少年漫画の主人公になったが俺の未来が暗い

キウメブンシン

五歳篇

第1話 ごく普通の大学生あらため少年漫画の主人公です

「ねえコール、何見てるの?」読んでいた本のページを子供らしいもちもちした手でおさえつけられる。

「姉さんたちに貸してもらった魔法学教科書だよ、そんな乱暴に押さえつけるなよアルバス、ページにシワがつくかもしれないだろ」

アルバスと俺に呼ばれた幼い子供は盛大にため息をついた。

「コールってば本当に子供らしくないよね 、今は遊びの時間だろ?なのにまた勉強の本を読んでるの?そんなに本ばっかり読んでると頭でっかちになるよ~」

「まあまあ、いいじゃないの」アルバスの頭にぽすんと手が置かれる「コールはきっと学問の使徒アルト様のご加護を受けているのよ、将来は偉い学者様になるかもよ?」

「ヴィオラ姉さん」少し年長の少女の名を呼ぶと今度は俺の方に手が伸びわしゃわしゃ撫でられる

「でも確かにコールは子供らしくないわね、アルバスみたいに悪さばっかりしないのはいいけどもっとやんちゃでもいいんじゃない?」

「悪さばっかりってどういう意味だよー」アルバスが頰を膨らます

「この前ヒキガエルを引き出しに入れて家庭教師を引っくりかえらせたのは誰だっけ?私聞いたんだからね」「わ、わざとじゃないもん!でっかいヒキガエルだったから後でカレンに見せようととりあえず中に入れておいただけなのにあいつが勝手に引き出し開けちゃうから」

「でかいじゃなくて大きい、でしょう、それに先生をあいつなんて呼んじゃダメよ!」少女が母親のように腰に手を当てていたずら者の弟を叱る


話の焦点が俺から外れた隙に少し自己紹介をしようと思う

俺の名前は炭井流斗(すみい りゅうと)、20歳、大学生。身長175cm、B型、さそり座。

ごく普通の家庭に育ちまずまずの大学に入りバラ色のキャンパスライフとまではいかないがそこで出会った友達と遊んだりほどほどに勉学に励んだりのまあ悪くない大学生活を送っていた。そんなある日大学の友達との飲み会から帰るといきなり吐き気に襲われた。なんか体が痺れる、やばいそんなに飲んだっけ救急車呼ばなきゃと思いポケットを探るが携帯が見つからない、助けを呼ぼうとアパートの外に飛び出したら意識がすうっと遠のいて地面にぶっ倒れてしまう、最後に見たのは袖からカサカサ出て行く八本足の生き物:通称蜘蛛。そして俺は死んでしまった。普通に都会に暮らしていて死因が蜘蛛によるとは予想していなかった。詳しくは覚えてないが日本で毒蜘蛛による死ぬ確率って相当低くなかったか……?

そして次に目を覚ました時には俺の体は縮んでいた。別に某APTX4869のせいではなくネット小説でよく見る異世界転生ってやつだ。

という訳でさっき俺が言ったプロフィール、全て前世の情報なので今の俺とは無関係です、すみません。

今の俺とはいうと剣と魔法のすごいファンタジーな世界の辺境伯の家に生まれた。バリバリ貴族です、ノーブルメンです。随分人生勝ち組のようだがそうでもない。なぜかというと俺の今の名前、コールは生前愛読していた少年誌で連載されていた「黒龍レジェンド」という漫画の主人公に名前と同じでおまけに見た目もその主人公にそっくりなのだ。なおかつ世界観の設定も宗教や魔法の設定もあの漫画そのものだったので俺が「黒龍レジェンド」の主人公に転生したというのはほぼ間違いない。で、仮にも少年マンガの主人公、世の少年少女の憧れの的、なんで彼に転生したらまずいかというとこのコールという主人公かなりハードなバックグラウンドを持っていてる。まず生まれてすぐに母を失い数年後父を暗殺される、物語の始まりには長兄も殺されている、漫画の通り話が進めば俺は16歳で兄を殺されて謎の組織に命を狙われて逃げ回る超ハードな人生を送ることになる。

だから3歳のころ父親の葬式で前世の記憶を取り戻した時、俺はショックをうけつつこれからの人生を乗り越えるためにいくつかの誓いを立てた

1、酒は嗜む程度、決して携帯が見つからなくなるほど酔っ払はない

2、蜘蛛には気をつける

3、15までに自立して長兄が殺されるのを阻止できるように鍛える

というわけで未来の為に多少は遊び時間を犠牲にして自分を高めるため勉強や鍛錬に勤しませてもらっている。とはいえ今の俺はまだ5歳、本来なら遊びたい盛りの子供が自分から進んで勉強する姿は周囲に異様に映るようで、俺はかなり変わり者扱いされている。ついたあだ名は「本の虫コール」

まあ仕方がないことだ、全ては明るい未来のために。


「お坊ちゃま方、そろそろお屋敷に戻りましょう、お食事の時間になりますよ。」メイドのカレンが木陰でじゃれあう僕らに声をかけてきた。

「ごはんだ!わーい!」アルバスは歓声を上げカレンの片腕に飛びつく。

「コールおぼっちゃまも」そう言って俺の手も繋いだカレンはヴィオラに一礼する。

「お邪魔してすみません、お嬢様。」

「じゃあね、姉さん」

「また今度会いましょう」俺とアルバスも挨拶をする。

「またね、二人とも。アルバスはあんまりやんちゃしないようにね!」

ここで姉さんとはお別れだ。残念ながら僕達幼児は他の家族たちより食事の時間も就寝の時間も早いので姉さんより先に家に帰らないといけないのだ。


漫画の話に戻ろう。


「黒龍レジェンド」という漫画は俺が愛読する週刊少年誌で(俺の死ぬ前の)数ヶ月ほど前から連載され始めた漫画だ、内容としては剣と魔法のファンタジーの世界で竜と共存して暮らすとある大国の辺境伯家に生まれたノクス・ドラコ・モンタギュー(幼名コール)という少年が主人公で彼はこの世界では珍しい黒髪黒目、その国の伝説上有名な黒の竜騎士と同じ姿ということで生まれ変わりのようだと英雄と同じ名前をつけられ周囲に期待されて育つ。ある日突然国の占い師が黒髪黒目の者が国に災いをもたらすという予言をする、国中の黒髪黒目の人が迫害されそして主人公も過激派組織に家を襲撃され彼の兄は死んでしまう、主人公は身の潔白を証明するため伝説上の全ての災いを断ち切る剣を求め危険な禁地と呼ばれる土地への旅に出る。

正直言って少年誌に体裁するには初っ端から重いし、余計な中二設定も多いし(主人公を貴族に設定する意味も兄を殺す意味もないといった感想が多かった)そのうち打ち切りにされるんじゃないかと思いながら毎週パラパラと流し読んでいた、今感想となっては他人事ではないのでもっと真面目に読んでおけば良かったと後悔している……


何はともあれ今俺に出来るのは地道に力をつけて願わくば襲撃される前に伝説の剣を見つける事だ。


「あー、コールってばまた顰めっ面してる!」そう言って、アルバスがビシッと俺を指差す。

「いかがなさいましたか?コールお坊ちゃま、お食事が口に合いませんでしたか?」カレンが心配そうに俺の顔を伺う。

「あ、大丈夫だよカレン、ちょっと考えごとをしていて……」

「お食事中は食べる事に集中すべきですよ、コール様。アルバス様も人を指さすのはお行儀が悪いですよ」すかさず出てくるのは教育係のホーン夫人。そう、俺は今貴族なので昼ごはん一つとるのにもメイドや乳母、教育係に見守られてのことだ。前世からすると人に見られての食事は居心地が悪いものだがいい加減に慣れてきた。

「すみません、以後気をつけます」

「うへえ、わかったよー」アルバスは大げさに肩をすくめると俺を恨めしそうに見る、叱られたのは俺のせいだと言いたいのだろうか


アルバスはコールの双子の兄弟、漫画の中では名前の出なかったキャラだ。

他の姉たちや両親も主人公回想で描写されただけで名前は出てこなかったので漫画上重要キャラじゃなかったのだろう。(それか出番がまだか)

ちなみに俺とアルバスどちらが兄かというとそれはまだ決まっておらず、この国の風習的に双子は7歳になってからどちらが年上か占いで決めるらしい。ちなみに決まっていないのはこれだけではなく、正式名も7歳になってから決まる。今使われているコールという名前もアルバスという名前も幼名で正式名が決まるまでの仮名だ。

(親子や兄弟同士の間柄では一般的には正式名が決まっても幼名で呼び合うらしい)

この風習は恐らくこの世界の文明レベルが恐らく地球でいう19世紀レベルのせいだ、鉄道はあるらしいが人々の移動は馬車だし医療レベルもまだ低く子供の夭折も多い、魔法で病気が治せることもあるがそう簡単にできることではないらしい、一般的な治癒魔法はせいぜい外傷を治すぐらいだと本で読んだ。

まあ日本でも昔は七つまでは神の子って言われてたもんな。

7歳を超してからようやく安心して正式名をつけれるってわけだ。


夕食後俺達は濡らした布で体をきれいにしてもらったり、寝間着に着替えさせてもらったりして前世では漫画でしか見た事がないふかふかの天蓋ベッドにアルバスと横になる。まだ七時だが子供のバッテリー容量を考えるとそろそろ寝なくてはいけない。

マットレスはものすごいふかふかで幼児の軽い体重でもズブズブ沈み込んでいく。前にメイドのカレンに材質はなにかと聞くと「おぼっちゃまたちのために精霊たちが空の雲を集めて詰めたのですよ」と答えられたが絶対に嘘だ。

乳母のルシールに従い俺たちはお祈りをし、その後彼女からしばらく本を読みきかせてもらう。最初は落ち着きなくゴソゴソしていたアルバスもやがて静かになり、俺も目を閉じたのを見届けルシールは明かりを消して子ども部屋を出たようだ。


「んん~」アルバスが寝返りを打つ。足を蹴られたので目を開けると彼の顔に銀髪がへばりついているのが見える、俺は手を伸ばしその子猫のようにふわふわした髪をそっと払う。

前世での兄弟は妹一人だけだった俺はこの世界では随分兄弟が増えた。

モンタギュー家の子供は五人いて長兄のセルレアン・アクア・モンタギュー(幼名ブルーノ)は俺たちの父親が早くに亡くなったためまだ18歳ながらにすでに辺境伯だ。忙しい彼には普段はなかなか会えない。外見は肖像画で見た若い頃の父そっくりで真っ直ぐな褐色の髪とアイスブルーの目の少し厳しそうな長身のイケメンだ。

次に長姉スカーレット・イグニス・モンタギュー(幼名ルビー)13歳。赤みがかったふわふわの栗毛とまんまるい青い瞳、テディベアを人間にしたような人懐っこい見た目に反し人付き合いが苦手で物静かな人だ。俺の前に家族に本の虫と呼ばれていた人でかなりの読書家だ。

次姉ライラック・アエル・モンタギュー(幼名ヴィオラ)11歳。見た目はルビー姉さんとよく似ているけど、もう少し勝ち気にした感じだ。性格も長女とは真反対で活発でポジティブだ。瞳は母親譲りの紫、彼女の性格も母親譲りらしい。

本当はブルーノ兄さんとルビー姉さんの間にもう一人兄がいたらしいが俺が生まれる前にすでに亡くなっている。つくづく故人が多い家族構成である。


最後に双子の兄弟のアルバス、5歳。兄弟の中で唯一亡くなった母親に似た銀髪に赤みがかった紫の瞳が神秘的でバッサバッサ長い睫毛も銀色、肌は透き通るように白く頰はほんのりピンクとまるで天使のような見た目だが中身はただの生意気なクソガキだ。外見詐欺も甚だしいトラブルメーカーなのでこいつといると日常に喧騒が絶えない。


ちなみに俺の見た目とはいうと少年マンガ主人公らしい癖が強い黒髪に黒目、兄弟たちと比べると地味な見た目だがこの世界ではかなり珍しがられる。まるで伝説上の竜騎士様のようだ!とよく褒められるが将来この見た目で迫害されるのを知っているのであまり喜べない。


いっそ染めるか?いやでも周りにどうやって説明したら染めさせてもらえるのだろうか。そもそも黒髪黒目の子供が生まれたことは結構な奇聞だろうから既にいろんな人達に知られているだろうしな。。。

そんなこと考えているうちに眠りの波にゆっくりと運ばれていった。


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