第26話 一泊だけの新婚旅行

式と会食が終わってから、ゆっくり都心のホテルに一泊しても良かったが、僕は都心から遠く離れたところに泊まることにこだわった。二人で都会の現実と離れたかった。奈緒も反対しなかった。


6時少し前にはホテルに到着した。部屋は和室のスイートルームで温泉かけ流しのお風呂がついている。寝室には布団が敷いてある。二人がその気になればすぐにそこへ行って愛し合えるようになっている。


部屋に着くとすぐに夕食の準備が始まった。お腹が空いているのでそのまま食事をすることにした。今度は二人だけの食事だ。二人でゆっくり食べたい。


でも二人になると話がはずまない。何となくぎこちない。美味しい料理だ。奈緒は黙ってビールを注いでくれる。僕は奈緒の顔を見ながら食べている。僕が微笑むと奈緒も微笑んでくれる。奈緒にもビールを注いであげる。奈緒もビールを飲みながら食べている。ときどき僕の顔をじっと見ている。


お昼の会食よりも時間をかけて味わって食べることができた。奈緒もそう言っていた。すっかりお腹が膨れて満足した。


食べきれなかった料理を仲居さんが片付けてくれている。二人はそれをソファーで見ている。


横にいる奈緒が緊張しているのが分かる。食事の時にビールを少し飲んで赤らんでいた頬から血の気が引いているみたいだ。


「お風呂に入ろうか?」


「えっ」


「一緒に入ろうなんて言わないから、先に入って」


「あなたの後でいいです」


「君が入っているところへ入っていったりしないから、心配しないでいいから」


「でも、後でいいです」


「じゃあ、先に入らせてもらうよ」


奈緒の様子は普通ではないと思った。それほど初心なのか? まあ、いい、なるようにしかならない。もう、式も挙げた。婚姻届けも提出されただろう。約束は反故になった。遠慮はもういらない。したいようにするだけだ。


僕が先にお風呂から上がるとすぐに奈緒はお風呂に入った。長風呂だけど大丈夫かなと思ったころに上がってきた。肩まである髪を後ろに纏めてアップにして止めている。ピンクの花柄の浴衣に白いうなじが色っぽい。顔を見ると相変わらず緊張した顔つきだ。食事のあとはもう奈緒の方から話しかけてこなかった。


浴衣に着替えた僕はソファーに座ってボトルの水で喉を潤していた。ソファーへ手招きするとゆっくりこっちへ来た。


新しい水のボトルのキャップを回して開けてから手渡した。奈緒は笑みを作ってそれを受け取ると僕の隣りに座った。一口飲んで、もう一口飲んだ。


「私のこと、もう君と言わないで奈緒と呼んで下さい」


「分かった。じゃあ、僕のことも健二と呼んでくれればいい、まあ、健さんでも健ちゃんでもいいけどね」


「いえ、あなたのままでもいいですか? その方が言いやすいです。でも健二さんと呼ぶかもしれません。まだ、そういう感覚が分からなくて」


「いいけど、言いやすいので構わない」


肩が触れた。奈緒の身体はガチガチだ。ボトルをテーブルに置いたので、肩を抱き寄せてキスをすると同時に両腕に抱き上げた。奈緒は驚いて身体を縮めたが抵抗はしなかった。そのまま、寝室へ奈緒を運ぶ。


奈緒の背は低くはない。丁度僕の目の高さくらいだ。でも抱き上げてみると意外と軽い。まあ、今まで女の子を抱き上げたことはなかった。あの抱き締めた時も思ったが華奢な身体付きだ。


布団に座らせた奈緒は僕を見つめていた。その視線を避けるように僕は奈緒に後ろから触れていく。奈緒は下着をつけていなかった。


淡白な娘だと思っていたが、固くした奈緒の身体はどこに触れても敏感にピクピクと反応した。あそこはもうぐっしょり濡れていた。奈緒は「恥ずかしい」と言って身をすくめた。


◆ ◆ ◆

奈緒は痛がっていたが、なんとか僕のものにすることができた。少しだけど出血をしているのに気が付いた。奈緒が辛そうなのでこれ以上続けることができなくなって、「これでおしまい」と言ってぎゅっと抱き締めた。


安堵の静かな時間が過ぎていく。かすかな吐息が聞こえるだけだ。腕の中に抱き締めている奈緒は顔を僕の胸に伏せてあげようとしない。


「大丈夫?」


「はい、でも恥ずかしい」


「顔をあげて」


そういうとようやく顔をあげて僕を見た。本当に恥ずかしがっている。つい意地悪を言ってみたくなる。


「すごく敏感なんだね」


「恥ずかしい。淫らな女と思わないで下さい」


「淫らだなんて思わない。ただ、敏感で感じやすいだけだから、感じない娘よりよっぽどいい」


奈緒が身体に触られるのを嫌がっていた理由がようやく分かった。それを自覚していたんだ。


「とても感じやすい体質だと言ってくれればよかったのに」


「そんなこと言える訳ありません」


「確かにそれもそうだね。誤解を与えかねない」


「君があれだけ潔癖だったのが分かった」


「こんな身体が恥ずかしくて。淫らな女だと思われて好きな人に逃げられたくなかったのです」


「それで式の後すぐに入籍を頼んだのか」


「すみません。その方が良いと思って」


「それだけ僕を好きになっていてくれたんだね、ありがとう」


「男は敏感な女の子が好きなものだ。考え過ぎだ」


「すごく経験があると思われるのがいやだから」


「経験はなかったんだろう?」


「どう思われますか?」


「どうって、演技しているとは思えなかった」


「そう思っていただけて嬉しいです」


僕も性格が悪い。恥ずかしがっている奈緒に意地悪な質問をしたくなった。


「オナニーはしていたんだろう」


奈緒は黙ってしまった。


「どうなの? 恥ずかしがらないで答えてくれる?」


「小学4年生の時に偶然あそこに触れると気持ちいいことが分かって」


「病みつきになった?」


「どんどんエスカレートして、その快感に溺れてしまいました」


「潔癖だったのは、その裏返し?」


「そうかもしれません。私は淫らだという罪悪感がありましたから」


「それを聞いてすべて納得がいった。そんなことはもう気にしなくていいから」


僕はまた奈緒を抱きたくなった。抱き締めると身体を固くしたがすぐに力を抜いた。奈緒はより敏感になっていた。何度も何度も上り詰めた。そして二人は果てた。


疲れたのだろう。奈緒はすぐに僕の腕の中でぐったりと死んだように眠った。僕はそのまま奈緒を抱き締めている。寝顔は安らかだ。安心して眠っている。


こんな敏感な娘は初めてだった。いや、二人目だった。奈菜に出会う前にそんな娘に当たったことがあった。


彼女はとても感じやすくて何度も上り詰めた。僕はこんなにも上手だったのかと思わせてくれる娘だった。もしこれが演技ではなかったらまさにこの仕事は彼女にとって天職と言っても良いだろうと思った。


次に行ったときに指名したが、やはり同じだった。すっかり気に入って次も指名したが、辞めていなくなっていた。そのまま居たらずっと通っていたと思う。すごく心残りだったのを思い出した。


あの奈菜はどうしてなのか一度もいかなかった。体質の違いなのか、気持ちの持ち方が違うのか、よく分からない。きっと体質の方だと思う。これは喜ぶべきことだ。


◆ ◆ ◆

僕も疲れていたのだと思う。熟睡した。それで朝、奈緒が布団から出て行くのに気付かなかった。お風呂から上がってきた物音で目が覚めた。腕の中に奈緒がいないのが残念だった。朝も抱き合って目覚めたかった。


奈緒は僕が寝ている布団のところへやってきた。昨夜とは顔つきが全く変わって穏やかで、もっと綺麗になっていて、僕を見る目も違っていた。僕のことが本当に好きだ、そういう目だった。


その時、彼女が本当に僕のものになったと思った。ここで奈緒を押さえつけてもう一度と思ったが止めておいた。楽しみは少しずつにしよう。

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