第80話出陣

 ベン男爵は大将軍に任命され、王都四個騎士団を率いて出陣した。

 決闘騒動を一日で終結させ、王都に蔓延る卑怯者と臆病者を一掃したのだ。

 もしこの状態で王都が大軍に包囲されてしまったら、有力貴族や重臣達、騎士団の幹部から寝返る者が出た可能性があった。

 討って出て城外で敵と対峙したとしても、愚かな命令を発する騎士団長や、命令に従わず戦わない騎士団があっただろう。

 いや、中には戦線を崩壊させる、敵前逃亡を図る騎士団長や騎士団幹部がいたかもしれない。

 それどころか、金や地位に眼がくらみ、敵に寝返って味方に攻撃を仕掛ける騎士団さえあったかもしれない。

 だがそんな者達は、ベン男爵が皆殺しにした。

 中には命乞いする者もいたが、国難において中途半端な処置は許されない。

 情けをかけたために敵に乗じられ、命を助けた者に後ろから襲われたとしても、自分だけが死ぬのなら自己責任で済む。

 だが騎士や国王がそんな事をすれば、領民や国民は塗炭の苦しみに喘ぐことになる。

 殺されるだけなら、まだましかもしれない。

 奴隷落とされ、死にたくても死なせてもらえず、汚辱に満ちた生を送ることになる。

 人間としても尊厳を奪われ、子々孫々そんな生活を強いられるのだ。

 護るべき民を、自らの虚栄心や憐憫の情でそんな目にあわすわけにはいかない。 

 だから当主だけではなく、不正や縁故で利益を得ていた一族一門や、その家臣も皆殺しにした。

 それだけの大掃除をした後で、エステ王国軍に向かっていった。

「思い切った事をされましたね」

「アレクがいいきっかけを作ってくれたからな」

「はい。王国内に蔓延る汚濁は、少々の事では拭えるモノではありませんでした」

「ああ、一番の難敵をアレクが滅ぼしてくれたから、後は小者とは言わぬが、中くらいの者ばかりだったからな」

「出来れば私の代にまで時間をかけて、徐々に穏便に変革したかったのですが、三ヵ国も共同して攻め込んできてしまっては、そう言っておられませんでした。父上には御負担をお掛けして申し訳ありません」

「いや、余の方こそ、王家王国を綺麗に掃除して御前に渡してやれないと、申し訳なく思っていたのだ」

「有難い事でございます」

「だが国内の掃除は粗方終わった」

「はい」

「残っているのは小者ばかりだ」

「はい。エステ王国軍を国外に追い出しさえできれば、戦後処理で不穏な貴族士族は全て滅ぼせます」

「ベンが勝ってくれれば何の問題もないのだが」

「今回のエステ王国の攻勢は、常識を逸脱した魔法を使ってきております」

「ドラゴン魔境騎士団が、イーゼム王国に侵攻した虚を突いているのも気になります」

「うむ。ドラゴン魔境に残った騎士団にも動員準備をさせる」

「サウスボニオン魔境をアレクサンダーに与え、派遣していたドラゴン魔境騎士団幹部を引き上げさせましょう」

「そうだな」

「それと王都魔境とドラゴン魔境、アゼス魔境を冒険者に解放して、新たな魔境騎士団を設立してはどうでしょうか?」

「そうだな。だが王都魔境は臨時だと最初から明言しておくべきだ」

「はい。そのように布告したします」

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