第10話 創生終了

テネブリスからアルブマにお願いしたのは、プリムラが妊娠するまでオルキスを地上から遠ざけて龍の国の整備をされる事だった。

スペロからのお願いでもあるし、自分の眷族には我慢させて種族繁栄の為にオルキスを説得したアルブマだった。


あたりまえだが猛烈な抵抗をしたオルキスに、テネブリスからの”魔法の言葉”で大人しくなった様だ。

その魔法の言葉とは、ロサに名を付けると言うものだ。

それもオルキスに冠する名を用意すると聞いて嫉妬の炎を治めたのだった。

その事でロサを自分のモノだと対外的に公表出来て独占欲を満たしてくれたからだ。


ロサとプリムラが長期間の植物調査で仲良く戻って来た時にはプリムラは妊娠していて、すぐさま親である使徒のオラティオ・プリムに預けられた。


セプティモの使徒のフォルティス・プリムとヒラソルにインスティントが共同生活から離れ個別の生活を始めると同時に、ナルキッスが男の子を産みセプテムの使徒リベルタ・プリムからカマラダと言う名が授けられた。


スペロの使徒のオラティオ・プリムが地上に戻り身重のプリムラと一緒に暮らすと言う。

丁度インスティントと入れ替わりになった。


最後の龍人の存在が確定したので、ロサが地上を旅した成果を示す時が来た。

テネブリスを始め眷族に種族が集まってロサの創生を見守る事にした。


「ロサ、創生する植物は決まったの?」

「はい、大地に根をはる樹木じゅもくを二つ掛け合わせたいと考えています」

「そう、どうして二つなの?」

「旅をする中で種族に対して”大切な思い出”と、”それぞれに対する愛情”を忘れない為にも二つの樹木にしました」

「良いでしょう。あなたがそのように考えたのならば始めて頂戴」


テネブリスの指示の元で種族全員が見守る中、創生が始まった。

ロサは人型のまま瞼をつむり集中している。

両手には別々の種を持ち自らの魔素を放出し、二つの種を混ぜ合わせるように一つの大きな種に変化していった。


両手から溢れるほど大きな種を持ち眷属の神であるテネブリスに献上した。

「大きな種ね」

「はい。この種が成長し実が成れば我が子が産まれるはずです」

「早く新たな種族を見たいわ。何処か良い場所に植えて見守ってあげなさい」

「かしこまりました。我が神よ」

「ロサ、産まれる子の名は考えてあるのかしら?」

「はい、我が愛した者達との思い出に冠した名を考えました」

「教えてくれるかしらロサ」

「産まれてくる者の名は、アルセ・ティロとします」


「あなたの愛する者達の思い出なのね」

「はい」

「言い名だわ。じゃ私からもロサに名を送りましょう」

「えっ、我に新たな名をでしょうか?」

「ロサ、あなたは種族の全員を愛する事になったけど、龍種どうしで初めて交配した事を評価して名を授けます」


全員の注目が集まるなか、1人だけ異常なほど鼓動が早くソワソワしていた。


「新しい名は、オルギデア・ロサ・ティロよ」

「「「おおおっ」」」

ざわめく一同だ。


本来はオルギデア・ロサだったが、アルセ・ティロと名と意味を聞いてテネブリスが土壇場で変えたのだ。

オルギデアはオルキスを意味し、ティロは愛した者達への配慮だ。


新しい名を聞いて号泣する者が1人居た。

自身が最愛の者の神に認めてもらった事で、心から感謝し歓喜に震えていたのだ。

もっともティロの意味を後で知ることになるが、優越感は揺るぎなかったオルキスだ。


新たに創生されたのは卵では無く大きな種だ。

種を大地に植え芽が出るのを見守る事にした一同だ。


「父上、我が眷族の誕生を見守る役目は是非我に任せて頂けませんか?」

「うむ。フィドキアよ、頼んだぞ」

「ハッ」

オルキスはロサに寄り添い、新しい種族の誕生を見守ろうと思ったがフィドキアがその役目を買って出来たので、渋々引く事になった。


「ねぇ」

「どうしたオルキス」

「あなたの事はこれからどのように呼べば良いのかしら?」

「今まで通りで構わないけど」

「折角、テネブリス様から頂いた名前よぉオルギデア・ロサ・ティロとちゃんと言うわ」

「まぁ、これから何か特別な時はそれで良いけど普段は今までと同じ方が良いけどなぁ」

「イヤよ。オルギデア・ロサ・ティロ。オルギデア・ロサ・・・ふふふっ」


1人で楽しそうにするオルキスを放置して、愛する同族や眷族には今まで通りに呼ばせようと心で決めているロサだった。




テネブリスは幸福だった。

現在の姿になって、どれだけの時を過ごしてきたのか、既に記憶も曖昧になっている。

しかし、前世と同様の姿に変身出来る様になってからは妹弟達に創生した眷族達が増えて一人ぼっちでは無くなったからだ。

わずかに残った”欲望のはけ口”も出来たし、記憶にある文明水準よりも低いとは言え家族のような仲間が出来たのだから。

そんな事も有り、地上に湧いて出るあまたの種族が作る集団には興味が無かった。


全ては龍種優先の考えであるテネブリスに替わり、地上の生命体に多少の知恵を与え、関わりを作り進化の手助けをになう事が龍人の役目と説いたスプレムスだった。


ゆっくりとだが、龍人達の力を借りて地上の文明も発展して行った。




※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero




大地に残っていたのは、幼いカマラダと親のナルキッスに、オラティオ・プリムと身重のプリムラと、アルセ・ティロが産まれるまでフィドキアが全体の世話を命ぜられた。

至福の時を過ごす第一ビダ達にフィドキアだ。

時の流れは目まぐるしく変わっているが気にも留めない龍種達だった。


時折、フィドキアが二足歩行体のまま巨大化の魔法を使用したり、成龍体になったり、成龍体で巨大化したりして神々の指令で魔物を”間引いたり”、地上種族達と共同で問題解決など行なっていた。


その様な行動をすれば、多少なりとも文明を持つ種族が騒ぎ出す。

やれ、古の巨人だの。

やれ、石版に有った神龍だの。

やれ、神だ、敵だ、討伐だ、崇拝だと。


もっともフィドキアはそんな小さき者の戯言たわごとなど全て無視した。

これはフィドキアの神の影響が強い。

命令では無く神が興味を示さないからだ。

フィドキアの眷族は、眷族神の真似をするのだ。


地上の”小さき者達”にとっては、長き時を使い大輪の花を咲かせた実からアルセ・ティロが産まれ、プリムラの子も時を同じく生まれる。

プリムラの子は男の子でバレンティアと名付けられた。


成長したアルセ・ティロが先に衛星に向い、魔法で木々や植物を大量に作り酸素を大量に発生させる環境を整えてから地上に残っていた龍人達が衛星に移動して生活が始まろうとしていた。


衛星の天空に合った大きな穴は塞がれており、何故か太陽の光が差し込んでいる。

衛星内の大地には幼いアルセ・ティロが魔法で植物を生み出し、真っ白だった世界に草木の緑や色とりどりの花が咲くようになった。

草木が育てば酸素が発生し、呼吸活動する生命体も生活可能となる。

水分は七海龍セプテム・オケアノスと眷族が大きな水たまりを作り、地表を循環させるように翠嶺龍スペロ・テラ・ビルトスと眷族に水路を作る予定だ。


そしてバレンティアの成長と共に本格的な国作りが始まる。

属性魔法が街作りに役に立ち、幼いながらもフィドキアを凌ぐ属性魔法を使い同族の中で一番の才能を発揮するバレンティアだった。

街作りと言っても、まだ住む者達も居ないので大まかな区画整理の元で、それぞれの住家を作って行く様だ。


初期段階では、それぞれの眷族と共に住家を魔法で作っていたが、バレンティアの才能を高く評価したフィドキアが神々に進言したのだ。

フィドキア達にとって神々とはロサよりも上位の全ての存在達の事だ。


実際、翠嶺龍スペロ・テラ・ビルトスの住家は素晴らしく、土属性の魔法が得意なのはもとより、眷族の全てが住家作りの才能を持っていた。


眷族達が作った住家を見れて回れば、考えも変わってくる。

同族の中には屋根も無い住家を作った者もいるのだから。


種族が全員集まり、会議が始まる。

会議と言っても全員の思惑は1つなのだ。

そう、秀でた才能を持つ者の眷族が国作りを行なうと言う物だ。


単に面倒だからとは誰も言わない。

全ての同族や眷族から称賛されれば嫌な気分では無いのだから。

そして、再度眷族別で住家の設計を見直してから改築に取り掛かった。


建築資材は衛星内部の壁面に有る石の様な白い”殻の残骸”で魔法を使って成形するのだ。

足りない分は内側の壁を削り取り建物を作って行く。

街は種族や眷族で区切られて共有の場所も確保してある。

中心から外側へ行くほど大きな施設や実験場などが用意された。


また、それぞれが熱心だったのは自分専用の住家だ。

寝床と言っても良いだろう。

初期の住家はそれぞれの性格が出ているようだが、翠嶺龍スペロと眷族達が手伝って素晴らしい住まいへと変わって行った。


七海龍セプテム・オケアノス。

彼と眷族は几帳面なようだ。

全てに置いて規則正しい大きさと形で作られて行く造形なのだ。


聖白龍アルブマ・クリスタ。

彼女と眷族はセプテムと対照的に曲線を多用した造形が多い。


七天龍セプティモ・カエロ。

彼女と眷族は独創的な住家が多く1つとして同じ作りは無い。

初期段階は、ほとんどの建物に屋根が無かった。

何故ならば彼女達は歩くよりも飛ぶ事が好きなのだから。

もっとも地上世界とは違い、空から何も降って来ないし風も無い世界なのだから屋根が必要かと言えば疑問であるが、個室にこだわる黒髪の姉に従った様だ。


翠嶺龍スペロ・テラ・ビルトス。

彼と眷族は属性魔法が相まって、どの眷族達よりも造形が多様化し細部の作り込みが細かかった。


とは言っても、寝台は石の様な建物と同じ素材で腰の高さまであるだけの物だ。

床と同じ硬さなので決して寝心地が良いとは言えない代物だ。

それでも個人の空間を確保でき、地上のような虫や小動物の鳴き声が無いので静かな空間を作りだせた。

ただ、その音が無くなって寂しいと言う者達の事は聞かなかった事にする黒髪の姉だ。


そして最後に暗黒龍テネブリス・アダマス。

彼女と眷族はハッキリ言って地属性は得意な魔法では無い。

その事も有り、仲間の家を見てからスペロにお願いして作ろうと考えた。

それまでは始祖龍スプレムス・オリゴーの住家を、眷族を伴いスペロと一緒に手伝って製作していた。


長い洞窟生活で家と言う概念を忘れてしまった転生者は、創造主であり大神である母の希望を聞きながら作って行く仲間達を見ていた。

本来の巨大な龍の姿に戻れる場所も設置し不自由の無い大きさに考えられた母の住家だ。


中心部の巨大な円形の屋根に覆われた場所は全員が成龍形態に戻ってもゆったりとした広さを確保してある。

その場所と併設されて母の住家が作られたのだ。

そしてある程度目途がつき、スプレムスがアルブマや他の家を見に行った。


中心部の近くに眷族達が共に住家を作っているが、それだけだ。

他には何も無い白い荒野が広がる大地だった。

ある程度の専有地は有るが圧倒的に荒野だ。

人型でいると余計に広大に感じられていた。

もっとも、元の成龍形態だとしても内部はかなり広い。


広い荒地を歩き、フッとテネブリスに念話したスプレムスだ。

(テネブリス、ちょっと良いかしら)

(あら、お母様。どうかしたの?)

(今後の事で確認したいの)

(解かったわ、今行く)


衛星内の広い空間でも母の気配は直ぐに感じた娘は、瞬時に現れた。


「どうしたの、お母様」

「・・・この空間に対してあなた達が少ないから、これからの事が気になったのよ」


確かに広大な荒野に龍達の住家は中心の極一部だ。

しかし、当初の計画では厳選した移住者を連れて来る事と、魔法を研究開発させる者を新たに創生する事を考えていたテネブリスは母に説明した。


「第一ビダ達が眷族の創生にほとんど失敗したけど、能力を制限して変身する必要は無いし”この形態”を作るのだったらそれほど難しく無いと思うの。勿論、魔法の研究開発専用としてね」


「そうなの? それはどの位創生させるの?」

「うぅぅぅんとそれぞれが10体ほどかしら。全部で50体になるし、交配させれば種族の能力が活性化するかも知れないし楽しみだわ」

「でも二足歩行型は直ぐに死ぬわよ」

「そうよね。地上の生物みたいに短命じゃ困るわ。ある程度調整するように皆と相談するわ」


テネブリスの考えはこうだ。

前世の記憶に残る姿をした存在の創生を第一ビダ達にさせる事。

これは龍種の創生をロサしか成功出来なかった為に、失敗した全員が心に”わだかまり”が有るとロサから報告を受けていたのだ。


その者達に魔法の研究開発と魔導具の開発を行なわせようと密かに企んでいるテネブリス。

((まずは5つの眷族別に目的を変えるべきよねぇ。そして交配させて数を増やし研究対象を増やすとしましょう))

遥か昔から考えていた事が、やっと現実化する事に喜んでいるテネブリスだ。


第一ビダ達は交配と言う手段で眷族を増やす事が可能になったが、創生と言う龍種の能力が使いこなせない事に劣等感を持っている様だ。

創生で失敗した存在は眷族達が処分する。

過去にそれらの成長を見守った時期も有ったが、望んだ結果には成長せず、思考が歪だったり能力が無かったり、意思の疎通が出来ない者達がほとんどだった。

それでも処分は心もとないので創生者ではなく違う眷族達が処理していた。


龍種に比べれば同じ創生でも、二足歩行型だったらもしも失敗しても処分するのに弊害は無い。

種族が違うので、見た目の罪悪感が無い事が主な理由だ

現在は二足歩行型に変身しているとは言っても本来は龍種なのだ。

姿、形は似ていても同族で無い存在の処理は問題無いと考えていたテネブリスだ。


勿論、アルブマ達には自らが説明し、眷族のロサから同族のオルキス達に説明させて創生に至る訳だ。

だがその前に、自分達の住家の完成を急ぐべく居住区に戻る親子だった。




※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero




テネブリスは種族全体に眷族として龍国の住民として自分達の世話や魔法の研究などをさせる事が目的だと説明し、ロサが手本を示す様に創生の準備を始めた。


龍種の創生よりも早い時間でしもべが創生された。

あらかじめ、念入りに打ち合わせした甲斐があったようで、小さな子供のような大きさで創生された”それ”は、全身真っ白で髪も白い。

唯一、目の色だけが黒く眷族を思わせる存在だ。


((さぁ、これで魔法の研究と繁殖が期待できるわ))

テネブリスの期待と共に密かに野望が進みだした瞬間だった。


母から事前に聞かれていたが名は考えていなかったテネブリスだ。

単純に自分達の命令を聞く存在であれば良いと考えていた為、しもべと呼んでいた。

もっとも妹弟達が特定の名を与えるのであれば構わないし、ロサに丸投げしようと思っていたテネブリス。


そしてオルキス、ヒラソル、ナルキッス、プリムラがロサの指導の元、順番に創生を始める。


ロサの僕達は黒目だ。

そしてオルキスの僕達の目は金色だった。

ヒラソルの僕達は赤色で、ナルキッスの僕達は青色だ。

最後のプリムラの僕達は緑色だった。

同じなのは髪の毛や肌も真っ白で、目の色だけが違う。


当初の予定通り1つの眷族が別性で5体づつ創生し、計10体を成長させて数体を他眷族と繁殖させる計画だ。


しもべの次は・・・






Epílogo

暗黒龍の使徒の第1ビダのセミリャ(種子)・・・アルセ・ティロ

セミリャは単独創生の為に一体のみ

(後に子孫が派生して被子が分派となる)


アルセ・ティロの花言葉

大切な思い出

夫婦愛


生れたての”しもべ”の体長は150cmで、2mほどに成長すると予測され、寿命は2000年ほどである。

成長させる手間をはぶき、直ぐに動けるように配慮した結果だ。

バレンティアの属性は土だ。

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