかも毎日のように来られると迷惑だよなぁ・・・他の姉弟の所には行って無いのかなぁ))
実はスペロと同じ事を他の姉弟も考えていた。
同族へ朝の挨拶を終わらせて国内を歩いていると見知っている者が遠くに見えた。
「ロサァァァァァ!!」
手を振って駆けて行く”闇のテネブリス”の声を聴き、立ち止まり礼をとるロサだった。
((ああ、我が神よ。そんなに走られては”いろんな所が揺れて”目のやり場に困りますなぁ))
内心では嬉しい悲鳴を上げるロサだ。
Epílogo
龍格=人格
ロサに降りかかる毒牙かな?
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