第25話リントヴルム2

 身体強化されたロジャーの動きはリントヴルムを翻弄した。

 全長三十メートルを超えるリントヴルムは、小さなロジャーを動きについて行けない。

 リントヴルムは急いで口に咥えているブラッディベアーを呑み込み、ロジャーをその牙にかけようとした。

 だが頭だけではロジャーの動きを追う事が出来ず、両手に掴んだブラッディベアーを落として両手を自由にしようとした。

 だがロジャーはその前に加速した。

 そう、リントヴルムを翻弄した動きはまだ全力ではなかったのだ!

 少々考えなしの所はあるが、その身体能力は王国内でも稀有な存在なのだ。

 リントヴルムが両腕でロジャーを迎え討つ前に、右側を駆け抜けた。

 並みの騎士や冒険者では決してロジャーの動きを目視出来ないだろう。

 だが余達には、ロジャーがリントヴルムの横を駆け抜ける時に剣を振るい、左腕を斬り飛ばすのが見えていた。

 ロジャーの切り飛ばしたリントヴルムの左腕は、三十メートルの全長に相応しく巨大なので、ロジャーの魔法袋に治まる容量ではない。

 だから風魔法で余の方に引き寄せて、余の魔法袋に保管した。

 そんな事はいちいち事前に打ち合わせる必要がないくらい、王都魔境や王都ダンジョンで繰り返し実戦訓練を重ねている。

 ロジャーに翻弄されたリントヴルムは、左腕を斬り飛ばされた激痛で身体を震わせながら、それでもロジャーを襲おうと左に身体をひねったその時、パトリックに右腕を斬り飛ばされた。

 左側を駆け抜けたパトリックも、一撃でリントヴルムの右腕を斬り飛ばすほどの剣技持っている。

 いや、ロジャーよりも一枚も二枚も上手なのだ。

 そしてパトリックが斬り落としたリントヴルムの右腕も余の魔法袋に収納する。

 だが余もリントヴルムの牙を斬り落とすべく駆けている。

 目は両腕を斬り落とされてのたうち回るリントヴルムの動きを見逃さない。

 余を喰い殺すための擬態ではないか?

 本当にこのまま斬り込んで大丈夫なのか、見続けながら風魔法でリントヴルムの右腕を確保したのだ。

 いや、腕だけではなく、吹き出す血液も魔法袋に収納する。

 リントヴルムの血液は、精力剤・回復剤・治癒剤・毒薬・魔道具加工剤など色々と使い道があり、高価に売買されるのだ。

 前回爺達がリントヴルムを狩ってから三十年以上経っているから、もう市場にリントヴルムの血液で作られた商品は売られていない。

 もしどこかの困窮した貴族や商家が、家宝のリントヴルム血液剤を売りに出したとしたら、その売価は白銀と同等だっただろう。

 そう、その重さと等しい白銀を得ることが出来るほど高さになるだろう。

 だからこのような危険な斬り込みの最中でも、魔法を使って回収するのだ。

 いや、冒険者は魔獣を狩って金を得るのが仕事なのだから、金にならない狩りなど無意味なのだ。

 まあ、余は純粋な冒険者ではないが、魔境やダンジョンで資金を得て家を興そうとしているのだから、単に魔獣を狩るのではなく、金になる狩り方をしなければいけない。

 今は公爵家の野望を打ち砕き、拉致された村人達を助けることが最優先ではあるが、資金稼ぎが出来る機会を見逃す気もない。

 痛みにのたうち回るリントヴルムの姿に嘘はないと確信した余は、回収作業を行いながらリントヴルムの咢に近付き、宝剣を二度振るってリントヴルムの上顎と下顎を斬り飛ばし、魔法袋に収納した。

 今回は自分で自分の間近に斬り飛ばしたので、即座に魔法袋に収納することが出来た。

 もちろん吹き出す血液も魔法袋に収納する。

 冷静に観察する者がいれば、リントヴルムの両腕と口元から噴き出る血液が、流れるように余の魔法袋に収納されているのが見えるだろう。

 リントヴルムは更なる激痛にのたうち回り、魔樹の大木をへし折っている。

 飛び散る魔樹が女冒険者達を傷つけないか心配で、リントヴルムから安全な距離まで離れてから確認したが、最初に十分安全な距離をとって迎え討ったので、同じ場所に呆然と立ち尽くしている。

 最後に爺が斬り付けたのだが、爺の攻撃にも情け容赦がない。

 リントヴルムの生命力と回復力は想像を絶するほどのモノなので、腕や牙を斬り落とそうとある程度の時間があれば再生してしまう。

 まして鱗や皮などなら、体力に余裕がある場合は数分で再生してしまう。

 魔獣を斃すと言う事は、再生出来ない急所を一撃で破壊してしまうか、再生する余力がなくなるほど何度も何十度も、いや、何百何千も攻撃を加え続ける事なのだ。

 だから爺は、余達のように一撃で駆け抜けると言う攻撃ではなく、その場に踏みとどまって何度も何度もリントヴルムの鱗と皮を斬り取る残虐なものだった。

 まあ斬り取られた鱗や皮を収納しているのは余だから、余も残虐な行為を加担していのだが、とてつもなく高価な素材だから仕方がない。

 余が斬り取った牙と、パトリックとロジャーが斬り取った腕についている爪は、余の家臣に貸与する魔剣の材料になるだろう。

 リントヴルムの牙や爪を刃金に使った魔剣が完成すれば、余の家臣団の戦闘力は飛躍的に上昇する。

 キングベアの時のように、繰り返しリントヴルムの牙と爪を回収することが出来れば、装備だけはドラゴンダンジョン騎士団に匹敵する家臣団を創設できるだろう。

 もちろん防具もリントヴルムの素材で創り上げる。

 支柱にリントヴルムの前腕の骨を使い、そこに加工したリントヴルムの革を張り、その上にリントヴルムの鱗を重ね張りしたリントヴルムスケイルアーマーとリントヴルムシールドは、ドラゴンダンジョン騎士団でも全員が装備していないと思う。

 余達はリントヴルムが逃げ出すまで、三十メートルの巨大な全身を十度丸裸にするくらい鱗と皮を斬り取った。

 流石のリントヴルムも、逃げ出すころには半死半生だった。

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