第20話 何とか修復できた―すぐに両親を訪ねることにした!
呆然としていた僕はようやく気が付いた。これまでの過ちを繰りかえしてはいけない。やっと手に入れられそうになったのに、ここであきらめてはいけない。
でも一度できた不信感はなかなか払拭できなかった。すぐに奈緒の携帯に電話したが、出てくれない。当たり前だ。でも電話することを止めなかった。メールも入れてみるが、応答なし。何回も何回も電話する。出てくれない。
ストーカーの心境ってきっとこうなんだ。分かったような気がする。こんなに好きなのになぜ、僕を受け入れてくれないのだろう。
でも僕はストーカーにはならないと思っている。僕はストーカーとは違うと思っている。でもこれがきっとストーカーなのだろう。
違うとすればどこが違うのだろう。それは彼女に受け入れてもらえるか、もらえないかの違いしかない。受け入れてもらえればストーカーにはならない。
もし、警察に連絡されたら僕は間違いなくストーカーだ。そのときこそ諦めよう。それまでは電話を止めないでおこう。彼女の気持ちが変わることを期待しよう。
◆◆◆
僕は電話を入れ続けている。でも、夜は8時から10時までにして、朝はしない、昼休みは12時半から1時までにしている。自宅や会社へ行ったり待ち伏せはしない。ストーカーとはきっとここが違う。
3日目、水曜日の夜10時前になってようやく奈緒が電話に出てくれた。
「もう、電話をしないでください」
「約束を破った僕が悪かった。元のように付き合ってほしい」
「あなたが信じられなくなりました」
「もう一度会ってくれないか?」
「分かりました。指輪をお返ししなければなりませんから」
「それじゃあ、いつ」
「今度の土曜日、二子玉川、2時に、いつものところで」
「分かった。待っているから」
◆◆◆
土曜日が待ち遠しかった。何と言って謝れば良いか、それをずっと考えてきた。もう一度会ってくれると言うことは、まだ十分脈があると思っている。そうでなければ指輪は郵送で返せば済むことだ。
いつも奈緒が早く来ているので、今日はもっと早くに駅に着いた。でも奈緒はもう着いていて待っていてくれた。脈はあると確信した。
「待たせて御免」
「いえ、早く着いただけです。これを早くお返ししたくて」
「ここではなんだから、どこかで話そう」
「じゃあ、川べりを歩きながらお話しましょう」
それから川べりの遊歩道をゆっくり歩いた。
「これをお返しします。受け取って下さい」
奈緒は指輪のケースを僕に手渡した。
「どうしても?」
「お受けできません」
「約束を破ったことは謝る。どうしても抱き締めたくなったんだ。気持ちが制御できなかった。君のことは大切に思っている。大好きだから抱き締めたかった。それのどこが悪い?」
「約束を守ってくれませんでした」
「これからは絶対に守る。どうかまた付き合ってほしい」
「約束を守ってくれない方は信じられません」
「僕は約束を守らなかったけど、あの時君を放した。あの時その気になっていれば力ずくで君を僕のものにすることができた。でもしなかった。どうしてだと思う」
「どうしてなんですか」
「そうなったら、きっと君は僕から離れていくと確信したからだ。約束を守れない人と言って、そしてこうして二度とは会ってくれなかったと思う。僕はそれを恐れた。大切な君を失いたくない」
「そのとおりだと思います」
「君はこうして来てくれた。それに何回も何回も電話したけど、ストーカーだと警察にも届けなかった」
「そんなことをしたらあなたに迷惑がかかります」
「僕のことをまだ気にしてくれている。それなら許してくれないか?」
「でも信頼できない人とお付き合いできません」
「僕に好意を持ってくれたから、プロポ―ズを受けてくれたのではないのか? よく考えてのことではないのか? 僕が好きだと抱き締めただけで、君の好意と信頼は失われるのか?」
「一事が万事です」
「前に婚約していた人から身体を求められたと言っていたが、どんな状況だったの?」
「ほとんど同じです」
「彼と僕とはどう違うか分かるかい」
「どう違うのですか。あの時は私を力ずくでと思っていたのでしょう。抵抗されたからやめた。同じだと思います」
「そこは同じかもしれない。同性だから分かる。でもその後が違う。彼は君を諦めた。そして破談にした。彼は君に好きだと思われていると信じていた。でも拒絶された。おそらく君に失望したんだと思う。僕も大好きな君に拒絶されてショックだった。あの後、どうして僕の気持ちを分かってくれないのかと悲しかった。でも僕は諦めなかった。まるでストーカーのように何回も何回も電話した。僕は君が大好きで諦められなかったからだ。でも、もし君が警察に僕をストーカーだと訴えれば諦めようと思っていた」
「そんなことはできません。あなたの好意は分かっていましたから」
「それなら、許してくれないか? もう絶対にしないと誓うから」
「それならば、いいです。元のお友達でよければ、でも指輪はお返ししておきます」
「ありがとう。指輪は僕が預かっておくよ」
僕は奈緒の性格が理解できて来た。それに僕に好意を持っていることが確信できた。難しい娘だが、押せばなんとかなる。それであることを思いついた。だから指輪は受け取っておいた。
「これから君のご両親にお会いできないだろうか? 友達付き合いさせていただくご挨拶がしたい。その方が心置きなく友達付き合いできるから」
「必要ありません」
「どうして、ご両親にも約束しておきたいから、その方が君も安心だろう」
「どうしてもと言うのなら、そうして下さい。都合を聞いてみますから」
奈緒は遊歩道をそれて土手の方で電話をかけている。
「都合がいいと言っていますので、どうぞ」
すぐに駅へ向かった。奈緒が必要ないと言ったが駅前で手土産を買った。これからなら3時ごろには着ける。
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