第88話戦後処理

「治癒」

「ありがとうございます」

 爺の助言に従い、負傷した騎士達を治療した。

 質の悪い騎士が排除された王都騎士団は、素直に感謝してくれた。

 腕や脚を失ったり、視力を失ったりした騎士は、元通りに完全治癒した事に驚き、とても感謝してくれた。

 内臓が飛び出すような重傷だった騎士は、死を覚悟していたのに完全治癒したので、神を崇めるように感謝してくれた。

 余がこれほど高度な治癒魔法を使えるとは、王都騎士団の誰も知らなかったようだ。

 まあこれは仕方がない事で、将来王太子殿下の近衛騎士団員になる可能性のある王都騎士団は、王太子以外の王子を下に見る傾向にある。

 表で露骨に態度に表せば、王族の力で処分されてしまうから、裏で噂する程度だ。

 だがその裏の噂が、結構辛辣だったりする。

 それが真実なら仕方がないのだが、権力闘争に一環でいわれのない誹謗中傷だったりもする。

 まあ俺のような十六男だと、王位継承の可能性などないから、噂すらされる事などない。

 四万騎の治療が終わった後で、念のためエステ王国軍の陣跡を調査してみた。

 だが残念ながら、圧倒的な火炎魔法を何度も何度も叩きつけたので、焼け野原しかなかった。

 人間はもちろん、魔族の遺体も残っていなかった。

 分かっていたことだが、一人の戦死者も出さないために、少々遣り過ぎてしまった。

 捕虜を確保するのなら、味方から戦死者が出るのを覚悟で、手加減すべきだった。

 ここでは何の手掛かりも得られないと判断し、エステ王国軍の侵攻路を逆にたどることにした。

 エステ王国軍が占領した城や街なら、魔族やエステ王国軍将兵が残っていると思ったのだ。

 だが、その願いはかなえられなかった。

 エステ王国軍が侵攻した町や村は、猫の子一匹いない死の町死の村になっていた。

「爺、これは儀式魔法の後だな」

「はい。恐らくは魔族を召喚する為の魔法陣だと思われます」

「エステ王国軍は、我が国の民を生贄にして、更に魔族を呼び出そうとしていたのだな」

「恐らくはそうだと思われます」

「エステ王国内では、今でも民を犠牲にして魔族を呼び出しているのだろうか?」

「それは分かりません」

「そうだな。無暗に自国の民を生贄にしたら、生産力が低下してしまうからな」

「はい。ですが、多くの子を産ませて、産まれて直ぐの赤子を生贄にしたら、生産力も食糧もそれほど失うことなく、魔族を召喚できると思われます」

「本当にそんな残虐な事をするだろうか?」

「我が国の貴族士族の中にも、そのような下劣な者がおりました」

「ボニオン公爵一派だな」

「エステ王国にもいて当然だと思われます」

「やりたくはないが、エステ王国に攻め込んで、民を解放してやるべきだろうが?」

「殿下の御心のままに」

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