第21話 正しき偽善よ鐘を鳴らせ(3)

「おいおい、そんなに早く歩くなよ」


 レッドが足を止め、振り返った。


「お前、俺様の足が小さいことを忘れてるんじゃないだろうな?」


 ルンペルシュティルツヒェンが小さな足をヨチヨチと動かし、レッドの後ろをついてきた。


「祭りは楽しむもんだぜ。まーあ? たかがアメリアヌの土地の祭りだけど、百年に一回きりの祭りだ。どうせお前は百年後生きてないんだから、今のうちに楽しんでおくことを勧めるぜ」

「……そうさ。どうせ僕は長生きできない」

「人間っつーのはあっという間に死ぬからな! 女の賞味期限は六から二十まで。ほんの十四年もの。追加の消費期限は五年もの。だけど男は百年もの。レッド・ピープル、男なら楽しもうぜ。若いお姉ちゃんの尻に触れたらあら不思議。次に目を覚ますのはベッドの中。そして明日は別の女。綺麗な花びらをつまみまくる人生よ。素晴らしいと思わないかね?」

「ルンペル、一日ちょっと、寝る場所と食事をくれたことには感謝してるよ。でも、貴方の話はよくわからない。テリーさんは女を守る紳士になりなさいって僕に言ってた。貴方の言う行動は……なんか、紳士というものには思えない」

「それはお前が本物の男を見てないからわからないのさ。男ってのはな、絶対謝っちゃいけねえ。何か都合の悪いことがあれば無視すれば大抵解決する。紳士だって? ダメダメ。あんなひょろっこい男共の真似事なんざ。あんなのはカマァと一緒よ。男ならいけねえことをしてなんぼ。そっちの方がずっとかっこいい」

「僕はそうは思わない」

「なぁ、しけた面して歩くのはよそうぜ。あのもどき女がいない中で会えたなんて奇跡に近い。そうだ。俺様と友達になろう。友達なら願い事も叶えてやるよ。ただし、契約書が必要だ。それと引き換えになるものだ。俺様は等価交換形式だからな。そうだ。お前の足一本でいいよ。足一本でどんな願い事だって叶えてやろう!」

「だったらさ」


 レッドが笑みを浮かべ、ルンペルシュティルツヒェンに赤い眼を向けた。


「僕を元の時間軸に戻せる? 家に帰せる? お母さんを生き返らせることはできる? それでもって、お金を降らせることはできる? 死ぬ運命にある僕を生き返すことはできる? 歴史は変えたら駄目なんだろ? それでもできるの? たかが、小人のお前なんかに!」

「……」

「魔法使いって、思ったよりも何もしてくれないんだね。がっかりだ」


 レッドが再び歩き出すと、ルンペルシュティルツヒェンがまた小さな足をヨチヨチ! と動かし、レッドの隣についた。


「そうか。お前、死ぬのか!」

「……」

「だったら尚更! 良い人生を送らないと! 命に関しては……また今度だ! 金を降らせることなら今すぐにでもできるぜ! そら、楽しもうじゃないの! ただし! 足一本……」

「お金なんかいらない」

「あ……じゃあ! この村の女全員に、魅了の魔法でもいかがかな!?」

「いらない」

「それじゃあ……」

「いらないよ! どれもいらない! どいつもこいつも役立たず!」

「おいおい、落ち着けって! 若旦那!」

「黙れよ! 人の気持ちを踏みにじることしか楽しみを知らない悪魔め! お前は友達なんて一生できやしないよ! 最低な奴。お前の顔なんか、二度と見たくない!」


 レッドが怒鳴り、人の中へ潜っていく。彼の様子を見たルンペルシュティルツヒェンが肩をすくませ、ため息を吐いた。


「駄目だ。ありゃ。早死するな」


 だが、獲物を逃さないのが彼の鉄則。またまた小さな足をヨチヨチヨチ! と動かし、レッドを追いかけた。


「わかった、わかった。俺様も同情くらいは出来るんだ。なんか奢ってやるよ。ほら、あそこにおかゆがある。貰ってくるか?」

「いらないよ。どうせ死ぬんだ。今までの時間軸で見てきた奴らみたいに、気が触れて、化け物になって……」


 ――お兄ちゃん! だっこしてぇー!


「……リトルルビィを残して……死んでいくんだ……」

「あん? リトルなに? 美味しそうな名前だな」


 その時、突然太鼓の音が鳴り響き、レッドが驚いて振り返った。


「おお、どうやら前夜祭の見世物が始まったようだぜ!」

「うるさ……」

「ああ、まだまだお子様だな。この祭らしい演奏すらわからないなんて」


 レッドが耳栓をして、夜空の方向を見上げた。鳴り響く演奏。やぐらからやぐらへ、女神役のジャンヌが踊りながら移動していた。


「おー、こいつはまたべっぴんちゃんだ。尻の形も悪くない」

「……?」


 不審な足音が聞こえて、レッドが振り返った。すると、ルンペルシュティルツヒェンが猛スピードで走ってきた少女に蹴飛ばされた。


「うぎゃ!」

「ごめんなさい!」

「っ」


 ――過去のテリーの姿に、レッドが息を呑んだ。しかし、彼を知るはずのないテリーは謝りながら走り続ける。


「お願い! 通して! 急いでるの!」


 一体どこに向かうのか、レッドが追いかけた。


「いてて! 何しやがる! 走る時はちゃんと前を見て走れって……おい! レッド! 俺様を置いていくな!」


 レッドがやぐらを見上げた。ジャンヌが最後のやぐらで聖水を飲もうとしたところにテリーが突然現れ、ジャンヌの腕を叩き、その衝撃に驚いて手から離れたグラスが地面に叩きつけられた。村人達が唖然とした。


「て、テリー……?」

「駄目」


 テリーがジャンヌの肩を掴んだ。


「ジャンヌ、リチョウに言われたの。その聖水は毒よ」

「え? リ、リチョウ?」

「ジャンヌ、聞いて、もう手遅れなの。アトリの村は、みんな……っ!」


 突然、テリーが苦しそうに頭を押さえ出した。レッドが駆け寄ろうとしたが、ルンペルシュティルツヒェンに足を掴まれた。


「一人で勝手に行くなよ! 俺様は小さいんだぞ!」

「ジャンヌ! 離れろ! テリー様の様子がおかしい」

「ルンペル! テリーさんの様子がおかしい! 助けに行かないと!」

「お前忘れたのかよ。別の時間軸の人間とは関わっちゃいけねーんだろ?」

「だけどっ……!」

「ジャンヌ! この女はテリー様ではない!」


 ヒョヌが大声に、レッドが反応した。


「人狼だ!」


 東西南北のやぐらから、テリーに向けて銃を向けられた。その瞬間、レッドの白目が赤く充血した。


「テリー様に化けて、ジャンヌを食おうとしたか!」

「パパ、なに言ってるの!? やめて! なにか変!」

「人狼だ!」


 ヒョヌが言うと、アトリの村人が全員叫んだ。


「「人狼だ!!」」

「おっとこいつは嫌な予感。悪寒が走るぜ」

「ジャンヌを守れ!」

「相棒、俺様はそろそろ帰ろうと思うんだ。お前はどうする?」

「早く!」


 人々の目がおかしくなっていく。レッドはすぐに気がついた。今まで見てきた者達と同じだ。この村の者達全員――呪われている。そして、全員がテリーを――殺そうとしている。


「撃てーーーー!」


 弾が撃たれる。

 レッドが目を見開いた。

 テリーの口の動きが見えた。



 だれか、あたしを助けて!!



 飛びこもうとした。

 足を掴むルンペルシュティルツヒェンを引き剥がして、レッドがテリーの元へ行くのは容易いことだった。

 だが、耳元で言われたのだ。






「 行 く な 」






 誰かが、レッドが動き出すことがわかっていたかのように、既に背後に立っており、レッドの肩を掴み、動かないよう押さえていた。


「元の時間軸に戻れなくなる」


 レッドは振り向こうとした。だが、誰かに止められた。


「振り向くな。前を見ろ」


 レッドはなぜだか、振り向いてはいけない気がして、振り向くことをやめた。


「そうだ。そのままよく聞け。クソガキ。今のお前は無能なゴミだ。我儘で、人の話も素直に聞かず、自分の無力も認めない、人の足を引っ張ることしかできないとんでもないお荷物だ。自分一人では何もできない。大切な人を守ることもできない。どれだけ守られているかも気づいていない。そんなお前が、あそこに行く資格はない」


 やぐらでは、既にキッドがテリーを助けている。


「嫌なら受け入れろ。悔しがれ。後悔して絶望しろ。そして考えろ。なぜテリー・ベックスがお前に真実を言わなかったのか」


 歴史を変えてはいけない。


「あのお方は、ギリギリのラインを踏み込んでいる。本来であれば許されないところを、もどきであるが故に許されている。たった一人だとしても、とんでもなく危険な橋を渡っているような状況の中、お前を背中に抱え、前に進んでおられる。その上で、お前は何を行動した?」


 レッドの瞳が困惑で揺れ動く。


「何もしてないくせに、文句と癇癪は一丁前」


 歯ぎしりの音が聞こえた後、低い声で言われた。


「ルンペルシュティルツヒェンを連れて森にでも隠れていろ。自覚しろ。役立たずはお前だ。レッド」

「この村に手出しはさせない!」


 アトリの鐘が鳴る。


「ウソつきを正しき道へと導くのだ!!」


 日が沈んだ。夜が訪れる。空が闇に覆われた。一人が悲鳴をあげた。しかしそれは悲鳴ではない。遠吠えだ。尻から尻尾が生えた。耳はとんがっていった。目は小さくなった。口は伸びた。身長が高くなった。肌からは黒い毛が伸びた。もう一人も同じように大きくなって毛が生えた。その隣にいた者も、また次の人も、どんどん、みんな、大きくなって、膨らんで、筋肉がグチュグチュ動いて、毛が伸びて、二本足で立つ狼になった。


 ルンペルシュティルツヒェンが悲鳴をあげて、レッドの背中にしがみついた。レッドが振り返る頃には、声の主はもういなかった。


 もう一度振り返ると、リトルルビィがやぐらからテリーとジャンヌを抱えて飛び降りようとしているところだった。


「娘を返せ!!」


 人狼が一斉に遠吠えを始めた。アトリの鐘が鳴る。やぐらが傾いて地面に落ちた。キッドが、ソフィアが、リオンが、騎士や兵士が動き出す。人狼達が暴れ出す。

 

 広場はどんちゃん大騒ぎ。血がはね飛び大戦場。呪われた人狼は兵士や王族に牙を剥く。そこをリトルルビィが踏んでいく。二人の女を抱えて、人狼達の頭を踏みつけ、口を向けられたら人狼の目をめがけて踏んづけた。悲鳴をあげる人狼達を放って、リトルルビィが広場の外れに着地した。


「メニーは教会に避難させてる! 行け!」

「リトルルビィは!?」


 その時、人狼がリトルルビィの腕に噛み付いた。テリーとジャンヌが悲鳴をあげた。


「おうおう、やってくれんじゃねえか……」


 リトルルビィが噛まれた義手を思いきり振り、人狼を投げ飛ばした。人狼が可哀想な悲鳴をあげて、ふらつきながら立ち上がる。


「時間を稼ぐ! 行け!」

「リトルルビィ!」

「行こう! テリー!」

「ジャンヌ! 忘れもんだ!」


 リトルルビィがジャンヌに銃を投げた。それをジャンヌが見事に受け取る。


「テリーを守って!」


 リトルルビィが襲ってきた人狼を投げ飛ばした。


「早く行け!」

「ありがとう! 行こう! テリー!」

「リトルルビィ……!」

「早く!」


 ジャンヌに引っ張られ、テリーも一緒に駆け出した。人狼達がリトルルビィを囲んだ。リトルルビィの赤い目玉が全員の動きをとらえた。人狼が容赦なく襲い掛かってくる。だからリトルルビィも容赦なく反撃した。蹴飛ばし、噛みつき、爪で目を引っ掻き、思い切り蹴飛ばす。高く飛び、人狼の肩に乗り、頭に乗り、煽り煽って避けて、襲い掛かった人狼達がぶつけ合うよう仕向ける。背後から人狼が飛び込んできた。リトルルビィが殴った。人狼がまた襲い掛かって来た。ルンペルシュティルツヒェンがレッドを引っ張った。


「レッド! ここは危険だ! 男にはな、逃げるが勝ちって言葉がつきものなんだ! わかるだろ! 俺様達にゃ、何も関係ないもんさ! 早く森に逃げ……」


 レッドがはっとした。リトルルビィが人狼を避けようとすると、看板をリトルルビィの頭にぶつけてきた人狼がいた。レッドが息を呑んだ。突然の出来事にリトルルビィが怯むと、そこを一気に襲われた。大量の人狼がリトルルビィを押さえこみ、リトルルビィは白目を剥いてその場で痙攣を起こした。人狼達が口を開けた。今にもリトルルビィの肉を噛み取ろうとしたところで――猛獣が飛び出した。


「ひぃい! レッド! どこ行くんだよ! 小さな俺様を置いていくなー!!」


 レッドの怒りは頂点に達していた。大量のコウモリに化け、その力を見せつけるように一気に人狼達に襲い掛かった。お陰でリトルルビィを押さえていた人狼達は一目散に逃げだした。そして、再びリトルルビィの方向に振り返ると、彼女を守るように盾となる子供が、乱れた呼吸を繰り返し、自分達を睨んでいた。子供が威嚇するような鳴き声を上げた。人狼達は悟った。この子供に手を出してはいけない。しかしもう止まらない。怒りに身を任せるレッドの体は黒く染まっていき、巨大なコウモリ男となった。悪魔のような翼を広げ、空を飛び始めた。そして、空から人狼をめがけて突進し、首を噛み切った。人狼達はなすすべなく彼の餌食になっていくのであった。


 ――急に空気が変わった気がしてソフィアが振り返ると、そこには見たことのない中毒者が人狼に襲い掛かっていた。兵士が気絶したリトルルビィに近づこうとすると、中毒者は空から飛び降り、リトルルビィを守るように兵士にまで威嚇の鳴き声を上げた。


「殿下!」


 ソフィアが大声を出すと、すぐにキッドが反応した。村長であるヒョヌが成り果てた人狼の攻撃を剣で受け止め、ソフィアの指を差す方向に振り返ると、暴走するコウモリ男がリトルルビィに近づく敵も味方も関係なく攻撃していた。


「おっと! こいつはとんだゲストだ!」

「貴女はいつまでケダモノと踊っているつもりですか!?」

「とりあえず周りの人狼達をどうにかしろ! アレはそれからだ!」

「御意!」


 コウモリ男が口を動かした。


「貴様ラァ……」


 人狼達が一気に襲いかかるが、羽を開くだけで人狼達は吹き飛ばされた。


「よくも……よくもリトルルビィに……」


 恨みが溢れてくる。


「僕の妹に、よくも……」


 憎しみが溢れてくる。


「殺してやる……」


 リトルルビィに近づく奴らは許さない。

 僕の妹に手出しする奴らは許さない。

 誰一人許してなるものか。


 僕は役立たずではない。

 僕は無能ではない。


 僕はリトルルビィのたった一人のお兄ちゃんだ!!


「貴様ら全員殺してやる!!」


 レッドが一歩踏み込んだ――時だった。






 小さな咳が聞こえた。






「……げほっ……」

「っ」


 ――レッドが振り返った。そこには、血の唾を飛ばし、焦点の合ってないリトルルビィがいた。レッドが笑みを浮かべ、手を伸ばした。


「リトル……」


 ――あたし達は別の時間軸から来てる。

 ――別の時間軸の人間に干渉してはいけない。


「……」


 ――未来や過去を変えることになりかねない。

 ――そうなったらどうなるかわかる?



「元の時間軸の世界に戻れなくなる」








 レッド、






「ごめんね」

「ルビィを守るのよ」

「お母さん、疲れてしまったみたい。少しだけ……眠るわね」





「お兄ちゃん」

「わたしたち、ずっと一緒だよね?」

「離れ離れなんて、やだよ……」




「可哀想に。まだこんなに小さいのに」

「この飴をお舐め」

「必ず幸せが訪れるでしょう」




 青に覆われた世界。

 赤を求める世界。

 リトルルビィは喜んで血を差し出した。

 それで幸せになれるならと、笑顔だった。

 だから笑顔で受け取った。


 痛くなってきた。

 苦しくなってきた。

 毒が体を回る。

 青が赤になる。

 赤が増えていく。

 胸が痛い。

 喉が渇く。

 赤が欲しい。

 リトルルビィが犠牲になる。

 苦しくなる。

 痛くなる。

 忘れる。

 赤になる。

 赤になる。

 赤になる。


 赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。青は許されない。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。青は赤にせよ。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。みんな幸せになろう! 赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。青がいた。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。喉が渇く。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。魔法使い様ありがとう。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。どうしよう。赤になる。赤になる。赤になる。これは呪いだ。赤になる。お母さんと約束したんだ。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。約束を守らなければ。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。お母さん。赤になる。赤になる。助けて。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。誰か助けて。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。溺れてしまう。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。僕の人生は何だったんだろう。赤になる。赤になる。赤になる。リトルルビィの為なんだ。赤になる。赤になる。赤になる。生きる為なんだ。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。青が悪いんだ。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。赤になる。素敵だ。赤になる。赤になる。溺れよう。忘れよう。赤になる。壊れちゃおう。赤になる。赤になる。止めてください。赤になる。赤になる。誰か止めてください。赤になる。赤になる。化け物になる。赤になる。赤になる。赤になる。もう化け物だ。赤になる。赤になる。助けて。赤になる。助けて。赤になる。助けて。赤になる。助けて。助けて。助けて。助けて。


 誰か僕を助けて。









「人を襲っておいて謝罪もせず家に帰ろうって? 良い御身分ね」







 怖い顔の女がいた。目つきは悪く、黒と緑が混じったようなくすんだ赤色の髪の毛を持ち、ベッドで動けないでいる自分を睨んでいた。


「もうこれ以上舐めるのやめなさい。薬を打った意味がなくなるから」


 薬を打ったと言ってるくせに、体には感じたことのない痛みと苦しみが沸き起こっていた。だから聞いた。自分は死ぬのかと。彼女は答えた。


「さあね? 今夜を乗り切ったら、なんとかなるかも」


 家に帰りたいと言った。守らなければいけない妹が待っているから。彼女は答えた。


「朝になったら頼れる奴のところに連れて行ってあげる。そいつに今の事情を全部話しなさい。そしたら妹も一緒に保護してくれるから」


 彼女は、自分を魔法使いもどきだと名乗った。


「普通の人間よりかは説得力あるでしょう?」

「とりあえず、朝が来るまでそのままで我慢してちょうだい」

「大丈夫よ。今夜させ乗り切れば、あんたは間に合ったってことだから」


 彼女は自分には触れなかった。けれど、そこから離れる様子はどこにもなかった。


「寝なさい」

「今夜は、あたしが守ってあげるから」


 お前は何を行動した?


「その力をあたしに貸してくれない?」」


 彼女は笑顔で提案してきた。


「お互いを助け合いましょう。あたしは貴方の救世主になる。だから、貴方はあたしの救世主になってちょうだい」

「あたしが困ったらあたしを助けてくれない? その代わり、貴方のことはあたしが守ってあげる」

「大丈夫よ。貴方はルビィのお兄ちゃんだもの」


 首を傾げて聞いてくる彼女はどこか信用できるところがあった。


「あたしを守ってくれる?」

「……わかりました」


 青しかなかった世界に、再び色を蘇らせてくれたのは、彼女だったから。


「僕、頑張ります!」


 コウモリになって様子を見に行った時のリトルルビィじゃないかと思った女の子は、日記を書きながら呟いていた。


「ああ、テリーのことを考えると胸がドキドキしてきちゃう……。私達、今同じ建物の中にいるのね。はあ。テリー……♡ 結婚したらテリー・ピープル……きゃっ!♡」


 ピープルって言ってたし、お母さんに似ていたし、――テリーさんのことをぶつぶつ呟いていたから、多分、おそらく……この子なんじゃないかと思って見ていた。リトルルビィが懐いているということは、やっぱり、テリーさんは良い人なんだと思う。きっと信用して大丈夫だ。テリーさんは僕を守ってくれる。だから僕も守ろう。


 彼女の救世主になろう。




 そう思った気持ちが、踏みにじられた気がした。

 貴女ですら、自分を裏切るのかと。


「レッド、待って。話を……」


 自分は聞かなかった。ショックだった。


「レッド、お願い、あたしの話を」


 どんなことを言うつもりだったんだろう。自分は素直に聞かなかった。聞いてから根拠のない言い訳なのか、ちゃんとした理由だったのか判断することも出来たのではないだろうか。

 そう思ったら後悔ばかりがよぎってきた。

 いや、もう遅いのだ。

 だって、自分はあの人に噛みついたのだ。


 だからもう助けてくれない。


 お前は何を行動した?


 受け入れず、逃げだして、お腹を空かせて寝ていたらルンペルシュティルツヒェンに食事を寝床を借りて、それで、その後は――どうする?


 結局自分一人では何もできないくせに、文句と癇癪は一丁前。


 だから死ぬんだ。

 きっと、自分の不注意で死ぬんだ。

 こんなに自分に甘いから、どこかで足元をすくわれたんだ。


 自分は死ぬ。


 だからって――このまま妹を見捨てて良いのか。


 リトルルビィは、まだ生きている。


 この時間軸のテリーもまだ、生きている。



 まだ、やれることはある。




「……ルビィ」




 震える手がリトルルビィを撫でる。


「起きろ」


 リトルルビィの体を揺らす。


「起きるんだ」


 リトルルビィの焦点は合わない。だから、レッドは声を出した。


「起きろ! ルビィ!!」


 リトルルビィの目玉が、揺れながらレッドに向かれた。


「わかってるだろ! 寝てる場合じゃないだろ! ルビィ! 起きろ!!」


 人狼達が近づいてくる。


「僕はもういない! 僕は、死んで、もういないんだ! お前が起きなきゃ……」


 視界が揺らいだ。


「誰が……」


 駄目だ。泣いてる場合じゃない。


「テリーさんを守るんだ!」


 ――忘れないで。あたしは貴方の救世主。


「ルビィ! テリーさんを守るんだ!! 出来るだろ!!」


 ――僕は、貴女の救世主。


「お前は僕の妹の、心が大きなリトルルビィだ!! 起きろ!!!!」


 レッド。


「起きて戦え!!!」




 気を緩ませること、または注意を怠ることを油断と呼ぶの。油断したらどうなるの?


 ――……足元をすくわれる?



 そうよ。だから、







「足元に注意して」






 レッドが顔を上げた。

 いつの間にか、人狼に囲まれていた。

 人狼達が一斉に飛びついた。

 レッドは動かない。

 ひたすら、リトルルビィを抱きしめて――人狼に襲われるのを待つ。



 人狼の爪がレッドに触れる前に、地面から、とんでもない光が現れた。


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