第16話 小森君と由美さんとの話
月曜日、小森君が食堂にいた。すぐに隣の席に座った。
「この間はご招待ありがとう。ご馳走になりました」
「来てもらって話ができて楽しかった。一緒に帰ったけど、飯塚さんとはあれからどうなった?」
「土曜日に二子玉川で会って話をした」
「付き合い始めたのか?」
「友達ならいいと言われて、それですぐに誘ってみた」
「どうなんだ」
「どうって」
「彼女の気持ちはどうなんだ」
「良く分からないんだ。もしよかったら、小森君と由美さんが結婚するまでの話を聞かせてくれないか? それと由美さんから飯塚さんの話を聞いていないか? 差し支えない範囲でいいから」
「いいけど」
「仕事が終わってから小一時間でいいから、いつなら都合がいい」
「今日は会議もないから6時半くらいなら大丈夫だ」
「それなら、駅前の居酒屋で6時半にどうだ。僕が奢るから」
「じゃあ、その時に」
◆◆◆
僕が居酒屋の席に着くとすぐに小森君が現れた。相変わらずしっかりと約束の時間を守ってくれる。小森君は帰ってから食事をするというので簡単なつまみとビールを頼んだ。由美さんには僕と少し飲むことになったと言ってあるそうだ。すぐに乾杯して飲みながら話し始める。
「僕たちのことを話す前に、植田君と飯塚さんの関係を教えてくれないか? 前から知り合いだったようだけど」
そういわれて、僕は小森君に小山部長に紹介されたお見合いから破談までのいきさつや、その後交際を申し込んで断られたことなどを話した。
「良く分かった。二人はこのまま付き合っていけばいいと思う。僕にはそう思える」
「そう思うか?」
「ああ、僕たちの付き合いと似たところがあるから」
「それじゃあ、小森君と由美さんとの話を聞かせてくれないか」
小森君と由美さんは聞いていたとおり、小森君が仕事で彼女の勤める関連会社に1か月間通っていた時に知り合った。どこかよそよそしいところがあったので、始めは由美さんに関心はなかったそうだ。
ただ、頼んだ仕事はしっかりしてくれて、よく気が付いて、ずいぶんと仕事の能率が上がったそうだ。それで次第に由美さんのことが気になり出したという。
2週間ほどしたころに、仕事が遅くなって、一緒に帰ることになった。申し訳ないと思って、帰りに食事をご馳走しようと誘ったそうだ。最初は遠慮して断ったそうだが、どうしてもと言うと、断るのもまずいと思ったのか、付き合ってくれたという。
それで駅前のファミレスで食事をしたそうだ。それが次の日、会社で二人が付き合っているとの噂が広まっていたそうだ。
由美さんはすぐに小森君に二人のことが噂になっているので、小森さんに悪い噂が立つのは申し訳ないから、もう誘わないでほしいと言ったそうだ。小森君は自分の不用意な行動で由美さんに迷惑をかけたと謝ったという。
それでしばらくは由美さんを誘ったりはしなかったそうだ。ただ、段々と彼女のことが気になっていったようだ。もうあと1週間で終わりという時に、また彼女に無理を言って誘ったそうだ。誰にも見られないように、今度の場所は会社から随分離れた駅にしたそうだ。
そこで、由美さんに交際を申し込んだという。由美さんはかたくなに交際を拒んだと言う。それでもあと1週間しかないので、それからは毎日、人目を避けて交際をお願いしたそうだ。
セクハラと言われても申し開きができないと思ったと言う。でもそう訴えられたら諦めようと思っていたそうだ。小森君は本気だった。由美さんはセクハラと訴えなかった。由美さんは迷っていたと後で聞いたという。
以前に技術指導で来ていた関連会社の人にやはりアシスタントとして手伝っていた時にも手伝い始めてしばらくしてすぐに交際を求められたことがあったそうだ。成り行きで承知したらすぐに身体を求められたという。
それですぐに交際を断ったそうだ。そうしたら、仕事ができないとか言われて、手伝っていた3か月ほどの間は辛い思いをしたという。
由美さんはそういうこともあって、はじめは小森君を信用できなかったようだ。ただ、由美さんも小森君の真面目な仕事ぶりを見ていたので好意は持っていたそうだ。
それに小森君とは釣り合いがとれないから、交際の申し込みが信じられなかったようだ。遊び相手として交際を求めていると疑ったそうだ。交際を始めても親会社に戻ってしばらくしたらきっと別れを切り出されると思ったそうだ。
小森君に由美さんのどこが気に入ったのか聞いてみた。由美さんは真面目で仕事をしっかり手伝ってくれた。それにいつも手作りのお弁当を持って来ていたという。また、身なりもきちんとしていて、でも派手なところがなくて好感が持てたという。
理由を聞いたらお給料が少ないので工夫していると言っていたそうだ。こういう娘が奥さんになってくれたら安心だと思ったそうだ。
目的の調査が終わる最後の日に、もう噂になってもいいからと、強引に食事に誘ったという。由美さんは来てくれた。そこで交際をお願いしたらようやく受けてくれたという。その時に奈緒さんから助言を受けたようだ。自分に正直にならないと後悔すると言われたらしい。
それからは、ほとんど毎週会ってお互いの理解を深めたと言う。でも結婚まで小森君とは身体の関係はなかったという。由美さんがかたくなにこだわったという。小森君は奈緒さんからのアドバイスだと思うと言っていた。でも結婚できたので、それはそれでよかったとも言っていた。
それから、これはほかの人には絶対に内緒だからと話してくれた。まあ、のろけというか自慢話と思っている。初めて抱いたときに、由美さんはとても敏感な身体をしていることが分かったという。ちょっと触れただけでも飛び上がるほどだったそうだ。それをすごく恥ずかしがって、淫らな女と思われることが心配だったと言ったそうだ。
由美さんは奈緒さんも同じような悩みを抱えていたと言っていたという。だから二人はどこか気があって通じるものがあったのだろう。僕と小森君もどこか似ているところがある。
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