第123話王太子死闘

 王太子は、死力を尽くして戦っていた。

 敵をどれほど斃しても、アンデットとなってしまう。

 王都騎士はもちろん、近衛騎士まで魔族に支配され、王太子に襲い掛かって来る。

 最初は憑依や支配に抵抗していた勇士達も、激闘に疲れ傷つき、抵抗力が低下した隙を突かれ、憑依されてしまったり支配されてしまったりした。

 王太子が信頼していた者達が、自分の意志に反して、王太子に剣を向けて命を奪おうとするのだ。

 王太子は心を鬼にして剣を振るった。

 幼い頃から仕えてくれる、幼馴染の友とも言える近習も、心の中で涙を流しながら斬り殺した。

 父の国王陛下と同じくらい信頼する、傅役を手にかけた時には、胸をえぐられるような痛みを感じ、幼い頃に泣いて以来の涙を流した。

 返り血を浴びたのか、それとも絶望の所為なのか、その涙は血のように赤く、血涙と言えた。

「うぉぉぉぉぉ」

 怒り怒髪天を突いた王太子は、雄叫びと共に敵の真っただ中に斬り込んでいった。

 馬鎧で防御を固めていた、王太子の愛馬も、打倒されてしまった。

 人間用の防具と違って、馬用の防具はそれほど発展していなかった。

 魔境やダンジョンで手に入るアイテムも、人間用しかなかった。

 王太子は敵の攻撃を防ぎ切れたが、愛馬までは守り切れなかった。

 剣で払いきれなかった敵の打撃力は、フルアーマープレートとチェインメイルが防いでくれた。

 魔族の憑依は、護符が護ってくれた。

 魔法による攻撃は、フルアーマープレート、チェインメイル、鎧下絹着が防いでくれた。

 疲労や体力の低下は、多くの護符が回復させてくれた。

 完全装備をした王太子は、永遠に戦えるかと思われた。

 だが、フルアーマープレート、チェインメイル、鎧下絹着、護符に蓄えられた魔力も無尽蔵ではなかった。

 魔族の罠に嵌められなければ、十分に余裕のある魔力だった。

 憑依型・支配型・ネクロマンサー型の魔族が、協力していなければ、ここまで追い詰められることはなかった。

 味方が少数だったなら、魔力は尽きる前に、魔族に操られた味方と魔族を全滅させて、単騎でベンかアレクサンダーの所に逃げることが出来ただろう。

 だが今回は、王国でも腕の立つ騎士が一万五千騎も護衛に就いていた。

 一斉ではないが、その全てが敵に回ったのだ。

 しかも、生きている時だけではなく、死んでからも襲い掛かってきた。

 憑依されたし、支配する前に殺し合ってくれたから、倍の三万騎を相手にしたわけではない。

 だが、傭兵や冒険者、王都の住民まで加えれば、三万回殺さなければいけなかった。

 いや、アンデットになっているから、殺す事が出来ず、身体を破壊して動けなくする必要があった。

 四万回五万回も、連続して戦闘することになり、王太子は精魂尽き果ててしまった。

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