第九章 ゲーム
「あ、おはよ…」
俺は朝早くに温泉を訪ねていた。
何か心配になったのだ、もしかしてキタキツネが変になってしまっているんじゃないかと。
「おはようございますカンタさん!今日は早いですね、仕事、大丈夫なんですか?」
「あ、あー仕事?今日は午後からだからね…あとさ、キタキツネ、いる?」
「はい!あ、私お茶出しますね!」
「お、あざす」
靴は横の棚に投げ入れ、廊下を冷えた足で歩いていく。
「キタキツネー、いるかー?」
いつも微睡んでいるはずのあの部屋にはいなかった。
その他の思い当たる部屋を探してみるが、どこにも彼女の影はない。もしかして風呂か?
「キタキツネー…キタ…」
通りがかった廊下のゲームコーナーの前に、キタキツネは座っていた。
ゲーム台はディスプレイが破れている。
「キタキツネ?!」
「…あ、カンタか、おはよう。今日は早いね、何しに来たの?」
「何しに来たのって…キタキツネが昨日あんなこと言ってたから大丈夫かなって…てかそのゲーム台どうしたんだよ…破片で怪我してないか?」
カンタはキタキツネの手を取る。
刹那、キタキツネの耳と尻尾がビンと伸びて、髪が風を受けたようにめくれあがった。
「ど、どうした?!」
突然ポロポロとキタキツネが涙を流し始める。
「あ、ご、ごめん!俺に触られるの嫌だよな!本当にごめん!キモいことして」
キタキツネは首を横に振る。
「違うよ…違くて…何…これ…」
キタキツネは涙を流し続ける。
えずく事もなく、ただ涙だけが止まらないのだ。
カンタばどうする事も出来ず、ただオロオロするしかなかった。
「お、落ち着いた?」
「うん、ごめんね?いきなり泣いたりして…おかしいなぁ…早起きしたからとか?」
「何時に起きたの?」
「にじ」
「早すぎ」
こたつを囲んでいると、アカギツネがふすまを開けて入ってきた。
「お茶ですよ〜はい」
「ありがとう」
茶柱が一本立っている。
何かいいことがありそうだ。
「見て!茶柱!」
「それ人に見せると効果ないんですよね」
元気なくなった。
「にしても、なんでキタキツネはゲームコーナーにいたの?」
「あれ、げぇむ、って言うの?」
「あぁ、ギンギツネさんが『誰も使わないし電気の無駄だから』って止めてたんですよ」
「げぇむねぇ…」
キタキツネは何かをそっと思い出そうとするかのように口元に手を当てる。
「で、カンタはこの後どうすんの?」
「え。いや午後から仕事だからな…」
「ご飯食べて行きます?早めに用意しますから!」
「マジで?!助かる」
アカギツネはエプロンを身につけて出ていった。
キタキツネと二人きりになり、微妙な時間が流れる。
「…ねぇ、げぇむってどうやるの?」
おもむろにキタキツネが口を開いた。
「え?…ぶっ壊れてたけど…まだ台はあったしコンセント繋げとけば動くかもな」
そういや前のキタキツネがゲームにハマったのも、あのコーナーの古い鉄拳のせいだったな…
それでバグが起きるとよく俺が直したな…斜め25度で叩くと大体のエラーが直るという謎の技術が身についた。
「よし、ちょっと使えるか見てみるか」
廊下を歩くと、後ろからキタキツネがトコトコとついてくる。かわいい。
前のも可愛かったなぁ…最初は。
このキタキツネもゲーム廃人にしてしまわないように程々にしなければならんな…
コンセントを突き刺してみるが電気が付かなかったので、斜め25度でぶん殴る。よし。
「すごい…ついた」
「テクがあるんだよなぁ…」
「カンタ、どうやるか教えて」
BGMが流れ始め、画面に炎が出る。
「ここのボタンを押すとさ…」
「ふぇぇ、コレ難しいよぉ…」
懐かしい。
ずっと前に一緒にやったなぁ…
俺がずっと勝って、それが悔しくてアイツは猛練習したんだっけ…最後には勝てなくなったしな。
ただただ、あの日が懐かしい。
「オラっ!これでもくらえ!」
「ひゃぁっ!ビリビリして…動けない!」
「このままハメてやるよ!」
「い、いやぁっ!出さないでぇっ!」
アカギツネが何を食べたいか部屋に戻る途中、廊下から何やら如何わしい会話が聞こえてくる。
キタキツネとカンタの声だ…
ま、まさか!カンタがキタキツネに手を…
「や、やめなさいカンタぁぁぁっ!」
『昇龍拳!!KO!!』
「ウッ…必殺技出さないでって言ったのにぃ…」
「だって負けそうだったからつい…」
このえちえちテンプレート、使いやすいです。
なんだ…ゲームか…
「はぁ、変な声出さないでくださいよ…てっきり私は…」
「「てっきり?」」
「なんでもないです!ところで、何か食べたいものとかありますか?」
分かるぞ。分かる。
こういうお昼はうどんに限るよな。
だが気になって仕方ないんだが、なんで…
「たぬきうどんなのかよ…」
「何か問題でも?」
「いや…きつねうどんだろそこは…」
ずるずるとキタキツネがうどんをすする。
まだ10時くらいだし、時間はあるだろ。
「そういやギンギツネは?」
「うーん、今日は見かけてないんですけどね…」
キタキツネが一瞬、箸を休めるのを見た。
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